木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第86話 諦めのメストと怒りのカミル

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「あぁ、そうだな。って、知っていたのか?」


 (カミルに話したことなんて一度もなかったが)
 

「えぇ、手合わせの時、あなた様が婚約者様のことを話されていたのを聞いていましたから」
「あぁ、そうだったな」


 (あれっ? 前に話していた時は、とても愛しそうに彼女のことを話していたのにどうしたのかしら?)

 婚約者のことを話題に出した途端、乾いた笑いを漏らしたメストに、一瞬眉を顰めたカミルだったがすぐにいつもの無表情に戻す。


「それに、毎日のように王都の得意先に木材を卸していれば、あなた様のことを耳にすることはいくらでもありますし……実際に、あなた様が婚約者様と仲睦まじく歩いている姿を何度か見たこともありますから」
「確かにそうだな」


 カミルの話に合点がいったメストは、持っていた魔道具を懐に戻すとカミルに視線を移す。


「それで、聞きたいことって、もしかしてなくても『休日に婚約者と一緒にいなくてもいいのか?』ってことか?」
「そうです。よく分かりましたね」
「親友にも同じことを聞かれたからな」


 (親友って……あぁ、のことね。確かに、親友想いの彼ならメスト様のことを心配していそうだけど。でもまぁ、さすがの彼も『休日に平民の家に泊まることにした』なんて聞かされたら驚いたわよね)

 メストの隣で常に柔和な笑みを浮かべる彼のことを思い出し、カミルは少しだけ苦笑いを浮かべると、メストも同じように苦笑した。


「そういうことなら……一先ず大丈夫だと思う」
「『一先ず』と言いますと?」


 小首を傾げるカミルに、メストは苦笑しながら大丈夫な理由を話す。


「一応、休みの日が分かれば、婚約者として彼女をデートにも誘っている。だが、それに彼女が応じるかどうかは分からないんだ」
「そうなのですか? 婚約者であるあなた様からデートに誘われれば、喜んで応じそうな気もしますが」


 (しまった! 出過ぎたことを言ってしまった!)

 思ったことを口にしてしまい、カミルはメストに向かって深々と頭を下げる。
 

「申し訳ございません。出過ぎたことを申し上げました」
「いや、親友にも同じことを言われたし、カミルが疑問に思うのは当然だと思う」


 深々と頭を下げるカミルに、小さく首を振ったメストが力なく笑った。


「確かに、第二騎士団にいた頃は応じてくれたと思う。けれど近衛騎士になって王都に来てからここ最近、応じてくれないどころか『誘わないでください!』なんて言われて、誘うこと自体しなくなったんだ」
「っ!?」


 (あの女、婚約者としての自覚があるのかしら!?)

 怒りに堪えるよう静かに拳を握ったカミルは、情けない顔で笑っているメストの話に静かに耳を傾け続ける。
 

「とはいえ、今度からは鍛錬のこともあるから、この機会にまた彼女をデートへ誘ってみようと思うんだ」
「そうでしたか」


 (まぁ、話の流れから結果は分かり切っている気がするけど)
 
 
「万が一、彼女が応じてくれたらそちらを優先する。もちろん、彼女からのお誘いがあっても同じだ。だが、その時は事前にカミルにも伝えるようにする」
「まぁ、婚約者を放り出して鍛錬に力を入れるなんて……こう言っては何ですが、とても情けないことだと思いますし」
「そうだな。というか……」


 カミルからの辛辣な言葉に苦笑したメストは、まじまじとカミルのことを見つめる。


「平民なのに、貴族や騎士の事情を知っているんだな。国の方針で平民は貴族や騎士のことを学ぶ機会が少ないと聞いたことがあるが」


 (し、しまった!)

 笑みを浮かべながらも鋭い目つきで何かを探っているメストに、一瞬頬を引き攣らせたカミルは、軽く咳払いをして慌てて無表情に戻すと咄嗟に思いついた言い訳を淡々とした口調で話す。


「お得意様の中に貴族様向けのお店がありますので、そこの店主殿からたまに聞くのです」
「そうだったのか。それなら、知っていてもおかしくないな」


 (確かに、得意先の中に貴族向けの店があるなら、耳にしていてもおかしくないか。でもさっき、一瞬だけ動揺していた気がする。単なる俺の気のせいか?)

 カミルの言い訳に納得しつつも一瞬だけ見えた引き攣った表情に、メストが内心違和感を覚えていると、カミルが呆れたように小さく溜息をついて話を戻す。


「それにしても、あなたの婚約者様が『婚約者が休日に平民との鍛錬している』なんて知ったら、あなた様はただでは済まなさそうですね。その……愛情表現が凄い方ですし」


 (それに、あの女は平民をゴミ扱いしているから彼女のプライドが許さないだろう)

 僅かに眉を顰めるカミルを見て、メストは再び苦笑した。
 

「まぁ、そうだろうな。だから、最初から彼女に言うつもりはない」
「言うつもりがないのですか?」
「あぁ、そうだ」


 (婚約者に対しては殊更誠実な彼が隠し事をするというの?)

 眉間の皺を深くしたカミルに、メストは苦笑を漏らしながら小さく肩を竦める。


「実は、俺の婚約者様は俺の騎士団入りに猛反対していたらしい」
「反対されていたのですか?」
「あぁ、つい最近知ったことだが……何でも『俺の顔に傷がついたら、王国一の美しさを持つ自分とつり合いが取れなくなるから』だと」
「そんな……騎士様の傷は、国を守るために戦ったものなのですから、むしろ、誇っていいものではないのですか?」


 (『自分と釣り合わなくなるから嫌だ』なんて……そんなの、騎士である彼を愚弄しているとしか思えないわ!)

 再びこみ上げてくる怒りを抑え込もうとカミルは拳を強く握ると、一瞬目を見張ったメストはカミルに向かって優しく微笑んだ。
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