木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

文字の大きさ
138 / 606
第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる

第132話 初めての共同作業

しおりを挟む
 リアスタ村や王都での仕事を終え、カミルと一緒に自主練をしたメストは、手際よく風呂洗いを終えて脱衣所から出ると、料理を作っているカミルの背中越しに顔を覗かせる。


「カミル、風呂洗い終わったぞ……って、何作っているんだ?」
「っ!?」


 (ち、近い! そして、いつになってもこの距離感は慣れない自分が悔しい!)

 料理を作ることに集中しすぎて、背後に立ったメストの存在に気づかなかったカミルは、至近距離で見る彼の整った顔立ちに思わず頬を赤らめるとサッと手元に視線を戻す。


「ハ、ハンバーグの種を作っています」
「ハンバーグの種?」
「は、はい。きょ、今日は、良いお肉のミンチを買いましたから、それを使ってハンバーグを作ろうかと」

 
 (大丈夫かしら? ちゃんといつも通り話せている? あと、汗臭いなんて思われていないわよね?)
 
 普段眠っているカミルの乙女心が、ここぞとばかりに出てきてカミルの不安をあおる。
 だが、そんなことなど知る由もなく、メストはカミルの話を聞いて何かを思い出して納得する。
 
 
「あぁ、そう言えばいつもお世話になっている肉屋でミンチを買っていたな。確か、カミルに『兄ちゃん! 今日は良い肉が入ったんだよ!』って声をかけて、それでミンチを買ったんだったな」
「…………」


 (それ、私じゃなくてメスト様に声をかけたのだと思う。ここ最近、平民でも親しくしてくれるメスト様のことを、良く思ってくれる平民が多くなったから。ミンチを買ったお肉屋さんの店主様もその1人。メスト様に『兄ちゃん! この肉、実はなぁ……』って熱弁していたし。とはいえ、彼が騎士なのはバレていないけれど)

 変な勘違いをしたメストが1人納得しているところを見て、いつもの冷静さを取り戻したカミルは小さく苦笑すると、ボールから手のひらサイズのハンバーグの種を取り出して小刻み良く空気を抜く。
 それを背中越しに見ていたメストが、何かを決意してカミルの隣に立つと意を決して声をかける。


「カミル」
「何ですか?」
「もし、良かったら……俺にも手伝わせてくれないか?」
「はい?」


 メストからの突然の申し出に、空気抜きをしていたカミルの手が止まる。
 すると、視線を逸らしたメストの表情が遠慮がちなものになり、顔の前で大きく手を横に振り始める。


「いや、カミルが邪魔と思うなら別に構わないんだ。だが、もしよかったら手伝わせて欲しい。もちろん、カミルの言うことには絶対に聞く!」


 凛々しい表情で騎士の仕事をしているとは思えない、メストの不安げな表所を見て、一瞬口を噤んだカミルは小さく息を吐く。

 (まぁ、前々から手伝いたそうな目をしていてから別に良いんだけど)


「良いですよ。その代わり、私の言うことは絶対従って下さい。それと、無理だったら遠慮なくおっしゃって下さい。無理に手伝われても困りますから」
「分かった!」
「それでは早速、手を洗ってください。最初はそこからです」
「了解!」


 (何だろう、『手伝わせてもらえる』って分かった途端、一瞬だけ嬉しそうに笑うメスト様が、嬉しそうに尻尾を振っている大型犬に見えたんだけど)

 満面の笑顔で手を洗うメストを一瞥し、一瞬だけ微笑んだカミルは、メストが手を洗い終えたタイミングで無表情に戻すと手に持っていたハンバーグの種を真っ白な大皿に乗せる。
 そして、ボールに残っているハンバーグの種を全て取り出す。


「これが、焼く前ハンバーグ……『ハンバーグの種』です」
「これが、ハンバーグの種」
「はい。まずはこれを持ってください」
「分かった」


 ハンバーグの種を受け取ったメストは、初めて見たハンバーグの種をまじまじと見つめる。

 
「これが焼く前のハンバーグか。これもカミルが一から作ったのか?」
「はい。ミンチ・小麦粉・卵・みじん切りにした玉葱・塩コショウを入れて混ぜただけですが」
「そうなのか! 騎士団本部にある食堂で焼かれたハンバーグをよく食べているが、焼く前のハンバーグを見たのは生まれて初めてだ」
 
 
 (まぁ、貴族令息がハンバーグの種を見る機会なんて滅多に無いでしょうし。私もから)

 目を輝かせてハンバーグの種を見るメストが過去の自分と重なり、懐かしいような恥ずかしいような気持になったカミルは、先程大皿に乗せたハンバーグの種を手に取る。


「では今から、ハンバーグの種の空気を抜きます」
「空気を抜くのか?」
「はい。やり方は、両方の手でこうして交互に種を叩きつけます」
「こう、か?」


 カミルの動きに倣い、メストは手に持っていたハンバーグの種をゆっくりと左右の手に叩きつける。


「そうです。上手いですね。その調子で空気を抜いていってください。これをするのとしないとでは食感が違いますから」
「そうなんだな。だが、どこでやめればいいんだ?」


 首を傾げながら空気抜きをするメストに、カミルは空気抜きをしながら答える。


「それは、私が合図しますからご安心を。それよりも、ハンバーグの種を落とさないでくださいね。あなた様が持っているのは、今日あなた様にお出しするハンバーグなのですから」
「えっ、そうだったのか!? それなら早く行ってくれよ!」
「すみません、言うタイミングを逃していました」


 無表情で淡々と謝るカミルに、思わず苦笑したメストはカミルが合図するまでひたすら空気抜きをしていく。

「それくらいで大丈夫です。では、焼いていきますのでこちらにどうぞ」
「おう!」


 カミルの合図で空気抜きを終えたメストは、カミルに言われるがままフライパンの前に立つ。


「フライパンには油をひいていますので、横からゆっくりと入れてください」
「こ、こうか?」


 初めてのことに戦々恐々としつつ、メストがゆっくりとフライパンの中にハンバーグを入れると、ジュワっといい音が聞えてきた。


「で、出来た」
「良かったですね。後は、焼き目がついたタイミングでひっくり返して、反対側も焼き目がついたら蒸し焼きにして完成です」
「そう、なんだな」


 (それにしても初めてのことに緊張しているメスト様、とても可愛かったわ)

 疲れた顔をしているメストを見て、小さく笑みを零すカミル。

 その後、2人でハンバーグを焼き終えると、仲良くサラダを作り、食卓に並べて、美味しい料理にありついた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...