木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第116話 カミルの変化

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 メストに謝罪した後、店主は魔石の見定めを終えると、カウンターに戻っていつものように仕分けをして大きめの麻袋に魔石を入れた。
 

「ほら、これがリストの分。それで、こっちがあんた個人の分だ」
「ありがとうございます、こちらが代金です」
「おう、毎度あり」


 魔石の代金を店主に支払ったカミルは、村人達に頼まれた分の魔石が入った大きい袋を持とうとした。
 その時、カミルの横から逞しい腕が伸びてきてそのまま大きな袋を掴んだ。


「よいしょ、っと。これで良いよな?」
「え、えぇ……あの、重くありませんか?」
「あぁ、大丈夫だ。このくらい、毎日の訓練で使っている背嚢の重さはたいして変わらない」


 眩しい笑顔で大量の魔石が入った袋を軽々と担ぐメストを見て、カミルは一瞬戸惑った顔をすると軽く頷いた。


「そ、そうですか……ですが、無理はなさらないでくださいね。ここから馬車を止めている場所まで少し歩きますから」
「分かっている。それに、これを担いで馬車まで走るわけでもないだろ? 騎士の訓練だと、背嚢を担いで長距離の走り込みをするが」
「当たり前じゃないですか。万が一、魔石が壊れたらどうするのですか?」


 (村人達に何て言われるか……あぁ、想像するだけも頭が痛い)

 僅かに眉を顰めるカミルに、メストは楽しそうに笑った。

 
「すまんすまん。これは、村人達から預かってきたものだったな」
「そうですよ。笑い事ではないのですから」
「そうだったな。すまない。けれど、そういうことなら大丈夫だ。丁度いい鍛錬にもなるし」
「そう、ですか」


 (それにしても、この重さの袋を担いで走るなんて……騎士様の訓練って、本当に過酷なのね)

 楽しそうに笑うメストに対し、カミルが少々怒ったような顔をしていると、2人の後ろから豪快な笑いが聞えてきた。


「ガハハハッ! お前さん方がこの店に来てから思っていたが……お前さん方、知り合いにしちゃあ随分と仲が良いんだな! 特に、貴族嫌いのこいつが、平民以外の誰かを気遣うところを初めて見たぞ!」


 『珍しいものを見た』と言わんばかりに笑い飛ばす店主を見て、僅かに頬を染めたカミルは慌てて店主に鋭い視線を向ける。


「べ、別に心配など……ただ、痩せ我慢をして重い物を持ったせいで魔石を落としてしまっては、村人達から嫌味を言われるので」
「『痩せ我慢』ねぇ……それにしちゃあ、随分と余裕そうに袋を担いでいるが?」


 ニヤニヤと笑う店主から視線を逸らしたカミルは、何かを誤魔化すように咳払いをすると、自分用に買った少し大きめの袋を手に取る。


「それでは店主様、また来ます」
「あぁ、またな。兄ちゃんも、今度来たら店に置いてある魔石について教えてやるよ」
「よろしいのですか!?」


 今日一番の大声で目を輝かせるメストに、ニカっと真っ白な歯を見せた店主が大きく頷く。


「あぁ、いいぜ。どうせ、そいつの荷物持ちでまた来るんだろ? だったら、仕事ついでに教えてやるよ。兄ちゃん、随分と熱心に魔石を見ていたからな」
「あ、ありがとうございます!」


 心底嬉しそうな顔で深々と頭を下げたメストに、店主が思わず苦笑していると、先に店を出たカミルがメストに声をかける。


「ほら、さっさと行きますよ。まだ買わないといけないものがあるのですから」
「あぁ、分かった。店主殿、また来ます」
「おぉ、待っているぜ」


 小さく会釈をしたメストとカミルの後ろ姿を見送った店主は、扉が閉まるのと同時に大きく息を吐く。


「あの兄ちゃん、前に来た時は紳士でクールな奴だなと思っていたが……意外と表情豊かで熱いやつだったんだな」


 (まぁ、前に来た時はあの酷い婚約者がいたから、あまり感情を表に出さないようしていただけなのかもしれないが……俺としては、今日の生き生きとしている方が好きだ。それに……)


「あいつが平民以外の誰かを気にかけるなんて、あいつの先代が亡くなってからめっきり無くなったからな」


 (普段は無表情で貴族嫌いのあいつが、あんなにも心配そうに……よりにもよって、あいつにとって天敵である貴族出身の騎士のことを気にかけるなんて)


「人生、何が起きるか分からんもんだなぁ」


 そう呟くと、店主は満足そうな笑みを浮かべながら仕事に戻った。
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