木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第113話 手荒な歓迎

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 幌馬車を降り、ステインに留守番を頼んだカミルは、メストと共に行きつけである魔石屋を訪れた。


「こんにちは」
「あぁ、いらっしゃい……おぉ、あんたが誰かを連れてここに来るなんて珍しい……って、えっ!?」
「どうされました?」


 いつものように魔石を買いに来たカミルを見て、気だるそうにカウンターから声をかけた店主は、カミルの後ろから入ってきた人物に思わず目を見開く。

 (あれっ? どうしたのかしら?)
 
 唖然としている強面店主にカミルが首を傾げる。
 その瞬間、急に険しい顔をした店主がカウンターから出てくると、つかつかとカミルの前に立つ。


「おいあんた。1つだけ聞いていいか?」
「何でしょう?」
「どうして、あの兄ちゃんと一緒にいるんだ?」


 店主の鋭い眼光が背後にいる人物へ向けられていることに気づいたカミルは、淡い緑色の瞳を後ろに向ける。


「あぁ、彼はかの方の遠い親戚で……」
「おい、兄ちゃん!!」


 店内に響くドスの効いた店主の声に、カミルが思わず肩を震わせると、店主はメストの前に立ってそのまま彼の胸倉を掴んだ。

 (えっ!? ちょっと!?)

 普段は不愛想な店主の豹変ぶりに、カミルは思わず顔を引き攣らせる。
 だが、店主に胸倉を掴まれたメストは凛々しい表情を一切崩さない。
 そんな彼に、眉を上げた店主は顔を近づける。


「貴族のくせに平民の格好でお忍びとは、随分と趣味の悪いことをしているなぁ」
「えっ?」


 (この2人、どこかで会ったことが……あっ)

 その時、カミルの脳裏に随分前の店主との会話が蘇る。

 
『何でも、彼氏の方が王都に来たばかりの令息らしくて、一応『この店が平民向けての魔石を扱っている店だ』って言ったんだ』
『それで、その物好き坊ちゃんは彼女と一緒に店を回って後、カウンターで座っている俺に向かってわざわざお礼を言って火の魔石を買ったんだ』


 (そう言えば、随分前にメスト様はこの店を訪れていたんだったわね)

 それはメストが王都に来て間もない頃、カミルは店主から貴族のカップルがこの店に来ていたことを聞いていた。

 その時のカップルの彼が、メストだったことはカミルだけが気づいていた。
 
 そんな昔の話を思い出したカミルをよそに、怒りで顔を歪ませている店主に向かって、メストは余裕の笑みを浮かべる。


「えぇ、こちらは現役冒険者が店主として営んでいるお店で、平民の方々から重宝されているお店と聞いていましたから、今回はこのような格好で来させていただきました」


 (ちょっ、メスト様!? 店主様に対して何ということを!!)

 一瞬青ざめた顔をしたカミルは、平民と騎士が諍いを起こす前に止めようと慌てて2人の間に立とうとした。
 その時、ニヤリと笑った店主の豪快な笑い声が店内に響き渡る。


「ガハハハッ! 現役冒険者に対してそんな口が叩けるとは! あんた、もしかして元冒険者だったのか?」
「いえ、私の本職は騎士です。ですが、1年前まで辺境の騎士団に所属しておりました」
「ってことは、1年前までは冒険者と同じように毎日のように魔物討伐をしていたってことか?」
「はい」
「なるほどなぁ。だから、俺が睨んでも兄ちゃんは一切ビビらないってわけか」
「えぇ、店主殿の凄みのある睨みで怯えていては強力な魔物は倒せませんので」
「ガハハハッ! そりゃあそうだ!」


 胸倉を掴んでいた手を離した店主は、機嫌が良さそうにバシバシとメストの背を叩く。
 そんな店主の手荒い歓迎に、メストは一切笑みを崩さなかった。

 (とりあえず、丸く収まったようね)

 笑みを浮かべている2人を見て、カミルはそっと安堵の溜息をつく。
 すると、一頻り笑った店主がメストに向かって頭を下げる。


「すまんな、兄ちゃん。再会早々、酷いことをしちまって」
「いえ、こちらとしては店主殿の手厚い歓迎を受けられて嬉しいです」
「ハハッ、そうかい。まっ、好きなだけ見てくれ」
「ありがとうございます」


 深々とお辞儀をするメストに、機嫌良く笑った店主はそのままカミルに小声で話しかける。


「それで、あの兄ちゃんと何があってこうなったんだ?」
「端的に申し上げると、『色々あって』ですね」
「色々ねぇ……」


 (そういや、先代がこいつを連れて来た時も同じことを言ってはぐらかされたな……まっ、詮索するのは止めよう。互いためにならん)

 カミルが初めて店に来た時のことを思い出した店主は、カミルとメストを交互に見て小さく溜息をつくと、カミルが持っていたリストに視線を移す。


「それで、今日の分がそれか?」
「はい、こちらです」


 カミルからリストを渡された店主は、魔石屋の主らしく真剣な表情で目を通す。


「いつも通りだな」
「はい。あと、これとは別に全属性の魔石をいつもの量で下さい」
「おぉ、今日は珍しく多めに買っていくんだな。いつもは、火と水しか買っていかないのに」
「えぇ、何かと物入りになってしまいましたから」


 物珍しそうな目を向ける店主に、淡々と告げたカミルはいつの間にか店内を見て回っているメストに視線を移した。

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