木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第90話 有言実行

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 コンコンコン。


「ん? ステイン?」


 (どうしたのかしら? 夕食はまだなんだけど)

 いつものようにキッチンで夕飯の準備をしていたカミルは、鼻先で器用に窓をつつくステインに気づき思わず首を傾げる。


 コンコンコン。


「あ~、分かったからそこから離れて!」


 (そんなにお腹が空いたのかしら? それなら仕方ないんだけど)

 食欲旺盛なステインのおねだりに、思わず苦笑したカミルは、コンロの火を止めて火の魔石を取り出すとすぐ傍に置き、小走りで窓に近づいて開けた。


「ごめん、ステイン。あなたの夕飯はまだ作っていなくて……」


 すると、ステインが小さく嘶きながら森の方に向かって首を横に振る。


「森? まさか、魔物……って、現れたらペンダントが光るから違うわよね」


 (ステイン、一体どうしたのかしら?)


 何回も首を横に振る愛馬を見て、カミルが不思議そうに首を傾げる。
 その時、カミルの脳裏に昨日の鍛錬終わりのメストとの会話が蘇った。


『なぁ、カミル。明日、お前の家へ泊りに来るがどうすればいい?』
『でしたら、こちらで待っていてください。私が迎えに来ますので』
『良いのか?』
『構いません。勝手に森をうろちょろされて遭難されても困りますから』


「……まさか、メスト様が来たの?」


 顔を青ざめさせるカミルに、ステインは静かに頷く。


「えっ!? 本当に来られたの!? だとしたら急いで迎えに行かないと!!」


 (自分で言っておいて忘れるなんてなんたる失態! ありえない、ありえないわ!!)


「え、ええっと、とりあえず鍋に蓋をしてそれから……って、その前にアイマスクとベレー帽とグローブをつけないと!!」


 顔面蒼白で身支度と戸締りを済ませたカミルは、外に出るといつの間にか馬小屋の前で待っていたステインにいつもの鞍型の魔道具をつける。


「ステイン。悪いけど、全速力でメスト様のもとに連れて行って!!」


 『精神鎮静』の効果が付与されているアイマスクを付けているにもかかわらず、冷や汗をかいている主の命に従い、ステインは勝手知ったる夜の森の中を駆けた。


 ◇◇◇◇◇


「お待たせしてしまい、大変申し訳ございませんでした」
「いや、俺が早く来すぎてしまったから大丈夫だ。それよりも、大分汗を掻いているようだが……大丈夫か?」


 愛馬の全力疾走に必死にしがみついていたカミルを、メストが心配そうに見つめる。
 そんな彼の視線に気づき、慌てて無表情を取り繕ったカミルは額の汗を軽く拭うと颯爽と馬上から降りる。


「大丈夫です。あなた様が来るまで少しだけ鍛錬をしていたものですから」
「そうか」


 安堵するメストを見て、カミルは気まずさから思わず視線を外す。

 (言えるわけない。本当はあなたが泊まりに来ることをすっかり忘れていたなんて)

 主の嘘を咎めるようなステインの冷たい視線を背中で感じつつ、カミルは話題を変えようとメストの手荷物に目を向ける。


「それよりも、今日は大きめのバッグで来られたんですね」
「あぁ、一泊二日だからな。これくらいで十分だろう」


 (へぇ~、男性が泊まる時の荷物って、少し大きめなバッグ1つで十分なのね。女性の場合、一泊二日でも大きなトランクを1つは使うのに)

 手荷物の少なさに内心感心しつつ、カミルは手荷物を受け取ろうとメストに近づく。


「よろしければ、私の愛馬の背中に乗せましょうか?」
「良いのか? 俺としては持ったままでもいいのだが?」
「構いません。ここから私の家までは少し歩きますので」
「そうか、それならお言葉に甘えよう」


 月明かりに照らされるメストの優しい笑みに、少しだけ胸を高鳴らせたカミルは無理矢理口元を引き締めると彼から手荷物を受け取る。
 そして、それを鞍の上に置くと家から持ってきた太い紐で落ちないように括り付ける。


「今日は、行きだけ馬なんだな」
「えぇ、あなた様を我が家まで案内しないといけませんから」
「そうだよな。すまない。次からカミルの家に直接来られるよう、魔道具に登録しておく」
「別に、わざわざしなくても大丈夫ですよ。あなた様を迎えに来ることは面倒だとか思っていませんから」
「そうか……」


 (本当に面倒だなんて思っていないだけど……まぁ、この人が気にしいなのは今に始まったことじゃないわよね)
 
 申し訳なさそうな表情をするメストに、カミルは小さく溜息をつくとステインの手綱を持つ。


「では、我が家までご案内いたします」
「あ、あぁ……今日からよろしく」
「はい」


 メストが嬉しそうに微笑み、再び胸の高鳴りを感じたカミルは慌ててステインに声をかける。


「それじゃあ、ステイン。お家に帰ろうか」


 主の言葉に小さく嘶いたステインは、客人であるメストを我が家まで案内するように、ゆっくりとした足取りで森の中を歩き始める。
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