71 / 606
第1章 木こりと騎士は再会する
閑話 フェビル宛の手紙(前編)
しおりを挟む
「それでは、行って参ります」
「あぁ、気をつけて行って来いよ」
駐屯地での訓練開始当日。
騎士団本部の前で第一陣を見届けたフェビルは一瞬悔しそうな顔をすると、すぐさま何事にも無かったような顔でそそくさとその場を去った。
そして、その足で自分専用の執務室に入ると、そのまま特注の椅子に深く腰を掛けて大きく息を吐いた。
グレアの予想通り、最後の最後で宰相閣下の横やりがあったが、ヴィルマン侯爵のご助力の甲斐あって、王都勤めの騎士達の腐った根性を叩き直す機会が出来た。
「王都で出来ることはやった。あとはグレアに任せるとしよう」
それに、第一陣にはメストやシトリンが率いる隊もいる。何だかんだ優秀なあいつらがいるなら、グレアの良い手助けになるだろう。
再び大きく息を吐いたフェビルは、机の一番の下の引き出しに魔力を注ぐと、そこから少しだけ色褪せた横長の白い封筒を取り出した。
何度見ても、この手紙を開ける時は緊張するな。
少しだけ眉間に皺を寄せたフェビルは、封筒から中身を取り出すと何度も見返した手紙に目を通した。
【フェビル・シュタール第二騎士団長殿
突然の手紙、大変失礼した。
そして、君に謝りたい。
『第二騎士団長のままでいい』という君の希望に添えぬまま、君を近衛騎士団長に任命してしまったことを。
そして、この手紙が届く頃には、私は君の知っている私では無くなっていることを。
現場主義の君にとって、このような酷で複雑な立場を強いてしまうのは悔やんでも悔やみきれない。だが、今の私には守る術がなくなってしまった……いや、やつに奪われてしまった。
全ては愚かな私は招いたこと。本当は、すぐにでも天に自らの命を差し出さなければならないのは、重々分かっている。
でも、私は滅びの一途を辿ろうとしている王国を見捨てることは出来ない。
私はこの王国のことを愛しているのだから。
こんな私のことを『身勝手だ』と罵っても思っても構わない。私のことを心底憎んでもいい。
私の身勝手のせいで、君から大事な家族と離れさせるなどを強いてしまったのだから。
それでも、私は国のことを想う1人の民としてあなたに……魔物退治で培った強い絆で結ばれた信頼出来る部下達がいるあなたに国の命運をかけたい。
本当に身勝手だと思う。
でも、今の私にはこれが精一杯なのだ。
本当に情けない。
どうか、私の……いや、この国に本当の『王国の盾』が戻り、この国に再び平穏に戻るまで民のために戦って欲しい。
身勝手なお願いばかりをして本当にすまなかった。
ペトロート王国国王 コンラーク・フォン・ペトロート】
「陛下……」
何かに堪えるように奥歯を噛み締めると、丁寧に手紙を便箋に戻した。
そして、そのまま引き出しに入れると再び魔力を流した。
魔力を流したこの引き出しだけは、俺の魔力だけにしか開かないように細工をしてある。だから、この引き出しの中にあるものは俺以外には見ることは出来ない。
ちなみに、このことはグレアにも言っていない。
「いや、言えるわけがないか」
俺にとってあいつら大切な部下達で、誰よりも失いたくないものだから……
力なく笑ったフェビルは、そっと窓から見える澄み渡る青空に視線を向けた。
「陛下も、俺宛の手紙をしたためている時、このような気持ちで書いていたのだろうか?」
こんなにも苦しい気持ちで、第二騎士団団長だった俺に国の命運を託してくれたのだろうか?
文面から溢れていた後悔の念を思い出したフェビルは、そっと立ち上がるとそのまま閉め切られた窓際に手を添えた。
「陛下、現場主義の俺があなた様のご期待に応えられるような働きが出来るか分かりません。ですが、俺は俺なりのやり方であなた様のご期待に添えられるような働きが出来るよう、誠心誠意勤めていくことを今一度誓います」
『団長!! 早馬で陛下から手紙が!!』
『なにっ!?』
あの日、グレアが血相を欠いて俺のところに届けてくれた手紙に託した願いを無下にしないように。
「それに、俺だって待っていますよ……本当の『王国の盾』の帰還を」
だって俺は、あの人のお陰で今の地位にいるのだから。
「そのために、俺は奴の魔法を無効化する腕輪を身につけ、家族を妻の実家のある帝国に逃れさせ、部下を奴の人質に取られた状態であの方の作戦に協力している」
そう口にしたフェビルは、右手首にある銀色の腕輪に視線を落とすと、今の立場に立つきっかけをくれた偉大な恩人との出会いを思い返した。
「あぁ、気をつけて行って来いよ」
駐屯地での訓練開始当日。
騎士団本部の前で第一陣を見届けたフェビルは一瞬悔しそうな顔をすると、すぐさま何事にも無かったような顔でそそくさとその場を去った。
そして、その足で自分専用の執務室に入ると、そのまま特注の椅子に深く腰を掛けて大きく息を吐いた。
グレアの予想通り、最後の最後で宰相閣下の横やりがあったが、ヴィルマン侯爵のご助力の甲斐あって、王都勤めの騎士達の腐った根性を叩き直す機会が出来た。
「王都で出来ることはやった。あとはグレアに任せるとしよう」
それに、第一陣にはメストやシトリンが率いる隊もいる。何だかんだ優秀なあいつらがいるなら、グレアの良い手助けになるだろう。
再び大きく息を吐いたフェビルは、机の一番の下の引き出しに魔力を注ぐと、そこから少しだけ色褪せた横長の白い封筒を取り出した。
何度見ても、この手紙を開ける時は緊張するな。
少しだけ眉間に皺を寄せたフェビルは、封筒から中身を取り出すと何度も見返した手紙に目を通した。
【フェビル・シュタール第二騎士団長殿
突然の手紙、大変失礼した。
そして、君に謝りたい。
『第二騎士団長のままでいい』という君の希望に添えぬまま、君を近衛騎士団長に任命してしまったことを。
そして、この手紙が届く頃には、私は君の知っている私では無くなっていることを。
現場主義の君にとって、このような酷で複雑な立場を強いてしまうのは悔やんでも悔やみきれない。だが、今の私には守る術がなくなってしまった……いや、やつに奪われてしまった。
全ては愚かな私は招いたこと。本当は、すぐにでも天に自らの命を差し出さなければならないのは、重々分かっている。
でも、私は滅びの一途を辿ろうとしている王国を見捨てることは出来ない。
私はこの王国のことを愛しているのだから。
こんな私のことを『身勝手だ』と罵っても思っても構わない。私のことを心底憎んでもいい。
私の身勝手のせいで、君から大事な家族と離れさせるなどを強いてしまったのだから。
それでも、私は国のことを想う1人の民としてあなたに……魔物退治で培った強い絆で結ばれた信頼出来る部下達がいるあなたに国の命運をかけたい。
本当に身勝手だと思う。
でも、今の私にはこれが精一杯なのだ。
本当に情けない。
どうか、私の……いや、この国に本当の『王国の盾』が戻り、この国に再び平穏に戻るまで民のために戦って欲しい。
身勝手なお願いばかりをして本当にすまなかった。
ペトロート王国国王 コンラーク・フォン・ペトロート】
「陛下……」
何かに堪えるように奥歯を噛み締めると、丁寧に手紙を便箋に戻した。
そして、そのまま引き出しに入れると再び魔力を流した。
魔力を流したこの引き出しだけは、俺の魔力だけにしか開かないように細工をしてある。だから、この引き出しの中にあるものは俺以外には見ることは出来ない。
ちなみに、このことはグレアにも言っていない。
「いや、言えるわけがないか」
俺にとってあいつら大切な部下達で、誰よりも失いたくないものだから……
力なく笑ったフェビルは、そっと窓から見える澄み渡る青空に視線を向けた。
「陛下も、俺宛の手紙をしたためている時、このような気持ちで書いていたのだろうか?」
こんなにも苦しい気持ちで、第二騎士団団長だった俺に国の命運を託してくれたのだろうか?
文面から溢れていた後悔の念を思い出したフェビルは、そっと立ち上がるとそのまま閉め切られた窓際に手を添えた。
「陛下、現場主義の俺があなた様のご期待に応えられるような働きが出来るか分かりません。ですが、俺は俺なりのやり方であなた様のご期待に添えられるような働きが出来るよう、誠心誠意勤めていくことを今一度誓います」
『団長!! 早馬で陛下から手紙が!!』
『なにっ!?』
あの日、グレアが血相を欠いて俺のところに届けてくれた手紙に託した願いを無下にしないように。
「それに、俺だって待っていますよ……本当の『王国の盾』の帰還を」
だって俺は、あの人のお陰で今の地位にいるのだから。
「そのために、俺は奴の魔法を無効化する腕輪を身につけ、家族を妻の実家のある帝国に逃れさせ、部下を奴の人質に取られた状態であの方の作戦に協力している」
そう口にしたフェビルは、右手首にある銀色の腕輪に視線を落とすと、今の立場に立つきっかけをくれた偉大な恩人との出会いを思い返した。
5
あなたにおすすめの小説
【完結】公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました
鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」
そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。
しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!?
だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。
「彼女を渡すつもりはない」
冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!?
毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし!
さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜――
リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される!
政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー!
「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」
【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~
ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。
騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。
母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。
そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。
望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。
※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。
※表紙画像はAIで作成したものです
追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!
六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。
家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能!
「ここなら、自由に生きられるかもしれない」
活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。
「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」
偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~
咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】
あらすじ
「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」
聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。
彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。
しかし、エリーナはめげなかった。
実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ!
北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。
すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。
「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」
とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。
以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。
最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています
如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」
何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。
しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。
様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。
この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが……
男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる