木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第111話 初めて見る顔

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「ここは?」
「最初の得意先です。では、行きますよ」
「は、はい!」


 メストの返事を聞いたカミルは、颯爽と御者台から降りると、店先で待っていてくれた店主に挨拶をする。


「こんにちは、店主様」
「こんにちは、木こりさん。今日もよろしく……って、その方は?」


 にこやかに出迎えてくれた得意先の店主が、カミルの隣にいるメストを見て不思議そうに首を傾げる。
 すると、一瞬だけ顔を強張らせたカミルが、少しだけ緊張した面持ちでメストを紹介する。


「この方は、メ、メストさ、さん……です。あの方の遠い親戚の方で、ここ最近になって彼の訃報を聞いてこちらに来られたのです」
「ほう、そうでしたか。では、どうして、木こりさんのお手伝いを?」


 カミルにしどろもどろな説明を聞いて、店主が更に首を傾げていると、メストがアイマスク越し愛想の良い笑顔で頭を下げる。


「初めまして、店主殿。私の名前はメストと申します。今回、彼の手伝いを申し出たのは、私自身が彼の手伝いがしたいからです」
「そ、そうでしたか……それはまた」


 すっかり板についた騎士として綺麗なお辞儀をしたメストに、店主が狼狽えているとカミルが軽く咳払いをする。


「コホン。それで、本日の納品分は、いつもの場所に置けばいいですね?」
「え、えぇ……そうですな。ではよろしくお願いします」
「分かりました。では、メ、メストさん。今から持ってきた木材をこちらの店に納品しますので、私の指示に従って荷台から運び出して下さい」
「わ、分かった」
「…………」


 (この人、一々名前で躓く私を笑って……後で覚えておきなさいよ)

 そっぽ向いて笑いを噛み殺しているメストに軽く睨みつけたカミルは、小さく溜息をつくと荷台に向かい、布製の扉をさっさと開ける。
 そして、未だに笑っているメストに冷たく声をかける。


「あの、仕事をしないのならこのまま帰っていただいてもいいのですよ」
「す、すまん。カミルがそこまで名前に躓くとは思わなくて……」
「まぁ、今日初めてあなた様の名前を呼んだのものですから」
「そうだったな。すまん」


 (本当はあなたの名前を呼ぶのは随分と久しぶりなんだけどね!)

 一頻り笑ったメストが荷台の扉近くに駆け寄ると、反論を込めて静かに睨んでいたカミルが再び小さく溜息をつく。
 

「別に構いませんよ。仕事さえしていただけるのでしたら。では、あなたはここで私が渡す木材を受け取ってください」
「分かった」


 メストに指示をしたカミルは、素早く荷台の中に入って、村人達から預かった物に紛れている木材を手に取ると、そのまま外で待機しているメストに木材を渡す。

 
「それでは、私が指示した場所に木材を運んでください」
「了解!」

 
 荷台の外に出たカミルは、木材を持っているメストを先導しながら店の裏にある倉庫へ入る。


「この場所に木材を置いて行ってください」
「分かった」


 カミルに言われるがまま、メストは指定された場所に木材を置く。
 
「こんな感じで良いか?」
「はい。これを何回か繰り返して、この倉庫を本日の納品分でいっぱいにします」
「なるほど、分かった! それじゃあ、運ぶのは俺に任せておけ!」


 トンと自分の胸を叩いて気合を入れたメストは、残りの木材を運び入れようと駆け足で荷台まで戻る。

 (全く、そんなに急いでも木材は逃げないというのに)

 やる気に満ちたメストの後ろ姿を見て、小さく笑みを零したカミルは、『いつもより仕事が早く終わるかも』と思いながらメストの後を追うように倉庫から出る。

 そんな2人の後ろ姿を、店主は物陰から微笑ましく見ていた。


 ◇◇◇◇◇

 
「よし、これで最後だな!」
「はい、お疲れ様でした」


 最後の木材を運び終えたメストは、納品分でいっぱいになっている倉庫を見て笑みを浮かべる。
 そんな彼の隣で、いつも以上に早く仕事が終わったカミルはそっと安堵の溜息をつく。
 すると、報酬の入った袋を持った店主が倉庫の前に来た。


「お2人とも、お疲れ様でした。はいこれ、今日の分です」
「ありがとうございます……って、いつもより報酬が多くありませんか?」


 受け取った袋の重さに、カミルが思わず店主と袋を交互に見ると、店主が朗らかな笑みを浮かべて小さく頷く。


「当然です。今回は、あなた方2人が木材を納品していただいたのです。正当な対価ですよ」
「ということは、多くなった分は俺……いえ、私の分ということでしょうか?」
「そういうことです」
「「そんな……いただけません!」」


 困惑した表情で首を振るメストとカミルに、店主は堪らず声をあげて笑う。


「ハハッ、お2人とも仲がよろしいようで」
「「いえ、そんなこと……」」


 気まずそうに顔を背けるメストとカミルを見て、店主は孫を見るような優しい目で微笑む。


「いいのですよ。いつもより多く支払ったところで、この店が潰れることはありません」
「しかし……」
「それに、お2人が頑張っている姿を見ていたら元気をもらいました。ですので、受け取っていただけると助かります」
「そ、そういうことでしたら……」
「あ、あぁ……そうだな」


 人の良さそうな笑みを浮かべつつも、商売人として押しの強い店主に負けた二人は、揃って頭を下げると店を後にした。
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