木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる

第141話 俺にも守らせて

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「俺も行く」
「はっ?」


 魔物討伐に行くカミルに対し、いつになく真剣な表情のメストが一緒に行くと告げる。
 彼の突然の申し出に、一瞬呆気にとられたカミルだったが、先程のことを思い出して僅かに眉を顰める。


「何をおっしゃっているのですか? 先程まで頭痛で苦しんでいたではありませんか」


『うぐっ!』
『メスト様!』
 
 突然の頭痛に苦しむメストを思い出し、咎めるようにメストを睨みつけるカミル。
 しかし、メストは一歩も引かなかった。


「だが今は、カミルがくれた薬のお陰ですっかり良くなった。だから、魔物と戦っても問題無い」
「そうかもしれませんが、また同じようなことが起きるかもしれませんよ?」


 (そもそも、病み上がりの人を魔物討伐に連れていくなんて出来ないわ。魔物の群れのど真ん中で、先程のような頭痛を起こされたら、間違いなく魔物の標的になって、足手纏いにしかならないから)

 中々引いてくれないメストに、カミルが内心苛立ちを覚えていると、メストがマジックバックから何かを取り出す。


「その時は、この治癒ポーションを使う。一応、何本か持ってきているから安心してくれ」
「……確かに、それなら頭痛は収まりますね」


 メストが手に持っている緑色の液体が入った瓶を見て、一瞬驚いたように見開いたカミルは納得したように頷く。
 けれど、カミルは今のメストを連れていくわけにはいかなかった。


「ですが、あなた様は今、休暇中の身。当然のことですが、魔物討伐に相応しい武器と呼べるものは、せいぜいカモフラージュ用の片手剣ぐらいしか……」
「あぁ、これか」


 そう言って、メストは帯刀していた剣の鞘を持つと小さく笑みを浮かべる。


「これは、俺が実家で自己鍛錬用に使っている剣だ。と言っても、常に手入れをしているから、切れ味は仕事で使っている剣とあまり変わらない。だから、これで魔物を切ることは出来る。それに、この服には鎧と同じ防御魔法が付与されている。どうだ、行っても大丈夫だろ?」
「ですが……」

 
 メストの言葉を聞いても尚、彼を連れて行く決心のつかないカミルは心配そうな目でメストを見つめる。
 すると、メストがそっとカミルの華奢な肩にごつごつとした大きな手を置く。


「カミル。ここには、お前の守りたいものがあるのだろ?」
「ま、まぁ、そうですね」


 (エドガスから引き継いだこの家とステイン。そして、エドガスが守りたかったリアスタ村の人達。ここには、私の守りたいものが確かにある)

 
「それなる、俺にも守らせて欲しい」
「っ!?」


 騎士らしい真剣な表情で懇願するメストを見て、大きく目を見開いたカミルの胸が高鳴る。

 (そうだ、私の目の前にいるこの人は、いつだって騎士としての誇りを持つ、優しくて己の信念を決して曲げない強い人だったわ)

 メストの『守らせて欲しい』という強い意志が宿ったアイスブルーの瞳に、小さく溜息をついたカミルは、肩に置かれた手を振り払うとメストに向き合う。


「言っておきますが、この場には馬は一頭しかいません。当然、私が使います。その際、あなた様は自力で森を駆けていただきます」
「承知の上だ」
「…………」


 (本当は、この家で大人しくして欲しいのだけど……そう簡単には折れてくれないわよね。分かっていたけど)

 深く頷くメストの返事に、カミルは拳を握ると話を続ける。


「そして、ここには私とあなた様しかいません。ですので、騎士団の皆様で魔物討伐をするのとはわけが違います。それでもよろしければ……」
「分かっている。自分の身は自分で守る。そして、カミルの足を引っ張らないよう騎士として勤めを果たそう」
「……分かりました。では、私は馬小屋に用事があるので、あなた様はステインと一緒に外で待っていてください」
「おう!」


 (何を言っても決心が揺るがないのなら、私は彼の決心を信じるしかないわよね)
 
 メストが力強い返事を聞いて、覚悟を決めたカミルは勢いよく外に出ると馬小屋に駆け出す。
 そして、馬小屋から鞍を持ってくると、自宅近くでメストと一緒に待っていたステインに鞍をつけて颯爽と騎乗すると隣にいたメストを見降ろす。


「あの、魔物討伐に行くにあたって、1つどうしても守って欲しいお願いがあります」
「何だ?」


 魔物討伐を前に険しい顔をするメストに、カミルが真剣な表情でお願いをする。


「絶対に、死なないでください」


 (あなたに死なれては、私は……!)

 祈るような気持でお願いしたカミルに、大きく目を見開いたメストは少しだけ口角を上げると大きく頷く。


「もちろんだ!」


 (騎士として、これからも国を守りたい! そして、カミルとこれからも一緒に鍛錬をしたい! だから、絶対に死なない!)

 頼もしい返事をするメストを一瞥し、カミルはスッと前に視線を向ける。
 

「それでは、行きますよ」
「了解!」


 ぽっかりと浮かぶ月の下、木こりと騎士は己の役目を果たすため、闇夜に包まれた森の中を疾走する。

 そして、この出来事で木こりは大切な人と再会を果たすことになる。

 ――その頃、王都では魔物の出現に気づいた宮廷魔法師団が魔物討伐に向けて準備をしていた。
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