木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる

第142話 対峙する親友(前編)

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 ――時は、カミルとメストが夜の魔物討伐へ赴く数十時間前まで遡る。


「……ということで、今回の魔物討伐についての報告は以上です。詳細につきましては、報告書に記載しております」
「分かった。ご苦労だった」
「はい、失礼致します」


 昨夜仕上げた魔物討伐の報告書を朝一で上司に提出し、口頭で魔物討伐について簡単に報告したカトレアは、深々と頭を下げると魔法師団長の執務室を後にする。

 (はぁ、今回の魔物討伐は珍しく大規模だったわ。しかも、団長が帝国領で発生した魔物討伐の応援に行っているタイミングで、大量の魔物達が現れたから一時はどうなるかと思ったわ)

 
「でもまぁ、今回は宮廷魔法師団と一緒に第二騎士団との連携が上手く取れたから、思ったよりも被害を抑えられて良かった」


 宮廷魔法師の仕事に誇りを持っているカトレアは、執務室から自室へ戻る道すがら、先に起こった大規模な魔物討伐を振り返り安堵の溜息をつく。
 すると、目の前から灰色のローブを着た男が走ってきた。


「カトレア様!」
「あら、どうしたの?」


 人がほとんど歩いていない大きな廊下で名前を呼ばれ、立ち止まったカトレアが小さく小首を傾げると、灰色ローブ男はカトレアの前に立ち止まり、額についた大量の汗を気にせず懐から小箱型の魔道具を取り出す。


「そ、それが! 帝国で既に実用化されている魔道具を参考に、火属性の中級魔法を魔道具に付与しようと試みているのですが、どうも上手くいかないのです」
「あぁ、あれね」


 (確か、研究のためにわざわざ帝国まで赴いて、他国嫌いで有名な我が国の宰相に黙って買ってきたというあの魔道具ね)

 灰色ローブ男の話と取り出した試作品の魔道具を見て、納得したカトレアは男から魔道具を受け取ると真剣な表情で魔道具を見る。


「えーっと、これなら確か……」
「そんなことも出来ないなんて、それでもあなた、宮廷魔法師なの?」
「へっ?……うぐっ!!」
「っ!?」


 高慢に満ちた声が2人の耳に届いた瞬間、灰色ローブ男が廊下横に吹き飛ばされる。


「へぇ~、これが帝国で開発されている玩具なのね。魔法においては王国より劣っているくせに、こういうのを作る技術は王国より優れているのね」
「ダリア!」


 突如として2人の前に現れたのは、夜会用ドレスと思わんばかりのド派手で真っ赤なドレスを着たダリアだった。
 突然の彼女の奇行に、呆気に取られていたカトレアだったが、彼女が持っている魔道具を見て思わず絶句する。

 (ダリアが持ってきたあの魔道具って、本来、研究用として宮廷魔法師師団本部内にある研究室以外の持ち出しは禁止だったはず!)

 彼女が持っていたそれは、本来、持ち出し禁止のはずの帝国で作られている風属性の中級魔法が付与された筒型の魔道具だった。
 
 (どうして、ダリアが持って、それを研究員の男に使って……って、そんな場合じゃない!)
 
 満足げに笑っているダリアの奇行が理解出来なかったカトレアは、ダリアに背を向けて、廊下の端で苦しそうに蹲っている灰色ローブの男に慌てて駆け寄る。


「大丈夫? 怪我は無い?」
「は、はい。咄嗟に風属性が付与された魔道具を発動させて受け身を取りましたから何とか……」


 そう言って、灰色ローブ男は弱々しく笑いながら指輪型の魔道具をカトレアに見せる。
 それを見たカトレアは、一瞬顔を歪ませると懐から銀色の指輪を取り出す。


「待っていて、念のため治癒魔法をかけるから」
「あら、それなら私にかけて欲しいわぁ~。さっき、玩具を使っちゃったせいで小指の爪が欠けちゃったのよぉ~」
「…………」


 (そんなものは、専属の治癒魔法師にでも治してもらいなさい。自業自得なのだから)

 研究所から持っていた魔道具に飽きたのか、ゴミのように投げ捨てたダリアは、僅かに爪が欠けた自分の小指を大袈裟に心配する。
 そんな彼女を一瞥したカトレアは、彼女のお願いを無視すると指輪に魔力を込めて灰色ローブ男に治癒魔法をかける。


「《ヒール》」
「っつ……ありがとうございます」


 カトレアの詠唱に呼応し、男の体が淡く白く光ると、弱々しく笑っていた男の顔に安堵の笑みが現れる。

 (良かった、上手くいったみたい)

 男の顔を見てカトレアが安心した瞬間、男の顔が一瞬にして青白くなり、険しい顔をしたカトレアは背後に迫る魔力へ向かって片手を伸ばす。


「《ファイヤーアロー》!」
「《ファイヤーアロー》」


 背後から飛んできた火の矢を火の矢で防いだカトレアは、小さく溜息をつくとゆっくりと立ち上がって振り返る。
 そこには、不満げな顔でカトレアを睨みつけているダリアがいた。

 (全く、たかが治癒魔法を施されなかったからって魔法をぶつけるなんて。そもそも……)


「ダリア。宰相家の娘なのだから知っていると思うけど、王城内での魔法の使用はされているのよ。それを分かっていて、私に魔法をぶつけたのかしら?」


 険しい顔のまま毅然とした態度で問い質すカトレアに、機嫌を悪くしたダリアが軽く鼻を鳴らす。


「フン! そんなの、でしょ」
「えっ?」


 (社交界の手本となるべき宰相家令嬢が、こんな初歩的なことを知らないなんて……)

 唖然とするカトレアをダリアが鋭く睨みつける。


「それに、『稀代の天才魔法師』様とはいえ、一介の宮廷魔法師でしかないあなたが、宰相家令嬢である私に意見するなんて許されないわよ」
「あんた、いきなり何を言って……」
「カトレア。親友とはいえ、少しは自分の立場をわきまえなさい」
「っ!?」


 (あんた、今の今までそんなことを一度も言ったことが無かったじゃない。でも、本来なら彼女の立場を考えてわきまえるべきだったのよね。それにしても……)

 ダリアの言葉に落ち込んだカトレアはそっと呟く。
 

「宰相家の令嬢でしかない親友あなたが、いつの間にか王族に対して反逆と見なされることをしても許される立場にいたなんて知らなかったわ」
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