木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第83話 騎士を目指した理由

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「……メスト。今、僕の話聞いていた? 『鍛錬に入れ込み過ぎてダリア嬢をほったらかしにしなければいいんじゃない』って言ったんだけど?」
「「っ!?」」


 冷たい笑顔を浮かべたまま周囲に極寒のブリザードのような殺気を吹き荒らすシトリンに、メストとラピスが揃って顔を引き攣らせる。

 (幼い頃から思っていたが、こいつが本気で怒ると周囲の空気が氷属性の魔法を使った後のように凍てついて怖いんだよ! こいつの得意な属性は風属性なのに!)


「そ、それは! 『鍛錬に入れ込み過ぎてダリア嬢をほったらかしにしなければいい』って話だろ!? 言っておくが、俺は鍛錬を理由にダリアをほったらかしにするつもりは毛頭ない!」
「そうだよね。でも、どうして休日にカミル君の住む家に泊まるのかなぁ?」
 

 (休日こそ、カミル君ではなくダリア嬢と過ごすべきなんじゃないのかな?)

 氷のような笑顔のまま席から立ち上がるシトリンに、メストは思わず後ずさる。


「それは、少しでもカミルと一緒に鍛錬する時間を長くしたくて……だ、だが! それは、ダリアから誘いが無かったら時の話だ! 彼女から誘いが来たら真っ先にそちらを優先する!」
「うん、それは婚約者としては当たり前のことだよね。でもさぁ、メスト……」


 ゆっくりとした足取りでメストの横に立った来たシトリンは、メストにそっと顔を近づける。


「自分から誘うなんてことはしないの? メスト、一応彼女の婚約者なのに?」
「そ、それは……」


 目が笑っていないシトリンの正論を聞いて、急に渋い顔をしたメストが少しだけ顔を俯かせる。


「王都に来てしばらく経った頃、1回だけ手紙を通して俺から誘ったことがある」
「へぇ~、1回だけとはいえ、ちゃんと婚約者らしいことをしていたんだね」
「うるさい」


 ブリザードのような殺気を放つことを止めたシトリンがニヤニヤと笑い始めると、仏頂面でダリアをデートに誘ったことを白状したメストが眉間の皺が深くした。


「そしたら、彼女がいきなり騎士団本部に来たんだ。そして、慌てて来た俺に対して『急にデートのお誘いをしないでください! 私にだって、公爵令嬢としての予定があるんですよ!』って怒ったんだ」
「あ~、そんなことがあったね。確か、彼女か帰った後、すぐに宰相閣下から呼び出されて怒られたんだったよね?」
「あぁ、その時のことがあってから、俺は自分から誘うことをしなくなったんだ」
「なるほどねぇ~」


 (あの時は、シトリンやラピス以外の騎士達にも迷惑をかけた)

 その時のことを思い出して納得したシトリンを見て、苦々しい顔をしたメストが静かに安堵する。
 すると、メストの脳裏に幼い頃の記憶が蘇った。


 ◇◇◇◇◇


 ――あれは、俺がまだ騎士学校に入学する随分前のことだった。
 
 
『誘ってくれたのに本当にすまない。突然、領内に大勢の魔物が現れて、それで……』



 領内の森に魔物が現れる度に、父上や叔父様がヴィルマン侯爵家直属の騎士団を引き連れて討伐に行き、俺は母上と共に屋敷の留守を任されていた。
 そして、その都度、俺は婚約者との約束や誘いを断っていた。


『仕方ありません。剣と魔法が思うように使えない領民の皆様にとって、剣と氷魔法に優れたヴィルマン侯爵家の皆様は頼みの綱なのですから』


 申し訳ない気持ちで深々と頭を下げる俺に、婚約者のダリアは……って、この子はダリアじゃない!
 確かこの子は、いつかに出てきただ!


『でも俺、まだ騎士見習いでもないから、母上と一緒に常駐している騎士や使用人達の手伝いしか出来なくて……』
『何を仰っているのですか! 屋敷に常駐している騎士様達や使用人達のお手伝いをしているってことは、メスト様のお父上であらせられるヴィルマン侯爵様は、お母上と同じくメスト様のことを頼りにしているということでしょ?』
『えっ? 俺、父上から頼りにされているのか?』


 普段は仏頂面で俺のことなんか一切褒めない父上が?

 ゆっくり顔を上げた俺に、銀髪の少女は優しく微笑んで頷く。


『はい。そうでなければ今頃、メスト様は約束通り私とお茶会に行っていますから』


 そう言うと、銀髪の少女は俺の両手をとり、そのまま自分の両手で優しく包み込んだ。


『それにメスト様、これは私のお父様から聞いたことなのですが……騎士様の使命とは、弱者を守り、誰かの支えになることなのです』
『そうなのか?』
『はい! ですから……』


 小首を傾げる俺に、彼女は自信に満ち溢れた笑みを浮かべながら俺の背中を押す。


『屋敷にいる騎士様達や使用人達の支えになっているメスト様は、立派に騎士としての使命を果たされているのです!』


 貴族令嬢とは思えないほどお転婆で男勝りな彼女は、俺に騎士としての使命を与えてくれた唯一無二の子だった。
 そんな彼女の力強い言葉を聞いて、俺は改めて誓ったんだ。

『気高い彼女の隣に相応しい騎士でありたい』と。

 それが、俺が騎士を目指す理由だった。
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