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第2章 木こりと騎士は鍛錬する
第88話 シトリンとラピスの不安
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「メスト、休日前に定時帰りなんて珍しいね」
休日前、浮足立つ気持ちを抑えながら仕事を早めに終わらせたメストは、いそいそと執務室を出た。
その時、後ろからシトリンに肩を掴まれ、そっと耳元で囁かれた。
「シトリンか。お疲れ」
「お疲れ。珍しいね、いつもは深夜まで残業するのに」
近衛騎士になってから残業をすることが多くなったメストだが、特に休日前は深夜まで残業をしている。
それを知っていたシトリンは、定時帰りするメストが珍しくて仕方なかった。
「もしかして、明日は久しぶりに彼女とデートだから今日は早めに帰るの?」
「お前、この前俺がダリアに直接断られたところを見ていただろうが」
「うん、勤務中のメストをわざわざ入口まで呼び出して、大勢の騎士達の見ている中で堂々とデートを断っていたね」
「あぁ、その後に彼女の父親に呼び出されて散々だった」
うんざりした顔をするメストに、シトリンは小さく笑みを零しながら、メストが珍しく定時帰りする理由を考える。
(ダリア嬢とのデートのためではないとなると、もしかして……)
僅かに眉を顰めたシトリンがメストにしか聞こえない声で囁く。
「もしかして、今から彼の家へ泊りに行くの?」
その瞬間、不機嫌さの増したメストが周囲に目配せするとシトリンを鋭く睨む。
「そうだ。だから離してくれ。急いでいるんだ」
「ふ~ん」
含み笑いを浮かべながら納得するシトリンに、彼から離れたメストは眉間の皺を深くする。
「何だよ、婚約者とのデートは無しになったんだから別に良いだろうが」
「そうだね。婚約者から『もう二度と誘ってこないでください!』って怒鳴られて断られたから、彼の家へ泊りに行ったって何の問題はない」
(本来、婚約者に使うはずだった時間を平民の彼に使う。だから特に問題はない。けれど……)
不機嫌さを増すメストに、冷たい笑みを浮かべたシトリンは脅すようにそっと顔を近づける。
「でも、彼女がこのことを知ったらどうなるか……分かっているよね?」
「分かっている」
(何せ、俺の婚約者はこの国の宰相家令嬢だから。ゆえに、このことを彼女に知られるわけにはいかないし、彼女から誘われたら彼女を優先させないといけない。本当は、カミルとの鍛錬を優先したいが……彼女の機嫌を損ねてはならない)
「お前こそ、ダリアにこのことを話していないよな?」
地を這うような声で問い質すメストの殺気に、執務室にいた騎士達全員が顔を強張らせる。
だが、目の前にいたシトリンだけは笑みを浮かべたままそっと離れる。
「まさか、メスト以上に会う機会の無い僕が彼女に話すわけがないじゃないか」
「そうか」
安堵したメストは、シトリンと執務室にいた騎士達へ挨拶すると足早に騎士団本部を後にした。
◇◇◇◇◇
「本当に分かっているのかな?」
(婚約者はこの国の宰相の娘だよ。もしも何かあったら、メスト1人の責任では済まされないかもしれないのに)
足取り軽く帰って行った親友の後ろ姿を見て、シトリンが小さく溜息をつくと、執務室から綺麗な瑠璃色髪の長身男が出てきた。
「副隊長。隊長は?」
「あぁ、メストなら彼のところに行ったよ」
「彼の……あぁ、例の彼のところに行かれたのですね」
シトリンの言葉に納得したラピスは、メストの帰って行った方に視線を向けると小さく溜息をつく。
「まさか、本当に行かれるなんて……このことをダリア嬢は知っているのでしょうか?」
「知らないんじゃないかな。むしろ、知らない方がいいかも。だって彼女、平民のことが心底嫌いみたいだから」
(幼い頃はそんな子じゃなかった気がするけど。でもまぁ、その平民と婚約者が仲良くしていると知ったら……あぁ、想像するだけで恐ろしい)
「ですね。自席からお2人のやり取りを見ていましたが、隊長の様子からして、もしかしなくてもダリア嬢には話していないでしょう」
「だろうね。僕がメストの立場だったら、僕もメストと同じことする」
「自分もすると思います。というか、騎士団にいる誰もが隊長と同じ立場になったら同じことをしますよ」
(『騎士団入りを応援していた婚約者が、実は騎士団入りに猛反対していた』なんてことはあまり無いことだと思うけど……それでも、生真面目で紳士なメストのことだから、僕らが心配しなくてもダリア嬢の誘いにはきちんと応じるはず)
休日前、浮足立つ気持ちを抑えながら仕事を早めに終わらせたメストは、いそいそと執務室を出た。
その時、後ろからシトリンに肩を掴まれ、そっと耳元で囁かれた。
「シトリンか。お疲れ」
「お疲れ。珍しいね、いつもは深夜まで残業するのに」
近衛騎士になってから残業をすることが多くなったメストだが、特に休日前は深夜まで残業をしている。
それを知っていたシトリンは、定時帰りするメストが珍しくて仕方なかった。
「もしかして、明日は久しぶりに彼女とデートだから今日は早めに帰るの?」
「お前、この前俺がダリアに直接断られたところを見ていただろうが」
「うん、勤務中のメストをわざわざ入口まで呼び出して、大勢の騎士達の見ている中で堂々とデートを断っていたね」
「あぁ、その後に彼女の父親に呼び出されて散々だった」
うんざりした顔をするメストに、シトリンは小さく笑みを零しながら、メストが珍しく定時帰りする理由を考える。
(ダリア嬢とのデートのためではないとなると、もしかして……)
僅かに眉を顰めたシトリンがメストにしか聞こえない声で囁く。
「もしかして、今から彼の家へ泊りに行くの?」
その瞬間、不機嫌さの増したメストが周囲に目配せするとシトリンを鋭く睨む。
「そうだ。だから離してくれ。急いでいるんだ」
「ふ~ん」
含み笑いを浮かべながら納得するシトリンに、彼から離れたメストは眉間の皺を深くする。
「何だよ、婚約者とのデートは無しになったんだから別に良いだろうが」
「そうだね。婚約者から『もう二度と誘ってこないでください!』って怒鳴られて断られたから、彼の家へ泊りに行ったって何の問題はない」
(本来、婚約者に使うはずだった時間を平民の彼に使う。だから特に問題はない。けれど……)
不機嫌さを増すメストに、冷たい笑みを浮かべたシトリンは脅すようにそっと顔を近づける。
「でも、彼女がこのことを知ったらどうなるか……分かっているよね?」
「分かっている」
(何せ、俺の婚約者はこの国の宰相家令嬢だから。ゆえに、このことを彼女に知られるわけにはいかないし、彼女から誘われたら彼女を優先させないといけない。本当は、カミルとの鍛錬を優先したいが……彼女の機嫌を損ねてはならない)
「お前こそ、ダリアにこのことを話していないよな?」
地を這うような声で問い質すメストの殺気に、執務室にいた騎士達全員が顔を強張らせる。
だが、目の前にいたシトリンだけは笑みを浮かべたままそっと離れる。
「まさか、メスト以上に会う機会の無い僕が彼女に話すわけがないじゃないか」
「そうか」
安堵したメストは、シトリンと執務室にいた騎士達へ挨拶すると足早に騎士団本部を後にした。
◇◇◇◇◇
「本当に分かっているのかな?」
(婚約者はこの国の宰相の娘だよ。もしも何かあったら、メスト1人の責任では済まされないかもしれないのに)
足取り軽く帰って行った親友の後ろ姿を見て、シトリンが小さく溜息をつくと、執務室から綺麗な瑠璃色髪の長身男が出てきた。
「副隊長。隊長は?」
「あぁ、メストなら彼のところに行ったよ」
「彼の……あぁ、例の彼のところに行かれたのですね」
シトリンの言葉に納得したラピスは、メストの帰って行った方に視線を向けると小さく溜息をつく。
「まさか、本当に行かれるなんて……このことをダリア嬢は知っているのでしょうか?」
「知らないんじゃないかな。むしろ、知らない方がいいかも。だって彼女、平民のことが心底嫌いみたいだから」
(幼い頃はそんな子じゃなかった気がするけど。でもまぁ、その平民と婚約者が仲良くしていると知ったら……あぁ、想像するだけで恐ろしい)
「ですね。自席からお2人のやり取りを見ていましたが、隊長の様子からして、もしかしなくてもダリア嬢には話していないでしょう」
「だろうね。僕がメストの立場だったら、僕もメストと同じことする」
「自分もすると思います。というか、騎士団にいる誰もが隊長と同じ立場になったら同じことをしますよ」
(『騎士団入りを応援していた婚約者が、実は騎士団入りに猛反対していた』なんてことはあまり無いことだと思うけど……それでも、生真面目で紳士なメストのことだから、僕らが心配しなくてもダリア嬢の誘いにはきちんと応じるはず)
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