木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第126話 リリアナとジェレミと……

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 応接室の前に立ったフェビルは深く溜息をつく。

 (まさか、こんなにも早く来るとは本当に思わなかった)


「よし、行くか」

 
 覚悟を決めたフェビルは、小さく息を吐くと軽くノックして扉を開ける。


「失礼致します」
「来たわね、愚弟。相変わらず、あんな雑魚相手にグレア無しでは渡り歩けないのね」


 応接室のソファーで優雅に足を組み、フェビルと同じ赤茶色でストレートの長い髪を後ろに流し、応接室に入ったフェビルを『愚弟』と呼んだのはフェビルの姉リリアナ・シュタールである。


「姉上、宰相閣下と『雑魚』と呼んでいるのでしたら止めてください。誰かの耳に入ったらどうするのですか?」
「フン、シュタール辺境伯家のこと何も知らない奴を『雑魚』と呼んで何が悪いのかしら?」
「姉上……」

 
 (王国騎士団長兼近衛騎士団長である俺の立場も考えて欲しい)
 
 相変わらず容赦の無い姉に、フェビルがげんなりしながら誰も聞いていないことを確認して静かに扉を閉めると、リリアナ隣に座っていた男がフェビルに優しく微笑みかける。


「久しぶり、フェビル君。随分と派手なことをしたみたいだね」
「ジェレミ義兄さん。俺は、何も派手なことをしていませんよ」


 (シュタール家に理不尽なことを被られる度に、あんたらが嬉々として王宮へ行くことに比べれば、特別訓練を実施したことなんて派手でも何でもない)

 内心愚痴をしつつ、フェビルはリリアナの隣に座っている男……リリアナの夫でありシュタール辺境伯家現当主ジェレミ・シュタールに小さく頭を下げると、2人が座っているソファーと反対側のソファーに座る。

 (とはいえ、この2人が揃って騎士団本部に来るなんて……自分の家族ながら心臓に悪い)

 ニコニコと笑って座っている腹黒夫婦に、フェビルが小さく溜息をついたフェビルはリリアナに咎めるような目を向ける。


「姉上、改めて申し上げますが、あなたが雑魚呼ばわりされている方は仮にもこの国の現宰相です。先程は誰もいなかったので聞かれていなかったとはいえ、誰が聞いているとは分からない場所でそんなことを口にされては……」
「あら、それなら大丈夫よ」


 自信に満ちた笑みを浮かべたリリアナは、ローテーブルに置かれていた小さな四角い箱をトントンと指差す。


「これは?」
「音声だけ認識阻害出来る魔法が施されている魔道具よ。これなら、私がこの部屋で宰相を雑魚呼ばわりしても、外には全く別物の話として聞こえるの。これなら問題無いでしょ?」
「まぁ、そうですけれど……」

 
 誰もが見惚れるような笑顔で小首を傾げるリリアナに、再びげんなりしたフェビルはリリアナと魔道具を交互に見る。


「ちなみに、これはどこで手に入れたのですか?」
「それはもちろん、うちの侍女がから譲り受けたものよ」


 そう言ってリリアナは、背後に控える侍女へ視線を向け、驚いて目を見開いたフェビルはつられて視線を侍女の方に移す。
 その瞬間、フェビルの表情が引き攣った。

 (まさか、あの方の奥方までもがここにいらっしゃるとは……って、よく考えたら今は、姉の侍女をしているのだからいてもおかしくないか)

 無表情で静かに立っている黒目黒髪の侍女を見て、小さく息を吐いたフェビルは視線を目の前の魔道具に戻す。

 (となると、この魔道具を作ったのは……)


「その知り合いというのは、『稀代の天才魔法師様』でしょうか?」
「えぇ、もちろん! でも、『稀代の天才魔法師』じゃないわよ」



 (今の『稀代の天才魔法師』に、このような素晴らしく精巧な物を)

 無邪気な笑顔で頷くリリアナに、深く溜息をついたフェビルは思わず頭を抱える。


「フェビル?」
「姉上、侍女としてかの方を同行させたのはまだ分かります。ですが、今回のためにわざわざかの方の知り合いの力を使うなんて……このことがもし、奴にバレたらどうされるのですか?」


 すると、リリアナが心底不快そうな顔で小さく鼻を鳴らす。


「フン、ありえないわね。シュタール辺境伯家に愚かにも喧嘩を吹っ掛けた雑魚が『騎士団本部に騎士団長の身内が先触れも無しに来た』なんてことを大事にするとは思えないわ……


 その時、後ろに控えていた侍女の綺麗に整った眉が僅かに上がったことをフェビルは見逃さなかった。

 (そう言えば、かの方が我が姉上に仕えてから6になるな。その間、この方はどんな思いでこの国を見ていたのだろうか? 名前や地位はおろか、この国を)

 侍女らしく気配を殺している彼女の複雑な胸内を知ることが出来ないフェビルは静かに目を伏せる。
 すると、いつの間にか紅茶が置かれていたことに気づいた。


「姉上、この紅茶は?」
「もちろん、うちの侍女に用意させたものよ。あなたが来るのを待ってくる間にね」
「そう、でしたか……ありがとうございます」
「恐れ入ります」


 黒目黒髪の侍女が深々とお辞儀をする姿に、僅かばかり心を痛めたフェビルは、丁度いい温度で淹れられた紅茶をありがたくいただいた。


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