木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第72話 余計なお節介

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「えぇっ!? カトレアったら、ここ最近ラピスに会っていないの!?」


 カトレアとラピスの会話が耳に入ったダリアは、信じられないといった表情で声をあげる。
 すると、一瞬眉をひそめたメストが2人の仲睦まじい雰囲気をぶち壊しにしたダリアを優しく諌める。


「こら、ダリア。ラピスとカトレア嬢は久しぶりの逢瀬だから邪魔するな」
「「おっ、逢瀬って……」」


 メストの言葉に、カトレアとラピスが揃って耳まで真っ赤にすると互いに顔を逸らす。
 そんな2人の甘酸っぱい雰囲気に、2人を幼いから知っているメストは小さく笑みを浮かべていると、機嫌を損ねたダリアが膨れっ面で抗議する。


「だって、2人は婚約者なのですよ!? しかも、私達とは違い、2人は王城内に勤めているのですから毎日会っていてもおかしくないのでは!?」
「確かに、ラピスとカトレアは王城内で働いているが、近衛騎士団本部と宮廷魔法師団本部はかなり離れているから気軽に会うことはほぼ出来ない。そもそも、カトレアは……」
「それに!!」


 2人が会っていないことに納得がいかないダリアは、メストの言葉を遮って彼を軽く突き飛ばすと、カツカツとヒールを鳴らしながらカトレアに詰め寄る。


「カトレアは私の同じ貴族令嬢! 公爵だろうと子爵だろうと、婚約者のいる貴族令嬢ならば、自分から忙しくている婚約者のところに行くことが当然なのでは!?」


 公爵令嬢であるダリアが、子爵令嬢であるカトレアに対して厳しいことを口にする。
 それを聞いたカトレアは、貴族令嬢らしい気品ある笑みを浮かべると、ラピスから離れてダリアに向き直る。


「確かに、あんた……がおっしゃるように、婚約者持ちの貴族令嬢ならば、自ら足を運んで会いに行くのが当然かと思います」
「そうよね!? それなら……」
「ですが」


 友の言葉遣いが他人行儀のものになったことに全く気付かず、なぜか勝ち誇ったような笑みを浮かべるダリアの言葉を遮り、カトレアは優雅な仕草で片手を口元に当てると笑みを深める。


「ここでの私は、貴族令嬢である前に宮廷魔法師団の一員。それも、『稀代の天才魔法師』というありがたい称号を陛下から賜っている身なのです。故に、多忙な身なれば婚約者としての務めが果たせないのです」


 ラピスの婚約者であるカトレアは、幼い頃にがきっかけで、子爵令嬢として貴族のマナーを身につける傍ら、魔法師としての勉強や鍛錬を欠かさずこなす。
 その努力が実を結び、若干12歳で魔法師を育成する魔法学園に入学する頃には、ティヴリー家が得意としている火属性の上級魔法が使えるようになっていた。

 そこから更に努力を重ね、カトレアは15歳で学園を卒業する時、並大抵の努力では習得が不可能である火属性の超級魔法を習得した。
 そのことが国王の耳に届き、彼女は学園卒業と同時に国王から『稀代の魔法師』の称号を賜り、15歳という若さでエリート魔法師だけが入団することを許される宮廷魔法師団に入団する。
 
 その後、カトレアは国を守る宮廷魔法師として、各地に出現した強力な魔物達を他の宮廷魔法師達や王国騎士団と共に討伐したり、魔法による更なる発展に尽力したりと多忙な日々を送っている。

 ちなみに、カトレアを始めとする宮廷魔法師達が、リアスタ村近くに現れた魔物の討伐に参加しなかったのは、近衛騎士団団長であるフェビルから『訓練の一環にしたいから手伝わないで欲しい。もし、騎士団で対処出来ない強力な魔物が出た場合、宮廷魔法師団に要請する』と言われたからである。


「ふ~ん、そう言えばあなた、『稀代の天才魔法師』って呼ばれていたわねぇ~」


 『今思い出したわ~』と言わんばかりに心底つまらなそうな顔をするダリアに、カトレアが淑女としての笑みを絶やさずにいると、ダリアの傍に控えていたダリアの侍女が彼女の耳元に囁く。


「お嬢様、そろそろお茶会の時間が……」
「あら、そうだったわ。確か今日、お父様と親交が深い貴族のご令息様達が屋敷に来るんだったわね」


 侍女に囁かれ、用事を思い出して心底嬉しそうな顔をするダリアの口から『令息』という言葉が発せられ、婚約者のメストが少しだけ険しい顔をする。
 そんな婚約者の異変に全く気づかないダリアは、機嫌を直して公爵令嬢らしく誰もが見惚れるな笑みを浮かべると、4人に向かって綺麗にカーテシーをする。


「それでは皆様、用事を思い出しましたので、これで失礼いたします。いかんせん、私も忙しい身ではありますから」


 そう言って、ダリアが侍女を連れてその場を後にしようとした時、カトレアと視線が合い、何かを思い出したダリアがカトレアに顔を近づける。


「カトレア。あなたが『稀代の天才魔法師』だろうと、何だろうと貴族令嬢には変わりはないわ。だから、魔法で遊んでいる暇があるなら、積極的にお茶会などに参加し、婚約者を持つ貴族令嬢として婚約者のために顔を立てて人脈を作りなさい」
「っ!?」


 ダリアの棘の含んだ忠告を聞いて、カトレアが一瞬顔を強張らせると、それに気づいたラピスが咄嗟にカトレアの手を引いて庇い、ダリアを睨みつける。
 それを見てなぜか気を良くしたダリアは、今度はメストの方に視線を向ける。


「それと、メスト様。先程、公爵令嬢である私に対しての苦言は、全てお父様に言いつけますので。それと、既にご存知かと思いますが、お父様はメスト様の訓練参加に心底反対なされていました。ですので、もしかするとその件に関しても追求されるかもしれませんね」
「…………」


 (『苦言』って、ただ俺は、久しぶりに会った2人に対して、水を差すようなことを言ったダリアを諌めただけなのだが)

 眉間の皺を深くしたメストが静かに頷くと、満足げな笑みを浮かべたダリアは、今度こそ侍女を連れてその場を後にした。
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