木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第118話 訓練の成果

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 メストが休日にカミルの家に通い始めて暫く経った頃、近衛騎士団長専用の執務室でフェビルは難しい顔をしながら書類と格闘していた。
 そんな彼のいる執務室のドアがノックされた。


 コンコンコンコン


「入れ」
「失礼致します」


 律儀に礼をして部屋に入ってきたのは、彼の右腕であり近衛騎士団の副団長を務めるグレアだった。
 

「グレアか。どうした? またどっかのバカが平民に危害を加えたのか?」


 (俺としては、特別訓練までしてやったんだから、いい加減にして騎士として相応しい振る舞いをして欲しいんだが)

 仕事の手を休めて呆れたように深く溜息をついたフェビルに、一瞬複雑そうな表情をしたグレアはすぐさま真面目な表情に戻すと小さく首を横に振る。


「いえ、今回は4ヶ月に及ぶ特別訓練の全日程が終了したことを報告しに参りました」
「あぁ、そう言えば今日だったな」


 (『近衛騎士団並びに第一騎士団の根性を叩き直す』という目的で始まった駐屯地での特別訓練がようやく終わったのか)

 グレアの報告を聞いて安堵したフェビルは、目の前に立っているグレアから特別訓練の最終報告書を受け取ると、椅子から立ち上がってそのまま応接用のソファーに深く腰を下ろす。


「定期報告に目を通しているから何となく把握している」
「ありがとうございます。それと、教官役での特別訓練の参加、改めて感謝申し上げます」
「なに、言い出しっぺが何もしないでは示しがつかないと思っただけだ」


 そう言うと、フェビルは真剣な表情で報告書に目を通す。


「どの部隊の訓練も序盤の方は多少もたつきがあったらしいが、中盤からは滞りなく訓練が行われたらしいな」
「はい。最初は何だかんだと文句を垂れている騎士が大半でしたが、訓練をこなすにつれて、訓練に参加した騎士達は皆、国を守る騎士としての心を取り戻したとのこと」
「そうだな。特別訓練を始めてから、バカをやらかす騎士が目に見えて減ってきている」
「そうですね。これは非常に喜ばしいことです」


 満足そうに笑ったフェビルの反対側のソファーに座ったグレアが少しだけ笑みを浮かべる。
 すると、報告書から顔を上げたフェビルが背もたれに体を預ける。


「しかし、騎士達の再教育に4ヵ月もかかるとはな」
「それだけ、王都にいる騎士達の性根が腐っていたのでしょう」
「あぁ、それに、第一騎士団の騎士団長が変わったことも影響しているのだろう」


 それは、訓練が始まって1ヶ月が経った頃のこと。
 突然王命が下り、第一騎士団の騎士団長が宰相閣下の手先から宰相閣下の息のかかっていない実力のある人物に変わったのだ。


「確か、新しく就任した第一騎士団の団長は、ヴィルマン侯爵様の推薦があった方なんですよね?」
「そうだ。最初は宰相閣下がいる手前、侯爵殿が彼を強く推薦することは出来なかったらしい。だが、侯爵派閥の有力な貴族どもが水面下で侯爵殿に『彼を押すよう』と指示を受けたらしく、そいつらが率先して動いたお陰で実現したらしい」
「そうだったのですね。さすが、『王国の剣』」

 
 ヴィルマン侯爵の策略に感心しているグレアとは反対に、フェビルは少しだけ苦笑いを浮かべる。

 (まぁ、その侯爵殿もを受けて派閥の奴らに指示を出したんだろう。そうじゃなきゃ、今の貴族社会において微妙な立場の侯爵殿が、宰相閣下の決定を覆すようなことなど出来ない)


「あの人もまた、の帰りを待っている1人なのだろう」


 ヴィルマン侯爵を裏で操っていた人物のことを思い浮かべ、フェビルは再び苦笑すると、報告書に記載されていた新しい第一騎士団長の名前に目を落とす。


「とはいえ、新しい第一騎士団の団長は侯爵殿から事前に聞いていた通りの『毒にも薬にもならぬ奴』だった」
「そうだったのですか? 第一騎士団長がフェビル団長のところへ挨拶に来られた時、私は丁度、駐屯地で訓練指導をしていたので、実際にお会いすることは出来ませんでしたが」
「そうだったな。だがまぁ、宰相閣下からの指示であったとは言え、部下に対して理不尽に平民に手をあげていい許可を出すバカよりかは遥かにマシだ」


 (俺のところへ挨拶に来た時、『これからは、第一騎士団長として精一杯頑張りますのでよろしいお願い致します!』とビビりながら挨拶してきて、正直『大丈夫か?』と思った。まぁでも、ヴィルマン侯爵殿の推薦した奴なら多少マシな指示する奴だと信じよう)

 新しく着任した第一騎士団の団長のことを思い出し、小さく溜息をついたフェビルの前に温かいホットコーヒーが置かれる。


「おう、ありがとう」
「いえいえ、これくらいはたいしたことではありませんよ」
「そうか」


 マグカップを持ちながら涼しい顔で向かいの席に座るグレアを見て、フェビルは淹れたてのコーヒーを一口飲むと再び背凭れに背中を預ける。


「しかし、上が変わったからといって騎士全員を訓練送りにすることは出来なかったな」
「えぇ、トップが変わったとはいえ、宰相閣下の息がかかった奴らを訓練送りにすれば、それはそれで面倒事になりますし……そのせいで着任早々すぐに辞職されても困りますから」
「そうだな。訓練に派遣する奴らのリストが、直前になって勝手に挿げ替えられた時に思い知らされた」


 それは、まだ第一騎士団の団長が変わる前、訓練に行かせる部隊の第二陣を送り出そうとした時だった。
 リストを確認していたグレアが、持っていたリストが何者かに挿げ替えられたリストだと気づき、すぐさまフェビルに報告した。
 グレアから挿げ替えられたリストを見せられたフェビルは、『宰相閣下に息のかかった奴らが意図的に外されている』ことに気づく。
 そうして2人は、リストを挿げ替えた犯人が宰相ノルベルトであることにいきついたのだ。

 (本当はそいつらも訓練送りにしたかった。しかしこれ以上、宰相閣下に横槍を入れられては困ると思い、挿げ替えたリストに書かれていた奴らを第二陣として送り出したんだよな)


「陛下に特別訓練実施を報告した時にいなかったから、仕方なく後日説明に行ったが、その時は黙って聞いたしその場であっさり承認した。だから、てっきりこちら側には無関心だと思っていたが」
「えぇ、それで思ったよりスムーズに事が進んで安心していましたが……まさかあんな風に横槍を入れられるとは思いも寄りませんでした」


 特別訓練期間で一番胸糞悪い出来事を思い返し、近衛騎士団のトップ2人が深く溜息をついていると、突然執務室のドアが激しく叩かれた。
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