木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第123話 ノルベルトの采配

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「さて、一頻り笑ったところで、そろそろ貴様への処罰を言い渡さそう」


 謁見の間が水を打ったかのような静けさに包まれる中、フェビルの恨みが籠った呟きなど一切耳に届かなかったノルベルトは、笑い過ぎて出た涙を拭くと部下が持ってきた懐から上等な羊皮紙を手に取る。
 そして、そこに書かれていた内容を声高らかに読み上げる。


「ペトロート王国近騎士団長フェビル・シュタール。貴様は、己の我欲を満たす為に騎士団の秩序を乱すという蛮行を犯した。これは、長きに渡って保たれている我が国の平穏を脅かすものであり許されざるものである。よって、『王国の盾』である我ノルベルト・インベックの名において、貴様にはその蛮行を強行した罰として1ヶ月の減俸処分と下す」


 ノルベルトの口から出た仰々しい処罰を聞いて、フェビルは一瞬目を見開く。

 (ほう、あんなに特別訓練のことを重大な過失として罵ったくせに、処罰がたかだか1ヶ月の減俸処分とは。随分と甘ちゃん過ぎるな)


「まぁ、あの方だったらそもそも問題視すらしなかっただろうが」
「ん? 何か不服でも?」
「いいえ、何も」
「フン。そもそも、処罰を受けるやつが口を開くことなんて本来なら許されないからな」
「…………」


 (そんな決まり、一体いつ作られたんだ?)

 ノルベルトの横柄さに内心辟易しつつ、俯いたまま返事をしたフェビルは深く安堵する。

 (一先ず、予想したものより軽い処罰で良かった。それも、処罰の対象が俺個人のみ。まぁ、これでもし、騎士団全体に重い処罰が下っていたら、俺の怖い腹心が黙っていないからな)

 今頃、副団長用の執務室で淡々と書類と向き合っているグレアの怒った顔を思い出し、少しだけ肩を震わせたフェビルは小さく口角を引き攣らせた。
 そんなことなどつゆ知らず、ノルベルトは頭を下げたままのフェビルを蔑むような目で見つめる。


「どうだ。貴族出身の貴様にとっては、1ヶ月の減俸処分は大層痛かろう。私だったら、痛くて仕方ないが」


 顔を上げたフェビルが、ノルベルトが下卑た笑みを浮かべているのを見て、処罰が思った以上に軽かった理由を悟る。

 (なるほど、俺が貴族出身だからこんな甘い処分を下したのか。そんなの、全く言っていいほど何ともない。騎士たる者、そんな俗物的な考えをしていたら、あっという間に魔物に命を奪われる)

 幾多の死線を潜り抜け、騎士として強靭な精神を手に入れたフェビルにとって、1ヶ月給料が減るなど何ともなかった。
 そんな彼は、静かに頭を下げると理不尽な処罰を粛々と受け入れる。


「いえ、妥当な処罰として受け止めさせていただきます」
「チッ! もう少し可愛げがあってもいいものを!」


 (フッ、残念だったな。お前は、最初から俺の悔しい顔が見たくて、特別訓練を承認してこんな大仰な茶番を用意したのだろう。だが、俺がそう易々とお前の思い通りになると思ったら大間違いだからな)

 心底不機嫌そうな顔のノルベルトを見て、再び顔を上げたフェビルはしてやったりの笑みを浮かべる。
 すると、何かを思い出したノルベルトが大仰に手を叩く。


「あぁ! そう言えば、貴様の家は魔物しかいない田舎臭い辺境を守っていたな」


 その瞬間、フェビルの表情から笑顔が消える。


 ◇◇◇◇◇

 
「だったら、何だというのだ?」


 静かに殺気を放つフェビルに、周囲の貴族達が怯える中、国王の傍に控えていたノルベルトは愉悦に満ちた笑みを浮かべる。


「ならば、貴様の犯した罪の責任を家にも負ってもらおう!」
「お前……!」


 (それ、本気で言っているのか!?)

 実家に対して理不尽な罰を下されると聞いた瞬間、フェビルの顔がみるみると青ざめる。

 (そうだ、その顔だ! その絶望に満ちた顔が見たかったのだ!)

 念願叶って心底嬉しそうな顔をしたノルベルトは、手に持っていた羊皮紙に視線を落とすと笑みを潜め、処罰の続きをフェビルに言い渡す。


「そして、貴様が行った蛮行の責任は近衛騎士団長の生家であるシュタール辺境伯家にもあるとし、シュタール辺境伯に対してシュタール辺境伯領に隣接している王国直轄領の魔物討伐を第二騎士団に代わって1ヶ月間無償で行ってもらう! もちろん、シュタール辺境伯家のお抱え騎士団だけでなく懇意にしている冒険者共も含めてだ!」
「っ!」

 
 (お前は、やってはいけないことをしたみたいだな)
 
 ペトロート王国では、国内で発生した魔物を冒険者や領主貴族のお抱え騎士団など、王国騎士団以外の人間が討伐した場合、その者達に対して国から報奨金を出している。
 そして、魔物が発生した場所を治めている土地の領主にも協力金として出している。
 
 また、国が直々に領主貴族へ自領以外の魔物討伐を依頼した場合、国は領主貴族に対して多額の報奨金が出しており、それを受け取った領主貴族は、魔物討伐に協力してくれた冒険者やお抱え騎士団に分配している。
 
 しかし、ノルベルトはシュタール辺境伯家に対し、王国直轄領での魔物討伐を命じた上で、魔物討伐による報奨金を出さないと宣言したのだ。

 (どうだ、悔しかろう? 貴様が我の意向に逆らったせいで、無関係な奴らが貴様の罰を受けることになったのだぞ!)

 ノルベルトと取り巻き貴族達が嫌らしい笑みをフェビルに向ける中、諦めたかのように深くため息をついたフェビルは静かに頭を下げる。


「かしこまりました。シュタール辺境伯家の者として、私の方から実家に伝えましょう」
「いや、既にシュタール辺境伯家に伝えておるから安心しろ」
「ありがとうございます」


 (だが、この国が……いや、お前らの立場がどうなっても知らないからな。なにせ、俺の生家であるシュタール辺境伯家は、建国当初からこの国の防衛を任されている由緒正しい家であり、お抱え騎士団や冒険者どもは全員、王国騎士団と肩を並べるくらいの実力を持っている強者揃いだからな)

 こうして、特別訓練に関してのフェビルに対しての処罰(という名のただの嫌がらせ)が下されたのだった。
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