木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第97話 カミルの手料理

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「カミル、先に風呂をもらってすまなかった。おまけに、ドライヤーまで借りてしまって」
「いえ、こちらこそ狭いお風呂ですみません。貴族出身のあなた様には窮屈だったのでは?」

 
 脱衣所から出てきたメストから突然謝られ、先程の光景が脳裏を過ったカミルは思わず頬を赤めると慌てて顔を背けて謝罪を口にする。
 そんなカミルの言葉に、メストは優しく微笑んだ。
 
 
「いや、木のいい香りがしてとても癒されて疲れが取れた。むしろ、騎士団共用の風呂よりこっちの方が断然好きだ」
「そ、そうですか……」


 (そんな直球で褒めないでよ! ようやく気持ちが落ち着いてきたのに!!)

 メストから『好きだ』と言われ、益々頬を赤くしたカミルは気持ちを落ち着けようと何回か深呼吸をする。
 すると、メストの目に2人用テーブルの置いてある2人分の料理が飛びこむ。


「カミル。俺が風呂に入っている間に料理が完成したのか?」
「あ、はい。あとはサラダとバケットを用意するだけでしたから」
「そうだったのか」


 (それにしても、『作り置きしよう』と思って多めにシチューを作っておいて良かった。メスト様、シチューがお好きだからかなり食べるのよね)

 幼い頃の記憶を思い出し、僅かに笑みを零したカミルは、すぐさま無表情に戻すとメストと共にテーブル席につく。


「おぉ、どれも美味そうだな!」


 目が輝かせたメストの前には、野菜と鶏肉の温かいシチューと、ハムや葉物野菜を多く使ったポテトサラダと、食べやすいように切り分けられたバケットが並んでいた。


「まぁ、舌の肥えたお貴族様であらせられるあなた様のお口に合うかどうか分かりませんが」


 いつもの冷たい言い方をしつつ、内心では不安に苛まれているカミル。

 なにせ、エドガス以外の人間に手料理を振るうのは初めてだったから。

 そんなカミルに、メストは思わず顔を上げる。

 
「何を言っている! こんなに綺麗に盛り付けられているんだ! 絶対美味いに決まっている!」
「そう、ですか……」


 (こんなに褒められたの、随分と久しぶりね)

 そんなことを思いつつ、カミルはメストと一緒に手を合わせて食事にありつく。
 
 早速、大好物のシチューに手を伸ばしたメストは、綺麗にスプーンでシチューをすくうとそのまま口の中に入れる。
 すると、メストのアイスブルーの瞳が大きく見開き、満面の笑みをカミルに向ける。


「美味しい! カミル、本当に料理上手なんだな!」
「お褒めに預かり光栄でございます」


 (野菜や肉にベシャメルソース特有の甘さがちゃんと染み込んでいて本当に美味しい!)

 そして、メストはシチューをバケットに乗せて一緒に食べると、再び満面の笑みを浮かべる。
 
 (バケットに乗せて一緒に食べると、バケットの甘さとシチューの甘さが合わさってより美味しく感じる!)

 バケットを食べ終えたメストは、そのままポテトサラダの一口食べてみる。

 (おぉ! 野菜の触感を残しつつ、ハムやマヨネーズの酸味とジャガイモの甘さが喧嘩していなくて美味しいぞ!)

 嬉々とした表情で料理を食べるメストを見て、カミルは内心安堵する。

 (良かった、どれもお口にあったみたいで……って、よく考えたら私、初めてメスト様に手料理を振る舞ったわよね!?)


「ん? カミル、どうした? そんなに俺のことを凝視して……俺の顔に何かついているのか?」
「い、いえ……ただ、お貴族様のお口に合う料理が出せて良かったと思っただけです」
「そ、そうか。でもまぁ、今の俺は騎士だからカミルの思っているような豪勢な食事を毎日食べているわけじゃないぞ」
「そうなのですか?」

 
 不思議そうに首を傾げるカミルに、食事の手を止めたメストが何かを思い出して笑みを零す。


「あぁ、騎士はいついかなる時もすぐに動けるようにしなければならない。だから、騎士の食事は貴族のそれに比べると随分と質素なものなんだ」
「そうなんですね」


 (基本的に騎士は全員貴族出身なのだから、それなりに贅沢な料理を召し上がっていると思っていたけど……確かに、いつ国の危機が訪れるか分からないから、いつでも動けるようにしなければならないわよね)

 貴族にとって食事の場は情報収集の場であり、いかに家が裕福なのか見せつける場でもある。

 そのため、大半の貴族達は時間をかけて手の込んだ料理を食べるのである。

 
「俺が第二騎士団にいた頃は、月に一度、魔物討伐のための遠征があって、その度に野営をして、現地調達した食料を調理して食べていた」
「そうなのですね」

 
 (有事に備えて質素な食事をしていることは理解出来た。けれど……)


「騎士様は、それで良いのですか?」
「『良い』って、何が?」
「貴族出身であるはずなのに、騎士という理由で豪勢な料理ではなく質素な料理が食べることになって」


 メストの話に納得したカミルは、『メスト自身はそれで納得しているのか?』と無表情で問い質す。
 すると、一瞬驚いた顔をいたメストは、すぐに綻んだ笑みを浮かべた。
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