木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第73話 カトレア・ティブリー

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「あ~あ、怒らせたね。これは、近いうちに呼ばれるんじゃないの?」
「そうだろうな」


 ダリアの背中を見届け、シトリンのからかい交じりの言葉を聞いたメストは溜息をつく。

 ダリアの父でペトロート王国宰相のインベック公爵は、娘のことを心底溺愛しており、婚約者であるメストがダリアを不機嫌にさせると、メストを謁見の間に呼びつけて国王と噓泣きをするダリアの前で叱るのだ。

 (そう言えば、この前も『ダリアがせっかくお茶会に誘ったのに、騎士の職務で足蹴にするとは……君は、宰相家令嬢の婚約者である自覚があるのか!?』って怒られた。だが、前まではあんな。それに、彼女もはず)


「一体、どこですれ違ってしまったのか?」


 これから訪れる面倒事に、メストが再び溜息をつく。
 その隣で、ダリアから魔法師のことを軽んじられ、顔を俯かせたカトレアが悔しそうに下唇を噛んでいると突然、彼女の華奢な肩に温かくて大きな手が乗った。


「大丈夫か? カトレア」


 周囲には聞こえない小声で囁かれ、驚いて大きく目を見開いてカトレアが顔を上げると、そこにはラピスが心配そうにこちらを覗き込んでいた。

 (っ!? どうして、あんたがそんな顔するのよ? あんたに対して言ったわけでもないのに)

 自分のことのように傷ついた顔で心配するラピスを見て、顔を歪めそうになったカトレアは、不意にラピスに言われたことが蘇る。


『カトレア。お前が魔法師として国を守るなら、俺は騎士としてお前と国を守る』


 (そうだ。私が魔法師を志していること家族が猛反対する中、あんただけが応援してくれたわね。あの子だって、のに……)

 幼い頃にラピスが交わしてくれた約束を思い出し、小さく笑みを零したカトレアは、心配そうに見てくるラピスの肩を力いっぱい叩いた。


「痛っ! てめぇ、人がわざわざ心配してやっているに!」
「うるさいわね! あんたのような一介の近衛騎士に心配されるような私じゃないのよ! なにせ私は、『稀代の天才魔法師』なんだから!」
「何だよ、それ」


 『心配して損した』と不貞腐れるラピスに、再び笑みを零したカトレアは、つま先立ちでラピスの耳元に囁く。


「でも、心配してくれてありがとう」
「なっ!?」


 ラピスが慌てて真っ赤になった耳を塞ぐと、それを見たカトレアは勝ち誇ったように笑った。


 ◇◇◇◇◇

 
 久しぶりに会ったカトレアとラピスの微笑ましいやり取りに、少し離れた場所で見ていたシトリンは、会話が途切れたタイミングでそっとカトレアに近づく。


「ところで、カトレア嬢はどうして騎士団本部に来たのかな? 魔物討伐などで忙しい稀代の天才魔法師様が、わざわざ一介の近衛騎士に会いたくて来たとは思えないんだけど」


 急に気恥ずかしくなって顔を背けるラピスをよそに、カトレアはシトリンに向かって貴族令嬢らしい上品な笑みを浮かべる。


「それはもちろん、仕事の一環で騎士団本部に用事があったからです。あっ、でも出迎えに来たのは、『今からメスト様が帰って来られるから出迎えに行くわよ!』とダリアに半ば強引に連れられたからですので」
「アハハッ、やっぱりそうなんだね」


 (さすがの稀代の天才魔法師様でも、宰相家令嬢の言葉には逆らえないよね)

 貴族令嬢らしからぬダリアの自由奔放ぶりが脳裏を過り、カトレアとシトリンが揃って苦笑していると、シトリンの隣で黙って聞いていたメストが首を傾げる。


「それで、『仕事』って何の仕事だ?」
「そうだね。宮廷魔法師がわざわざ騎士団本部に仕事で来るって、よっぽどだと思うんだけど」


 メスト達が所属している騎士団の本部と、カトレアが所属している宮廷魔法師団の本部は、城を挟んで正反対の場所に置かれて距離的に遠いため、余程のことが無い限り訪れることは無い。

 メストの言葉に同意したシトリンも首を傾げると、気品溢れる貴族令嬢の笑みを浮かべていたカトレアが、急に宮廷魔法師の凛とした表情に変わった。


「先日の魔物討伐で回収した魔石の引き取りです」
「そう言えば、今回の魔物討伐に宮廷魔法師団は参加していなかったね」
「そういうことです。ちなみに、私が引き取り役として来たのは団長から直接指名されたからです」
「なるほどね」

 
 魔物討伐がある度に、宮廷魔法師団は事後処理の一環として魔石を回収している。

 それは、魔物の出現場所と出現した魔物が種類や個体数の調査することで、今後の対策と魔法研究に利用するためである。
 
 特に、メスト達が魔物討伐していた森は、滅多に魔物が現れない場所の1つであるため、魔石の回収は必須とされていた。

 (団長からの指名とあれば、引き受けるしかないよね。とはいえ、本当はラピスに会わせたかっただけなんだろうけど)
 
 宮廷魔法師団長の思惑を見通し、シトリンが僅かに笑みを綻ばせていると、メストが騎士団本部の方を見た。

 
「それなら、先に戻った騎士達が宮廷魔法師団本部に持って行っていると思う。駐屯地を出発する前、うちの副団長が指示していたから」
「そうでしたか。では、急いで戻らないといけませんね。お2人とも、失礼いたします」
「おう、ご苦労さん」
「お疲れ様。気を付けて」


 メストとシトリンから労われ、宮廷魔法師しか身につけることが許されない金のシンプルな装飾が施された純白なローブ姿で綺麗なカーテシーをしたカトレアは、隣で俯いたままのラピスに視線を向ける。


「ラピス、くれぐれも上司の方々や先輩達に迷惑をかけないでね」
「うるせぇ、分かっているよ」


 更に不貞腐れた婚約者に、優しく微笑んだカトレアは、三人に背を向けると足早にその場を後にした。

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