木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第128話 フェビルの事情

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 腹黒夫妻の話を聞いて、フェビルがげんなりしていると空のティーカップに温かい紅茶が注がれる。
 

「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 

 (本当に優しい人だ。だからこそ、顔を見るたびに悔しさがこみあげてくる)
 
 黒目黒髪で無表情の侍女の優しさに少しだけ胸を痛めたフェビルは、温かい紅茶を飲むといつの間にかお喋りを止めた夫婦に目を向ける。

 
「では、なぜわざわざ騎士団本部に来られたのですか? いつもなら直接王宮に赴かれるじゃないですか」


 紅茶を飲んで少しだけ元気を取り戻したフェビルが問い質すと、酷くつまらなさそうな顔をしたリリアナが、意味ありげな視線を向けながら扇子で広げて口元を隠す。


「そんなの、王国騎士を纏め上げる団長であるあんたに力を貸して欲しいに決まっているじゃない」
「……ちなみに、私の力を使って何をしようというのですか?」
「それはもちろん、万が一にあの愚か者が我が家のことを一切理解出来なかった場合、お仕置きとして鉄槌を下す手伝いを……」
「却下です。王国騎士団長として宰相に楯突くようなことは出来ません」


 (この2人が騎士団本部に来たと聞いた瞬間、何となく予想していた……王国騎士団長の立場で、クーデターを起こすようなことはしたくない!)

 毅然とした態度でフェビルが断ると、ジェレミが恨めしそうに弟を見ているリリアナを諫める。


「ほら、僕が言った通りじゃないか。王国騎士を纏め上げるフェビル君に頼ったところで、彼は立場を気にするがあまりヘタレをおこして、結果的に力を借りることは出来ないって」


 ジェレミの棘のある言い方にフェビルが眉を顰めると、扇子を閉じたリリアナが大げさに悲しい顔をしながらジェレミの逞しい体にしなだれかかる。
 
 
「本当だったわぁ。第二騎士団団長にいた頃はあんなに力を貸してもらったのに」
「それは、魔物討伐だったから力を貸したのです」


 (それに、王国騎士団長と宰相が対立した場合、間違いなく国が乱れる! 決して、俺がヘタレをおこしたわけじゃない!)

 残念そうな顔をしつつも甘い空気を出す夫婦に釘を刺したフェビルは、再び深く溜息をつくと話を戻す。


「そもそも、これは我がシュタール家の問題です。ですから、いくら王国騎士団長とはいえ、家の事情に部下達を巻き込ませるわけにはいきません」


 すると、残念そうな顔をしていたジェレミが途端に笑みを浮かべてフェビルを見る。
 
 
「そういうことなら仕方無いね、ならば、王国騎士団に迷惑をかけない範囲で落とし前をつけさせてもらうよ」
「是非ともそうしてください」


 (身内の事情に部下を使うのは、実家近くの森から現れる魔物の討伐で十分だ!)

 酷く疲れた顔で溜息をついたフェビルは、紅茶を飲んで一息つく。
 すると、リリアナが驚いたような顔をしながら小首を傾げる。


「でも、私たちを止めなくて良いの? 仮にも王国騎士団長なのに」
「姉上が俺の忠告を一度でも聞いたことがありますか?」
「ないわね」
「ですよね。だから止めません」


 きっぱり言い切ったフェビルに、紅茶を楽しんでいたジェレミが楽しそうな顔で頷く。

 
「そうだね。リリアナはこうと言ったら頑として曲げないから」
「あら、それならあなただって同じじゃない」


 (俺から見れば、どっちもどっちだ。だが、これで大方話は済んだはずだ)
 
 幸せそうに微笑み合うジェレミとリリアナを見て、ようやく肩の荷を下りたフェビルは残っていた紅茶を一気に飲み干す。
 すると、リリアナの傍に控えていた侍女がすかさずフェビルのティーカップを下げる。


「ありがとうございます」
「いえ、これも仕事のうちですから」


 無表情で淡々と返事をする侍女に、フェビルは思わず小さく下唇を噛む。
 すると、リリアナとジェレミが揃ってソファーから立ち上がる。


「それじゃあ、用も済んだことだし失礼するわ。これから、宰相閣下に我が家について教えないといけないから」
「そうですか。わざわざお越しいただき、ありがとうございます」
「あんた、それ本心で言っている?」
「いえ」


 すまし顔で本心もないこと言ったフェビルに、リリアナは面白くなさそうな顔をする。
 そんな姉弟の会話を聞いていたジェレミは、穏やか笑みを浮かべるとフェビルに視線を向ける。


「こちらこそ、フェビルの元気そうな顔を見ることが出来て良かったよ。お義父さんやお義母さんも……それと、帝国に住んでいる君の家族も心配していたから」
「そう、ですか」


 ジェレミの言葉を聞いて、フェビルは少しだけ俯く。
 
 (俺がこの国に残ると決めた時、万が一に備えて、妻と子どもだけはの親戚筋にあたるとある帝国貴族の家に身を寄せている。そうじゃないと、俺は俺の大切なものを守れないと思ったから。『シュタール』の性を使っているのも、帝国に家族がいることを奴《ノルベルト》に悟らせないため)

 小さく拳に握ったフェビルは、顔を上げるとジェレミに微笑みかける。
 

「でしたら今度の休み、実家の方に顔を出します」
「あぁ、是非ともそうしてくれ。とても喜ぶと思うから」
「はい」


 (今はまだ俺の家族には会えない。けれどせめて、俺を育ててくれた両親には会いに行こう)

 王都に来てから一気に会う機会が減ってしまった両親の顔を思い出し、朗らかな笑みを浮かべたフェビルは小さく頷く。
 そんな弟を見て、少しだけ眉を顰めたリリアナは、無理矢理笑顔をつくと傍に控えていた侍女に指示を飛ばす。


「マドレット。魔道具の回収とティーセットの片づけをお願い。この愚弟は、ティーセットの片づけなんて器用なことが出来ないから」
「かしこまりました」


 深々と頭を下げた侍女のマドレットが、テキパキと魔道具とティーセットを片付ける姿を、シュタール辺境伯家全員が少しだけ苦い顔をしながら見つめた。
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