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第2章 木こりと騎士は鍛錬する
閑話 初めてのクレープ
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それは、得意先への納品が終わり、いつものように村人達から頼まれた買い物をしようとした時だった。
「ママ、これ美味しいね!」
「そうね。ママにも一口くれない?」
「良いよ! はい、あ~ん!!」
「あ~ん」
メストよりも先に御者台に乗ったカミルは、偶然ベンチに座っていた親子の仲睦まじい光景に目を奪われた。
フフッ、懐かしいな。私にもあんな頃があったわね。
笑いあっている親子を見て、少しだけ切ない気持ちを抱くと、親子が分け合って食べている物が気になった。
「あの」
「ん? 何だ?」
御者台に乗ったメストに、カミルは親子がいる方に視線を向けた。
「あの親子が召し上がっている物。あれは一体、何という食べ物なのでしょうか?」
「あれか。あれは、『クレープ』と呼ばれる食べ物だ」
「クレープ?」
首を傾げるカミルに、メストは小さく笑みを浮かべた。
「あぁ、何でも隣国で流行っている菓子らしく、甘くて食べやすいってことで平民の間で流行っているようだ」
「そうなんですね」
隣国で流行っているお菓子。そして、この国の平民の間でも流行っているお菓子。
でも、甘くて美味しそうだし、私も一応平民だから食べてみたい。でも……
「それにしても、平民のことなのにご存知だったのですね。私も平民ですが、この仕事を始めてからずっと多忙でしたから存じ上げませんでした」
「そうか。まぁ、俺の場合は……随分前になるが、ダリアとデートした時に彼女が教えてくれた」
「そう、だったのですね……」
『ふん、歩きながら菓子を食べるなんてさすが平民。どこまでも卑しい身分だわ。いっそのこと、この国から追い出してしまいましょうか?』
『おい、いくら何でも言い過ぎだぞ』
『何ですか!? メスト様は私の婚約者なのですから、私の味方ではありませんの!?』
教えてくれた時は、一緒に宰相家令嬢らしからぬ発言をしたから、さすがに止めたついでに怒らせてしまったが。
何かを思い出して苦笑するメストをよそに、カミルは僅かにこみ上げた黒い感情を押し殺すと、仲睦まじくクレープを分け合う親子に再び目を向けた。
本当は、私もあんな風に仲が良い家族がいたのに……
「カミル、どうした?」
メストに声をかけられて気が付いたカミルは、小さく頭を振ると手綱を握った。
「何でもありません。それよりも、買い物は全て済ませたのですから、さっさと戻りましょう。戻りが遅いと怒られてしまいますからね」
「あっ、あぁ……」
羨ましそうな目で見ていたカミルと親子を交互に見たメストは、小さく唇を噛むと御者台から降りた。
「えっ、どうしたのですか?」
「すまん、ほんの少しだけ俺に時間をくれないか?」
「はい?」
確か、近くにクレープを売っている場所があったはずだ。
そう言って駆けだしたメストは、強化魔法を使ってクレープ屋に行ってクレープを買った。
そして、再び強化魔法を使ったメストは、買ったクレープを落とさないように幌馬車のところに戻ってきた。
「はぁ、はぁ……カミル、これ」
「っ!? これって……」
さっきの親子が食べていたクレープじゃない。
息を荒くしながら御者台に乗ったメストから差し出された物に、思わず目を見開いたカミルは手綱を離すとおずおずと受け取った。
「さっき、羨ましいそうに見ていただろ? だから、買ってきた」
「『買ってきた』って、こんな人気のもの並ばないと買えないのでは?」
メスト様の話を聞く限り、こんな短時間で買える代物ではないはず。
唖然とした表情でメストとクレープを交互に見たカミルに、メストは少しだけ苦笑いを浮かべた。
「そうだったんだが……何の因果か偶然空いていてな。その隙を狙って買ってきた」
「そう、だったんですね……」
「カミル?」
そっとクレープに視線を落としたカミルは一瞬だけ笑みを浮かべると、表情をいつもの無表情に戻してそっとメストを見た。
「ありがとうございます。大切にいただきますね」
「っ!? おっ、おう……幌馬車は俺が引いておくから、その間食べればいい」
「はい、分かりました」
何だろう、たまに見せてくれるカミルの笑顔に何故だかドキドキしてしまう。男のはずなのに。
カミルの笑顔を見て急に照れくさくなったメストは、カミルから手綱を預かると幌馬車を引き始めた。
そして、カミルは目の前にあるクレープをお行儀良く一口食べた。その瞬間、カミルの目が大きく見開いた。
「どうだ、美味いか?」
「はい。薄皮生地の甘さやクリームの甘さ、果物の甘さと酸味が見事に合わさっていて、とても美味しいです。これなら、いくらでも食べられる気がします」
「ハハッ、そうか! それなら、俺も一口もらうな」
「えっ!?」
驚いて体を硬直させたカミルから豪快に一口を貰ったメストは、もぐもぐしながら満足げな笑みを浮かべた。
「うん、これは確かに美味いな!」
「あっ、あの……」
「ん? 何だ?」
「えっ、と、その……貴族様なのに、平民が食しているものを、召しあがってもよろしいのですか?」
違う。本当はそういうことじゃない。でっ、でも……
耳まで真っ赤にしたカミルが俯いて小声で囁くと、メストは清々しい笑みを浮かべた。
「何言っているんだ。今の俺は、カミルと同じ平民だ。だから、クレープを食べちゃいけないなんてことはないはずだぞ」
「そっ、そんな無茶苦茶な……」
得意げな笑みを浮かべるメストを一瞥したカミルは、呆れたように小さく溜息をついた。そして、そっと大きく齧られたクレープに視線を移した。
それにしても、メスト様もこれを召し上がったのよね……
「どうした、食べないのか?」
「いっ、いえ……いただきます」
首を傾げながら促すメストに、再び顔を真っ赤にしたカミルが蚊の鳴くような小さな声で返事をした。
そうして、カミルは羞恥と戦いながら残りのクレープを完食した。
「ママ、これ美味しいね!」
「そうね。ママにも一口くれない?」
「良いよ! はい、あ~ん!!」
「あ~ん」
メストよりも先に御者台に乗ったカミルは、偶然ベンチに座っていた親子の仲睦まじい光景に目を奪われた。
フフッ、懐かしいな。私にもあんな頃があったわね。
笑いあっている親子を見て、少しだけ切ない気持ちを抱くと、親子が分け合って食べている物が気になった。
「あの」
「ん? 何だ?」
御者台に乗ったメストに、カミルは親子がいる方に視線を向けた。
「あの親子が召し上がっている物。あれは一体、何という食べ物なのでしょうか?」
「あれか。あれは、『クレープ』と呼ばれる食べ物だ」
「クレープ?」
首を傾げるカミルに、メストは小さく笑みを浮かべた。
「あぁ、何でも隣国で流行っている菓子らしく、甘くて食べやすいってことで平民の間で流行っているようだ」
「そうなんですね」
隣国で流行っているお菓子。そして、この国の平民の間でも流行っているお菓子。
でも、甘くて美味しそうだし、私も一応平民だから食べてみたい。でも……
「それにしても、平民のことなのにご存知だったのですね。私も平民ですが、この仕事を始めてからずっと多忙でしたから存じ上げませんでした」
「そうか。まぁ、俺の場合は……随分前になるが、ダリアとデートした時に彼女が教えてくれた」
「そう、だったのですね……」
『ふん、歩きながら菓子を食べるなんてさすが平民。どこまでも卑しい身分だわ。いっそのこと、この国から追い出してしまいましょうか?』
『おい、いくら何でも言い過ぎだぞ』
『何ですか!? メスト様は私の婚約者なのですから、私の味方ではありませんの!?』
教えてくれた時は、一緒に宰相家令嬢らしからぬ発言をしたから、さすがに止めたついでに怒らせてしまったが。
何かを思い出して苦笑するメストをよそに、カミルは僅かにこみ上げた黒い感情を押し殺すと、仲睦まじくクレープを分け合う親子に再び目を向けた。
本当は、私もあんな風に仲が良い家族がいたのに……
「カミル、どうした?」
メストに声をかけられて気が付いたカミルは、小さく頭を振ると手綱を握った。
「何でもありません。それよりも、買い物は全て済ませたのですから、さっさと戻りましょう。戻りが遅いと怒られてしまいますからね」
「あっ、あぁ……」
羨ましそうな目で見ていたカミルと親子を交互に見たメストは、小さく唇を噛むと御者台から降りた。
「えっ、どうしたのですか?」
「すまん、ほんの少しだけ俺に時間をくれないか?」
「はい?」
確か、近くにクレープを売っている場所があったはずだ。
そう言って駆けだしたメストは、強化魔法を使ってクレープ屋に行ってクレープを買った。
そして、再び強化魔法を使ったメストは、買ったクレープを落とさないように幌馬車のところに戻ってきた。
「はぁ、はぁ……カミル、これ」
「っ!? これって……」
さっきの親子が食べていたクレープじゃない。
息を荒くしながら御者台に乗ったメストから差し出された物に、思わず目を見開いたカミルは手綱を離すとおずおずと受け取った。
「さっき、羨ましいそうに見ていただろ? だから、買ってきた」
「『買ってきた』って、こんな人気のもの並ばないと買えないのでは?」
メスト様の話を聞く限り、こんな短時間で買える代物ではないはず。
唖然とした表情でメストとクレープを交互に見たカミルに、メストは少しだけ苦笑いを浮かべた。
「そうだったんだが……何の因果か偶然空いていてな。その隙を狙って買ってきた」
「そう、だったんですね……」
「カミル?」
そっとクレープに視線を落としたカミルは一瞬だけ笑みを浮かべると、表情をいつもの無表情に戻してそっとメストを見た。
「ありがとうございます。大切にいただきますね」
「っ!? おっ、おう……幌馬車は俺が引いておくから、その間食べればいい」
「はい、分かりました」
何だろう、たまに見せてくれるカミルの笑顔に何故だかドキドキしてしまう。男のはずなのに。
カミルの笑顔を見て急に照れくさくなったメストは、カミルから手綱を預かると幌馬車を引き始めた。
そして、カミルは目の前にあるクレープをお行儀良く一口食べた。その瞬間、カミルの目が大きく見開いた。
「どうだ、美味いか?」
「はい。薄皮生地の甘さやクリームの甘さ、果物の甘さと酸味が見事に合わさっていて、とても美味しいです。これなら、いくらでも食べられる気がします」
「ハハッ、そうか! それなら、俺も一口もらうな」
「えっ!?」
驚いて体を硬直させたカミルから豪快に一口を貰ったメストは、もぐもぐしながら満足げな笑みを浮かべた。
「うん、これは確かに美味いな!」
「あっ、あの……」
「ん? 何だ?」
「えっ、と、その……貴族様なのに、平民が食しているものを、召しあがってもよろしいのですか?」
違う。本当はそういうことじゃない。でっ、でも……
耳まで真っ赤にしたカミルが俯いて小声で囁くと、メストは清々しい笑みを浮かべた。
「何言っているんだ。今の俺は、カミルと同じ平民だ。だから、クレープを食べちゃいけないなんてことはないはずだぞ」
「そっ、そんな無茶苦茶な……」
得意げな笑みを浮かべるメストを一瞥したカミルは、呆れたように小さく溜息をついた。そして、そっと大きく齧られたクレープに視線を移した。
それにしても、メスト様もこれを召し上がったのよね……
「どうした、食べないのか?」
「いっ、いえ……いただきます」
首を傾げながら促すメストに、再び顔を真っ赤にしたカミルが蚊の鳴くような小さな声で返事をした。
そうして、カミルは羞恥と戦いながら残りのクレープを完食した。
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