木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第101話 木こり姿のメスト

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「おはよう……カミル」
「っ!?……おはよう、ございます」


 メストがカミルの家へ泊まりに来た翌日。
 
 起きてすぐ、鍛錬しやすくかつ貴族令息らしい気品のある服に着替え、鍛錬用の木剣を持ったメストが眠気まなこで二階から降りてきた。
 その瞬間、2人掛けのソファーで待っていたカミルが思わず顔を背ける。

 (キャ~~!! 普段は凛々しい表情でお仕事や鍛錬に励まれているメスト様の寝起き顔が可愛すぎる!! 特に、きっちりと整えられている髪が少しだけ跳ねているところがもう……!!)

 騎士として真面目なメストが、リラックスしているところを目の当たりにして内心悶えるカミル。
 そんなカミルに一切気づかないメストは、のろのろした足取りでカミルの後ろから声をかける。


「カミル。すまないが、洗面所を使ってもいいだろうか? 顔を洗って気合を入れたくて」
「え、えぇ……構いませんよ。フェイスタオルも近くに置いてあるので、お好きにお使いください」
「ありがとう、ありがたく使わせてもらう」


 (フフッ、メスト様って本当は朝が苦手なのね)

 目を擦りながらノロノロとした足取りで洗面所に向かうメストを見送り、カミルは思わず笑みを零すと鍛錬用に使っている木剣の手入れをする。
 そうしてしばらくしていると、いつもの凛々しい表情をしたメストが洗面所から戻ってきた。


「お待たせ、カミル。お陰で目が覚めた」
「それは良かったです」


 (やっといつものメスト様に戻ったけど、前髪についている水滴がどうにも色気を感じさせる気が……)


「カミル、どうした? そんなに俺のことを見て」
「いえ、何でも」


 (いけない、うっかりメスト様に見惚れてしまったわ)

 不思議そうに首を傾げるメストに、小さく咳払いをしたカミルは木剣を持って2人掛けのソファーから立ち上がる。


「それでは早速、鍛錬を始めましょう。いつもなら、森の方で鍛錬をしていますが、今回は我が家へ泊まりに来ていますので、家から出てすぐの開けた場所で鍛錬をしましょう」
「あぁ、分かった!」


 満足な笑みで返事をするメストを見て、カミルは小さく息を吐くと無表情で外に繋がるドアを開けた。


 ◇◇◇◇◇

 
「風呂を沸かしてくれてありがとう」


 いつもより熱の入った鍛錬が終わり、森の中にある湖で水浴びをしようとしたメストをカミルが慌てて止め、家に帰って急いで風呂を沸かすと、いつの間にか準備万端のメストを浴室に押し込めたのだ。

 (まぁ、私も汗を流すつもりだったから良いだけど)


「いえ、鍛錬終わりに水浴びで風邪を引かれても困りますか……ら?」
「ん? どうした、カミル?」


 メストがお風呂から帰ってきたタイミングで、2人分の朝食を並べ終えたカミルは、脱衣所から出てきて彼を見て思わず言葉を失う。


「あの、その格好って、もしかして……」
「あぁ、これか?」


 唖然するカミルに、小さく笑みを零したメストは朝起きてきた時とは違う服を自慢げに見せる。


「この後、カミルの仕事を手伝うんだ。だったら、この格好の方が良いかなと思って、騎士団が懇意にしている業者に頼んで特注で作ってもらった」
「と、特注ですか?」
「そうだ。なにせ、この服に防御魔法を付与しなければいけなかったから。お陰で、多少は値が張った。だが、ここ最近はデート以外でお金を使わない生活をしているから構わなかった」
「そ、そうですか……」


 (サラリと値が張ったことをおっしゃっていたけど……それでも、私の仕事を手伝うためにわざわざ特注で用意してくださったなんて)


「どうだ、似合っているか?」
「え、えぇ……とても、似合っています」
「そうか、それなら良かった」


 そう言って笑うメストの着ている服は、白のカッターシャツに紺のベストとズボンという、カミルの着ている服と色違いの木こりの服だった。

 カミルに褒められて嬉しそうにしている彼に、再び見惚れてしまったカミルは誤魔化すように再び軽く咳払いをするとそっと目を逸らす。


「それに、その格好で動けるのでしたら問題ありません」
「それなら、大丈夫だ。なにせ、この服はさっきの着ていた服と同じ素材を使っているらしいからな」
「そうですか」


 (それなら、問題無いわね)


「では、あなた様は先に朝食を召し上がっていてください。私は、今から鍛錬で掻いた汗を流してきますので」
「それなら、カミルが戻ってくるまで食べないでおく」
「えっ?」


 (昨日、『ご飯は温かいうちに食べた方が美味しい』っておっしゃっていたのに)

 少しだけ眉を顰めるカミルに、上半身を左右に振って動いても問題が無いか確かめていたメストが優しく微笑む。


「温かい飯を1人で食べるより、少し冷めても2人で食べる飯の方が美味いだろ?」
「……そう、ですね」


 その時、カミルの脳裏に懐かしい記憶が蘇る。
 
 
『せっかく、フリージアが作ってくれたサンドイッチなんだ。1人で食べるより、2人で食べた方が絶対美味しい!』


 (全く、あなたって人は本当に……)

 無邪気に笑うメストを見て、懐かしい記憶を思い出したカミルはメストに背を向けると彼に声をかけた。
 

「では、しばらくの間、お待ちください」
「あぁ、ゆっくりしてきてくれ。その間、俺はここで本でも読んで待っている」
「分かりました」
 
 
 メストに見送られ、そそくさと二階へ上がって自室に入ったカミルは、真っ赤になった頬を抑えると無表情を緩ませた。

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