木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第93話 ようこそ、我が家へ

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「どうぞ」
「お邪魔します」
 
 
 我が家の鍵を開けたカミルは、雷の魔石の使って灯りを付けると後ろにいるメストを家へ招き入れる。
 
 
「おぉ、ここがカミルの家か!」

 
 思わず感嘆の声を上げたメストの視線の先には、1人に平民が住んでいるとは思えない程の広々とした空間が広がっていた。

 (必要最低限の家具しかなくて置いていない至ってシンプルな家だ。だが、掃除が行き届いていて良い家だ)

 目を輝かせながら部屋を見回すメストを横目で見て、人知れず安堵の溜息をついたカミルは、そそくさと靴を脱ぐと玄関先で立ったままのメストに話しかける。


「外からも見えたと思いますが、我が家は二階建てで、今いる一階は、食事を取ったり洗濯をしたりお風呂に入ったりしています」
「へぇ~、平民の家で風呂が入れるんだな」
「はい。火の魔石と水の魔石と浴槽が完備されている部屋があれば、平民でも家でゆっくりお風呂を入ることが出来ます」


 感心しているメストに、カミルは無表情のまま話を続ける。


「平民の場合、体を綺麗にしたい時は近くの大衆浴場に行くか、近くの水辺で水浴びをしています。ですが、住んでいる場所によっては大衆浴場や水浴び出来る場所が無い場所もあります」
「じゃあ、カミルが住んでいるこの場所は、大衆浴場や水浴び出来る場所が無いってことか?」
「そうです。ここは人里離れている場所。その場合、お貴族様や王族の皆様と同じように自宅にお風呂を作って身を清めています」


 (その分、魔石を多く使うから自宅にお風呂を作っている平民は滅多にいないんだけど)


「まぁ、私もここに来てから知ったんだけど」
「カミル、なにか言ったか?」
「いえ、何も」


 (いけない、メスト様がいらっしゃる間は気を引き締めないと!)

 誤魔化すように軽く咳払いしたカミルは、冷たい視線をメストの足元に向ける。

 
「それよりも、そろそろ靴を脱がれて入られてはいかがですか?」
「あ、あぁ、そうだった!」


 少しだけ様子のおかしいカミルを不思議に思いつつ、メストはカミルに促されて靴を脱いで律儀に揃えて家に入る。
 そして、カミルの後ろで掃除が行き届いた部屋を見回していると、メストの視界に部屋の奥にある魔道コンロと大鍋が入った。


「カミル、料理するのか?」
「え、えぇ」


 メストに料理のことを聞かれ、僅かに肩を揺らしたカミルは、彼の視線がコンロに向けられていることに気づき、背後のキッチンに目を向ける。


「先程も申し上げましたが、ここは人里から離れています。ですので、毎日三食自分で作っています」
「毎日三食作っているのか! それはすごい!」
「凄いのですか?」


 自炊していることをいきなり褒められ、首を傾げるカミルにメストは尊敬の眼差しで見つめた。


「あぁ! 俺の場合、騎士団の中にある食堂で三食済ませているから、自分で料理を作る機会が無くて」
「そういうことでしたか。ですが、貴族令息でもあるあなた様は、騎士団じゃなくても料理をすること自体あまりないのでは?」
「まぁ、そうだな」


 (でも、それはのよね。エドガスに料理を教えてもらうまでは、包丁なんてまともに持ったことが無かったから)

 照れくさそうに笑うメストを見て、カミルは在りし日のことを思い出す。
 

『エドガス、これでいいの?』
『あぁ、いけません! その持ち方だと、手を切ってしまいます!』


 慌てふためいている彼の顔が脳裏に蘇り、カミルが懐かしく思っていると、いつの間にかキッチンの前に立っていたメストがカミルにキラキラとした目で声をかける。


「なぁ、ちなみに今日の夕飯は何だったんだ?」
「シチューです。丁度、お得意様からお野菜をたくさんいただきましたから」
「おぉ!! シチューか! 俺、シチューが大好きなんだ!」


 (えぇ、わよ。でもまぁ、今日のことをすっかり忘れていたとはいえ、あなたをここに迎えるには丁度いいメニューで良かった)

 心底嬉しそうな顔をするメストに、僅かに笑みを零したカミルはすぐさまいつもの無表情に戻すとメストの隣に立つ。


「あと、付け合わせにサラダをと思っています。ですが、そちらはまだ手を付けていなくて、夕飯まではまだ少し時間がかかります」
「それなら、俺も手伝う……」
「ですので、夕飯が出来上がるまで間、あなた様には二階の客室に荷物を置いていただき、お風呂に入ってもらおうかと思います。いかがでしょうか?」


 メストからの手伝いの申し出を無理矢理遮ったカミルから提案に、メストは驚いたように目を見開く。


「えっ!? 俺が先に入っても良いのか!?」
「えぇ、お仕事でお疲れの上、慣れない道を歩きましたから、少しでも疲れを癒してもらおうと」
「まぁ、そういうことなら……お言葉に甘えて」


 そう言いつつ喜びが隠しきれないメストに、小さく口角を上げたカミルは、キッチンから離れて階段近くに置いてあるランタンに火の魔石を入れて灯りをともす。


「では、客室にご案内します」
「あぁ、よろしく頼む」


 にこやかな笑みを浮かべる彼を連れて、カミルは二階へ上がった。
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