木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第85話 泊まらせる?

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 ――それは、木こりにとってまたしても青天の霹靂だった。


「今、何とおっしゃいましたか?」


 駐屯地から王都に戻って翌日、メストは約束通りカミルとの鍛錬に励んだ。
 
 約束通りに来るとは思わず、内心驚いていたカミルだったが真剣な表情で鍛錬に取り組む彼を見て少しだけ嬉しかった。
 けれど、鍛錬終わりに言われた彼の一言にそんな気持ちがあっという間に吹き飛んだ。

 (今、『休みの日は家に泊まりたいと思っているんだが』って聞こえた気がするんだけど)


「あぁ、俺が休みの日……いや、正確には休日の前夜にカミルの家に泊まりたいんだが、どうだろうか?」


 鍛錬の時と同じ真剣な表情で言うメストに、ハンドタオルで軽く汗を拭いていたカミルは、思わずそれを落としてしまった。

 (やっぱり聞き間違いじゃなかった。けれど、突然どうしてそんなことを……?)


「あ、あの……どうして突然そのようなお願いをされるのか、教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、もちろん……と言っても、単に俺がカミルとの鍛錬の時間をもっと増やそうと思ったからだ」
「そう、なんですね。ですが、あなた様が休みでも私には木こりとしての仕事がありますから、鍛錬の時間を増やすというのは……」
「だからなんだ!」
「っ!」


 (ち、近い!)

 目を輝かせながら近づいてきたメストに、少しだけ顔を赤らめたカミルが思わず後ずさる。


「それを含めて、俺にとっての鍛錬なんだ!」
「……すみません、騎士様のおっしゃりたいことがよく分かりませんので、具体的に教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、すまない。つい熱くなった」
「い、いえ……」


 (初めてお会した時には既に凛々しい顔立ちをされていたけど、お会いしていない間に、凛々しさに磨きがかかって更には色気まで備わり、アイマスク越しじゃないと心臓に悪い……って今はそういうことを考えている場合じゃないわ!)

 申し訳なさそうに顔を俯かせるメストを見て、少しだけ『可愛い』と思ってしまったカミルは、軽く咳払いをするといつもの無表情に戻す。
 すると、カミルの咳払いに気づいたメストが顔を上げると落ち込んだ表情を一気に引き締める。


「随分前に、士団本部にいつも物資を運んできてくれる者に聞いたのだが、木こりの仕事って大半が力仕事なんだろ?」
「そうですね。木を切ったり運んだりしますから」


 (まぁ、私の場合は運びやすいように切った木の表面を滑らかにするけど。それに、身体強化の効果が付与されたグローブと劣化防止の効果が付与された斧のお陰で、重労働である木こりの仕事で体を壊したことは一度も無い)

 カミルが木こりの仕事であまり苦労をしていないと知らないメストは、カミルの返事に再び目を輝かせたメストは彼との距離を一気に詰めると今度は彼の両手を掴んだ。


「つまりそれは、木こりとしての仕事をこなすのと同時に肉体強化の鍛錬をしているってことだよな!?」
「ま、まぁ、そういう捉え方も出来ますね」


 (だから、近いって!)

 更に頬を赤くするカミルに気づくこともなく、メストはキラキラとした笑顔をカミルに寄せる。

 
「だったら、俺にも木こりの手伝わせてくれないか? 泊まらせてくれるならそのお礼も是非ともしたいし、新しい自己鍛錬として試したい! もちろん、仕事の邪魔は絶対にしないと約束する!」
「え、あ、まぁ、そういうことでしたら……」
「本当か!? ありがとう!!」


 普段は騎士として真面目な表情を保ってるメストの、心底嬉しそうな顔で掴んだ両手を上下に振っているのを見て、頬だけでなく耳も赤く染めたカミルはそっと顔を背ける。

 (まだ、あなたが泊まることを了承していなんだけど……でもまぁ、木こりの仕事が良い鍛錬になっていることは間違っていないし、騎士として日々鍛えている彼が手伝ってくれるなら人出が増えるという意味で歓迎すべきことよね。でも……)

 満面の笑みを浮かべるメストに、カミルは彼の婚約者のことが気になり僅かに眉を寄せる。


「あの、1つ伺ってもよろしいでしょうか?」
「ん? 何だ?」


 (ま、眩しい! あと、さっきよりも近い!)

 満面の笑みのメストから至近距離に見つめられ、『これ以上は心臓が持たない!』と判断したカミルはが慌てて彼に拘束されていた両手を慌てて解放して距離をとる。
 すると、急に手を離されたメストは再び落ち込んだ表情になった。

 (そんな表情をしてもダメですからね!)

 捨てられた子犬のような顔で肩を落とすメストに心を痛めながらも、カミルはメストに向かって恐る恐る口を開く。


「こういうことを、平民である私が聞いても良いか分からないのですが……」
「何を聞きたいのか知らないが、カミルに聞かれて困ることは無いから何でも聞いていいぞ」
「っ!?」


 (全く、あなたって方はどうして何の躊躇いもそんなことを言ってしまうの!?)

 突然距離をとられ、落ち込みつつもどこか不貞腐れているメストから出た言葉に、胸を高鳴らせたカミルは心を無にすると聞きたかったことを口にする。


「では、遠慮なく。確かあなた様って、婚約者様がいらっしゃいましたよね?」
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