木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第71話 1ヶ月ぶりの帰還

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 魔物討伐から1か月後、陽光降り注ぐ王都の大通りを大勢の騎士達が馬に跨って駆けていく。
 この日、メスト達のいる特別訓練第一陣が駐屯地から帰ってくる日である。
 この1ヶ月間、フェビルとグレアが組んだ特別訓練を受けつつ、駐屯地近くに現れた魔物の討伐をしていた騎士達は、無事に王都に帰還出来て安堵していた。


「何だか、王都に来るのが久しぶりに思っちゃうね。1ヶ月間、辺境近くの駐屯地に籠って訓練していたからかな?」
「そうじゃないか」


 王都の門をくぐったシトリンが王都の美しい街並みを見て、柔和な笑顔で感想を呟くと、その隣を走っていたメストが素っ気なく返す。
 それが気に入らなかったシトリンは、心底つまらなさそうな顔で隣に視線を向ける。


「ねぇ、メストは、『久しぶり』って感じはしない?」
「いや、特には。たかが1ヶ月だしな」
「はいはい、そうですか」


 (こういうところは本当に素っ気ないよね。本当、ダリア嬢はこいつのどういうところに惚れたのやら)


「それに……」
「それに?」


 溜息をついたシトリンが小首を傾げると、何かを思い出したメストが小さく笑みを浮かべる。


「ようやく、あの人の弟子になれたんだ。1ヶ月なんて、あっという間だ」


 (あぁ、そう言えば、あの決闘がきっかけで、メストは彼の弟子になったんだよね)

 珍しく満足げな笑みを浮かべるメストに、シトリンは優しく微笑みかける。
 すると、前を走っていた騎士が何かに気づき、後ろにいるメストとシトリン、そしてメストのすぐ後ろにいるラピスの方に声をかける。


「おい! メストにラピス! 騎士団本部の前にいるご令嬢達って、お前らの婚約者様達じゃなねぇのか?」
「えっ!?……あぁ、本当だ。確か、ダリアから来たお茶会の誘いを断る手紙に今回の訓練のことを書いたが、まさかわざわざ出迎えに来てくれるとは」
「そうですね。おまけに、あいつも来るなんて珍しい」
「多分だけど、ラピスの方はダリア嬢に連れられて来たんじゃないかな?」
「「あぁ……」」


 (それに、第二騎士団にいた頃と違って、今回はメストがちゃんと王都に帰ってくるって知っているんだから、出迎えに来たんじゃないかな)

 納得の声をあげる2人に思わず苦笑したシトリンは、斜め後ろにいるラピスへ視線を向ける。


「それにしてもラピス、彼女に会うなんて久しぶりじゃない?」
「そうですね。ここ最近、お互いに忙しかったので会う時間が取れませんでしたし」


 涼しい顔で返しながらも、心なしか嬉しそうなラピスに、シトリンが微笑ましく思っていると、目の前から甘ったるい女性の声が聞えてきた。


「メスト様ぁ~! おかえりなさいませぇ~!」


 駐屯地から帰ってきた騎士達が次々と、騎士団本部前にある大きく立派な門をくぐり抜けていく中、綺麗な装飾が施された真っ赤なドレスに身を包んでいるダリアが、メストに向かって大きく手を振っている。

 (全く、ちゃんと帰ってくるって手紙に書いたのに、わざわざ出迎えにくるなんて)

 彼女の心底嬉しそうな笑顔を見て、思わず苦笑したメストは小さく手を振り返す。
 
 そして、ダリアの隣にいた白いローブ姿の女性がラピスに向かって小さく手を振ると、少しだけ照れくさそうな顔をしたラピスが門をくぐり抜ける直前に小さく手を振り返した。


 ◇◇◇◇◇

 
「メスト様ぁ~! 改めておかえりなさいませぇ~!」


 敷地内の馬屋に馬を預けたメスト達が足早に騎士団本部に入ろうとした時、入口で待ち構えていたダリアがメストに向かって思いっきり抱き着いた。


「こらこら、公衆の面前なのだから人前で抱き着くことは控えて……」
「えぇ~!? だってぇ、私ぃ、駐屯地に行ってしまわれたメスト様のことがずぅっと、ずぅっと、心配でぇ~」


 膨れっ面のダリアが上目遣いで見てくると、苦笑を漏らしたメストが彼女の頭を優しく撫でる。


「心配してくれてありがとう。俺も、ダリアが元気だったか心配していた」
「メスト様ぁ~」


 メストの紳士的な笑顔と甘い言葉に、機嫌を直したダリアは豊満な胸を押し付けるように、細身でありながらも体格の良い彼に更に強く抱き着く。
 すると、ダリアの隣にいた女性が小さく笑みを零す。


「フフッ、ダリアったら本当にメスト様のことが大好きなのね?」
「もちろんよ! だって、メスト様は史上最年少で近衛騎士の一部隊を任された『氷の騎士様』なのだから!」
「ダリア、その呼び方はやめてくれ。恥ずかしいから」


 氷属性の魔法を駆使して容赦ない攻撃をする姿とから『氷の騎士様』と呼ばれているメスト。
 そんな彼は、不本意な二つ名を聞いて耳を僅かに赤くして恥ずかしそうに顔を背けると、近くにいたラピスが白ローブの女性に近づく。


「カトレア、久しぶり」
「えぇ、久しぶり。元気そうね」


 そう言ってラピスに笑みを向けたのは、ラピスと同い年の幼馴染兼婚約者であり、王国でも指折りの美貌を持つ、ペトロート王国宮廷魔法師カトレア・ティヴリー子爵令嬢である。
 
 
「あぁ、そっちも元気そうだな」
「まぁね、なにせ私は、この国の『稀代の天才魔法師』だからそれなりにね。まぁ、私が元気じゃないとこの国の宮廷魔法師達が困っちゃうから」
「そう、だったな……」


 魔法学園卒業後、15歳という若さで魔法師のエリート集団である宮廷魔法師団に入団したことから、『稀代の天才魔法師』と呼ばれている。
 そんなの彼女の自信の満ちた笑みに、少しだけ複雑な顔をしたラピスが申し訳なさそうに顔を俯かせる。


「ごめんな。ここ最近、時間が取れなくて」
「良いのよ。あんたが近衛騎士として忙しいのは、自然と耳に入ってきていたし、私もここ最近頻発する魔物討伐で忙しかったから」
「そう、だな」


 (そう言って、こいつはいつも俺のことを気遣って……)

 悔しさに堪えるように拳を握ったラピスを見て、カトレアは燃えるような真っ赤で長い髪を後ろに流すと、貴族令嬢らしい上品な笑みを浮かべて自分より背の高い彼の肩を優しく叩いた。
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