木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第82話 婚約者とのこれから

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「でもまぁ、カミル君もメストの鍛錬に最後まで付き合ってくれたね」
「確かにそうですね」


 メストの話を聞いたシトリンとラピスは、改めてカミルがメストの鍛錬に付き合ってくれたことに驚きが隠せなかった。
 
 (騎士嫌いの彼のことだから、鍛錬初日に『やっぱり止めます』って言ってあっさり終わるのかと思っていた。けどまさか、訓練最終日まで付き合ってくれていたなんて……彼って意外とメストに似てお人好しだったりして?)


「おい、さっきも言ったが最後じゃない。王都に帰って来てからも鍛錬は続けるぞ」
「はいはい。それは、ちゃんと聞いたから」


 不満げな顔でこちらを睨むメストに、小さく肩を揺らしたラピスはコーヒーを淹れてご機嫌を取ろうと席を立つ。
 そんな部下の背中を一瞥して、小さく笑みを零したシトリンは大きく伸びをするとそのまま背もたれに体を預ける。


「でもさぁ、やっぱり最終日まで『鍛錬を続ける』ことを言わなかったのはどうかと思うよ。1ヶ月もあったんだから、言うチャンスだっていくらでもあったはずでしょ?」
「うぐっ……そう、だな。それに関しては反省している」


 (あれっ? メストが訓練や魔物討伐以外で落ち込むなんて珍しい。婚約者を怒らせた時も涼しい表情をしているのに……)

 今朝のことを思い出して落ち込んでいる親友を見て、シトリンが不思議そうに首を傾げていると、席を立っていたラピスがコーヒーの入った3人分のマグカップを持って戻ってきた。


「コーヒー淹れました……って、隊長どうしたんですか?」
「ありがとう、ラピス。それが『やっぱり最終日まで『鍛錬を続ける』ことを言わなかったのはどうかと思うよ』って言ったら……」
「あぁ、なるほど」


 シトリンの話で納得したラピスは、俯いたまま動かないメストの前にある机の上にそっとマグカップを置いた。


「確かに、シトリン副隊長のおっしゃる通りだと思います。ですが……隊長が王都に戻られても『鍛錬が続けても良い』と言ってくれたことを彼の寛大さに感謝して喜びましょう」
「ラピス……」


 ゆっくりと顔を上げたメストに、ラピスは励ますように小さく笑みを浮かべる。
 そんな2人を見て、小さく溜息をついたシトリン少しだけ呆れたような笑みを零す。


「そうだね。今回は明らかにメストに落ち度があるけど、騎士嫌いの彼がメストお願いを聞いてくれたんだから、とりあえず今は喜ぼうか」


 (それだけ、メストと彼の距離が縮まったってことなんだから)

 親友と部下の言葉に、落ち込んでいたメストはようやく笑った。


「そ、そうだよな! 一先ず、明日からも変わらず鍛錬出来ることを喜んで良いんだよな?」
「そうだね」
「はい」


 安堵のあまり深く椅子に腰かけたメストを見て、シトリンとラピスはお互いに目を合わせると揃って小さく肩を竦ませる。
 そして、シトリンはメストに視線を戻した。
 

「それに、鍛錬に入れ込み過ぎてダリア嬢をほったらかしにしなければいいんじゃない?」
「そうですね。まぁ、そんなことをしたら即座に宰相閣下から呼び出しが来そうですけど」


 (自由奔放なダリア嬢でも、婚約者をほったらかしにして他の人と一緒にいるなんて面白くないだろうし。例え、その相手がメストと同じ男性でも)

 カトレアと一緒に騎士団本部前で待っていたダリアを思い出し、シトリンとメストが思わず苦笑すると、メストがすごい剣幕で椅子から勢いよく立ち上がった。

 
「当たり前だ! どこの世界に婚約者をほったらかしにして鍛錬に熱を入れる奴がいる!」
「いや、そうなんだけど……でも、鍛錬じゃなくても婚約者をほったらかしにする奴はどこの世界にもいると思うよ。ねぇ、ラピス?」
「そうですね。貴族の間ではたまに耳に入る話ですし」
「そ、そうだな」


 (確かに、世の中にはそんなクズな男もいるんだった。とはいえ、俺は鍛錬を理由にダリアを泣かせるようなことは絶対にしないが!)

 シトリンとラピスの話を聞いて、頭が冷えたメストは静かに腰を下ろし、近くにいたラピスに対してコーヒーの礼を言って、マグカップに口を付けようとした。
 その時、カミルに言っていなかった大事なことを思い出す。


「そういえば俺、カミルに『休みの日はカミルの家に泊まるから』って言うのを忘れていた」
「「はっ?」」
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