木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第100話 ささやかな幸せ

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「本当に美味しかった。ありがとう」
「いえ、あなた様のお口にあってよかったです」


 夕食を食べ終え、メストはカミルににこやかに笑みを浮かべながらお礼を言うと、素っ気ない返事をしたカミルはゆっくりと椅子から立ち上がる。

 (本当に美味しかったのに……俺の気持ち、本当に伝わっているのだろうか?)

 無表情で空になった食器を運ぶカミルに、思わず苦笑したメストは、目の前にある空の食器をシンクに持っていこうとした。
 しかし、カミルから『あなた様は疲れていますので、このままくつろいでください』と言われ、あっさり食器を回収されて持って行かれてしまった。
 
 (全く、俺だって食器くらい洗えるから手伝わせてくれたって構わないのに)
 
 小さく溜息をついたメストは、キッチンで洗い物をするカミルに声をかける。

 
「さっきも言ったが、こんな美味しいご飯、毎日でも食べたいぞ」
「それはどうも」
「……その反応、どうせ俺が貴族出身の騎士だから『平民に対してお世辞を言っている』って思っているだろ?」
「そうですが、何か?」
「やっぱりかぁ……」


 『本当に気持ちが伝わっていなかった』と内心落ち込んだメストは、再び小さく溜息をつくとカミルに視線を戻す。


「あのなぁ、俺はちゃんと本心で言っているんだぞ」
「そうですか。ならば、ありがたく受け取らせていただきます」


 こっちを一切見ないまま返事をするカミルに、不満げな表情なメストは思わず目を細めた。
 すると、洗い終わった食器が視界に入る。


「なぁ、本当に良いのか? 片づけを手伝わなくても」
「はい。先程も言いましたが、あなた様は騎士の仕事があったことに加え、慣れない森の中を歩いていたのです。なので、今日はゆっくり休まれてください」
「それは、『お互い様だ』ってさっき……」
「それにです」


 洗い物を終えたカミルは、不本意そうな顔で頭を掻くメストに目を向ける。


「明日は、いつもの鍛錬に加えて木こりの仕事を手伝ってくれるんですよね?」
「あぁ、そうだな」
「でしたら尚のことゆっくり休まれてください。寝不足の状態で仕事を手伝われても、足手まといになって迷惑ですので」
「そ、そういうことなら……お言葉に甘えて今日のところは休ませてもらう」
「はい、そうしてください」


 (とはいえ、部屋に戻ったところで眠れるか分からないが)

 カミルに冷たい視線を向けられ、僅かに肩を震わせたメストは、『お言葉に甘えて今日のところは休もう』と椅子から立ち上がり、ランタンを持って二階へ上がろうとした。
 その時、何かを思い出したメストは、乾いた布で洗い終わった食器を拭いているカミルに声をかけた。


「そうだ、カミル。言い忘れたことがあった」
「何でしょうか?」


 メストに呼ばれ、拭き終わった食器を棚に戻したカミルはメストに視線を向ける。
 すると、メストが愛おしいものを見るような目で挨拶をした。


「おやすみなさい。カミル」
「っ!?……おやすみ、なさい」


 少しだけ驚いた表情をしたカミルがしどろもどろで返すところを見て、満足げな笑みを浮かべたメストは『今日はいい夢が見られそうだ』と思いながら二階へと上がって部屋へ戻ると、そのまま眠りについた。


 ◇◇◇◇◇

 
「もう、一体何なのよ……」


 二階から聞こえてきたドアが閉まる音に、食器を全て棚に戻したカミルは蛇口の取っ手から水の魔石を取るとその場にしゃがみ込んだ。

 (いつもように呼ばれたから、何の気なしにそちらを見たら、私に向かって『おやすみなさい』って……まるで、夫婦みたいじゃない。それに……)


「あの笑顔、反則なのよ」


 顔を真っ赤にしたカミルは、手に持っていた水の魔石で火照った頬を冷やした。


 ◇◇◇◇◇

 
 片づけを済ませ、自分の部屋から着替え用の木こりの服と下着が入った黒いバッグを持ってきたカミルは、足早に脱衣所に駆け込む。
 そして、厳重にドアを閉めて身につけていたものを全て脱ぎ捨てると、脱いだ下着とさらしを洗濯袋に入れて黒いバッグへ押し込んだ。

 (メスト様が帰るまでの辛抱。こんなことで、バレるわけにはいかない!)

 そうして、浴室に入ったカミルは隅々まで身を清めると、火の魔石と水の魔石で温められたお湯がたっぷり入った浴槽に身を沈める。


「はぁ~、疲れた~」


 大きく溜息をついたカミルは、仕事の疲れを取ろうと大きく体を伸ばすと浴槽の淵に頭を預ける。


「最初はどうなるかと思ったけど、どうにかなって良かった。とはいえ、『作り置き用』で多めに作っていたシチューが、あっという間に無くなっちゃったけど」


『カミル、おかわりをくれないか?』
『えぇ、もちろんです』


 自分の作ったシチューを気に入ってくれて、何度もお代わりしてくれたメストのことを思い出し、肩まで浸かったカミルは満足げな笑みを零す。
 すると、カミルの脳裏にタオル一枚で浴室から出てきたメストの鍛え上げられた彫刻のような美しい上半身が蘇り、思わず小さく悲鳴をあげた。
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