木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第94話 泊まる上での注意事項

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「へぇ、二階は個室しかないんだな」
「そうですね」


 ランタンを持ったカミルに連れられ、二階に上がったメストは4つの扉を見て感心する。
 そんなメストを一瞥したカミルは、短い廊下を歩くとある扉の前に立ち止まる。


「こちらが、本日泊っていただくお部屋になります」
「ありがとう。何だかまるで、立派な宿屋に来たみたいだな」
「それにしては、随分とお客様思いではない宿屋だと思いますが」
「ハハッ、違いない」


 楽しそうに笑うメストに、僅かに目を伏せたカミルはランタンを持っている反対の手でポケットを探って鍵を取り出す。
 そして、扉を開けるとポケットから雷の魔石を取り出し、部屋の入口近くの窪みに魔石を嵌め込む。
 すると、窓から差し込む月明かりに照らされた部屋が一気に明るくなった。


「こちらです」
「失礼します……って、おぉ!!」


 カミルに促されて客室に入ったメストは、シンプルでありつつも綺麗に整えられている室内に目を輝かせる。


「シンプルながらも素敵な部屋だ! 俺は好きだぞ!」
「あ、ありがとうございます……」


 (まさか、ここまで褒めてもらえるなんて!)

 メストの『好きだ』に思わず頬を赤らめたカミルは、慌てて小さく息を吐くと無表情に戻してメストの方へ視線を戻した。


「本日、我が家へ泊まられるとのことでしたので、あらかじめお掃除しておきました」
「それで時間が欲しかったわけだな。本当にありがとう!!」
「いえ、これくらい当たり前のことですから」


 (まぁ、本当は家にしたくて時間が欲しかったなんだけど)

 メストが泊りに来るまでの1週間、カミルは自分の正体がバレないように一階に置いてある私物を二階の自室に移動させたり、空き部屋を客室に模様替えしたりするなどしていた。


「それと、夜になりますと二階の廊下はとても暗くなりますので、一階に降りられる際は、机の上にあるランタンと火の魔石を使って降りてきてください」
「分かった。わざわざ準備してくれてありがとう」


 本日何度目かのお礼を言ったメストは、持ってきた荷物を机の上に置くと、すぐ傍にあるシングルベッドの上に腰かける。


「おぉ、スプリングも効いていてシーツの肌触りも最高だ!」
「それは良かったです。あと、この部屋にある本棚の本は好きに読んでいただいても構いませんのでご自由にお読みください」
「ありがとう。この本もカミルが用意してくれたのか?」
「えっ? えぇ……まぁ、そう、ですね……」
「カミル?」


 (急に歯切れが悪くなったがどうした?)

 気まずそうに少しだけ顔を俯かせたカミルに、メストは眉を顰めながら首を傾げる。
 すると、軽く咳払いをしたカミルが視線を戻すと持っていた鍵をメストに渡す。


「こちらが、この部屋の鍵です。くれぐれも無くさないようにしてください」
「分かった。大切にする」


 カミルから鍵を受け取り、きつく握り締しめたメストは真剣な表情で頷く。
 それを見たカミルは、再び咳払いをすると家に泊まるにあたっての注意事項を伝える。

 それは、メストがこの家に泊まると分かってからずっと考えていたことだった。


「そして、この家に泊まるにあたってのいくつか注意事項があります」
「注意事項?」


 (そんなものまで作っていたのか。まぁ、他人様の家に泊まるから、それくらいあって当然だよな)

 
「はい。まず、二階に関しては客室以外の部屋にはに入らないでください。見られたら色々と困るものがありますので」
「分かった」
「あと、お風呂は1人ずつ入るようにします。これは……個人的な事情でありますので」
「そ、そうか。そういうことなら了解した」


 (俺としては、男同士なんだから別に一緒に入っても構わないと思うが……カミルって、とても几帳面なんだな。まぁ、単に俺が騎士の生活に慣れすぎてしまったから気にしないだけなのかもしれない)

 『本当は正体がバレたくないから』という切実な理由があるからなど知る由もないメストは、カミルからの注意事項を全て頭に叩き込んだ。
 

「では、私は今から夕食の準備……あぁ、その前にお風呂の準備をしないといけないですね。すみません、もう少し時間がかかりますので、あなた様はこちらでくつろいでいただいて……」
「ちょっと待ってくれ」
「どうされました?」


 (今日から俺は、休みの度にこの家へ泊まりに来る。ならば、家主であるカミルの手伝いをしないといけないだろうが!)

 不思議そうに首を傾げるカミルに、姿勢を正したメストが真剣な表情で恐る恐る口を開く。


「もし、もしカミルが迷惑でなければ、俺も風呂か料理を手伝ってもいいか?」
「それは、とてもありがたい申し出ではあります」
「なら……!」
「ですが、先程も申し上げましたが、お仕事や慣れない道を歩いてお疲れですので、ゆっくりされた方がよろしいかと」


 (木こりと違い、騎士はかなりハードな仕事だって聞いたことがある)

 騎士であるメストのことを気遣うカミル。
 そんなカミルの優しさに、メストは小さく笑みを零す。


「それはお互い様だろ? それに、カミルの手伝いも鍛錬の一環だと思えば、俺としても良い鍛錬になる」
「家事の手伝いが、一体どういう鍛錬になるか分かりませんが……」


 (でもまぁ、ここまで言ってくれているのだからここで無下にするわけにはいかないわよね)

 僅かに口角を上げたカミルは、メストの申し出をありがたく受け入れることにした。

 
「でしたら、お風呂の準備をお願いしてもよろしいでしょうか? やり方は教えますし、お風呂の準備が出来たらすぐに入れますから」
「分かった!」


 そうして、バッグからお風呂道具と着替えを取り出し、ランタンを持って部屋の明かりを消したメストは、カミルと共に一階へ降りた。
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