木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる

第143話 対峙する親友(後編)

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「ねぇ、何か言った?」
「いえ、何でも」


 怪しむように睨みつけてきたダリアの視線をものともしないカトレア。
 そんな彼女を面白くないと思いつつ、ダリアはカトレアに命じる。


「そう。なら、早く私にも治癒魔法をかけて。この玩具、欠陥品すぎて怪我しちゃったから」
「っ!……かしこまり、ました」


 欠けた爪を見せつけるように小指をひらひらさせるダリアに、僅かに下唇を噛んだカトレアは、持っていた銀色の指輪型の魔道具に魔力を込めるとダリアに向かって手をかざす。


「……《ヒール》」


 渋々といった表情でカトレアが治癒魔法をかけると、僅かに欠けた小指の爪が戻り、ダリアが満足そうな笑みを浮かべる。


「カトレア、ありがとう。本当、帝国の魔道具はどいつもこいつも使えないわね!」
「っ!?」


 そう言って、ダリアは足元に落ちている魔道具を真っ赤なハイヒールで思いっきり踏みつける。

 (あんた、本当に何をやっているの!? さっきの魔法もそうだったけど!)

 宰相家の令嬢とは思えないダリアの蛮行にカトレアが呆気に取られる
 すると、カトレアに治癒魔法をかけてもらった灰色ローブ男が、顔を真っ青にしながら慌てて駆け出し、ダリアに踏まれている魔道具を回収する。


「あんた、何やってくれているの! この私がわざわざ帝国の欠陥品をゴミにしてやっているのよ!」


 邪魔が入られて怒鳴り散らすダリアに、男はその場に片膝をつくとゆっくりと頭を下げる。


「申し訳ございません。ですが、こちらの魔道具は研究材料としてわざわざ帝国に赴いて入手した物です。なので、無下に扱うことが出来ません」


 踏みつけられた魔道具を大事そうに抱える男に、眉を吊り上げたダリアが更に怒鳴り散らす。


「何よ! たかが、玩具じゃない! それを後生大事にするなんてバカじゃないの!? それでもあんた、この国の宮廷魔法師なの!?」


 帝国の魔道具を『玩具』呼ばわりするダリアに、堪忍袋の緒が切れた男は冷気を纏った声で反論をする。
 
 
「お言葉ですが、我が国の魔道具技術は帝国の魔道具技術に比べて遥かに劣っています。なので、我々はわざわざ帝国に赴き、帝国の魔道具を手に入れてこうして研究しているのです」
「なっ!」


 男の言い分に顔を真っ赤にしたダリアは、地を這うような声で男に手を伸ばす。

 
「あんた、宰相家令嬢である私に、よくそんなことが言えたわね。そんなことを言って、生きて帰れない覚悟は出来ているわよね!?」


 そう言って、ダリアが男に向かって魔法を放とうとしたその時、男性の後ろで啞然としていたカトレアが慌てて男の前に立つ。


「……カトレア、そこをどきなさい。そいつは、王国に対して無礼を働いたのよ」


 激情のままに魔法を放とうとするダリアから鋭く睨まれ、僅かに眉を顰めたカトレアは小さく首を横に振る。


「ダリア。さっきも言ったけど、王城内での魔法の使用は禁止されている」
「けど、その男はこの国を悪く言って……!」
「それについては、私から団長に報告するわ。その上で、団長に彼の処遇を決めてもらう。だから、宰相家令嬢であるあなたが、ここ宮廷魔法師団本部で起きたことに手を出さなくていい」


 毅然とした態度で男の前に立ちはだかるカトレアを見て、小さく舌打ちをしたダリアが伸ばしていた手を降ろす。


「そういうことなら、今回は『稀代の天才魔法師』であるあなたの顔に免じ、この男の無礼は不問にするわ」
「……寛大な処置、ありがとうございます」


 (こいつ、私の言ったことを聞いていなかったのかしら? この男の処遇は団長が決めるのよ)

 ダリアの言動に内心不満を抱きつつ、カトレアは恭しい頭を下げる。
 そんな彼女を見て、機嫌を直したダリアはカトレアに命令をする。


「カトレア。私は、あなた専用の執務室にいるから早く来てちょうだい」
「かしこまりました」


 頭を上げないカトレアに、子馬鹿にしたような蔑んだ笑いを漏らしたカトレアは、ハイヒールを鳴らしながら侍女と共にその場を後にした。


 ◇◇◇◇◇

 
「はぁ、行ったみたいね」


 (本当はこのままタウンハウスに帰って欲しいんだけど)

 ハイヒールの音が聞えなくなり、顔を上げたカトレアが小さく溜息をつく。
 すると、カトレアの後ろにいた部下が、カトレアに向かって深々と頭を下げる。


「カトレア様。治癒まで施してくださっただけでなく、私のことをかばってくださり、本当にありがとうございます!」


 感謝を伝える男に、振り返ったカトレアが笑みを浮かべる。

 
「良いのよ。たいしたことしてないし。それよりもあんた、動いて大丈夫なの?」
「はい! カトレア様が迅速に治癒魔法を施してくださったお陰で、痛みが引きました!」
「そう、それなら良かったわ」


 安心したカトレアは、勇敢に魔道具をダリアから回収してくれた男に感謝を伝える。

 
「それと、こちらこそお礼を言わないとね。魔道具の回収、ありがとう。あなたのお陰で助かったわ」
「いえ、研究者として研究材料を守るのは当然のことです!」


 顔を上げた男の誇らしげな笑みに、カトレアが笑みを深める。
 すると、男が笑みを潜めて真剣な表情になる。


「カトレア様。先程の魔道具の件、研究所へ来られた際に改めてご相談させていただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんよ」
「ありがとうございます。それでは、失礼致します」


 再び深々と頭を下げた男は、仕事に戻ろうと足早にその場を後にする。

 (さて、私を含めた3人しかこの場にいなかったとはいえ、宮廷魔法師団本部内で魔法が使われたことを団長に報告しないと)


「その前に、あの子の応対が先ね」


 灰色ローブ男の背中を見送ったカトレアは、深く溜息をつくと重い足取りでダリアが待っている執務室に戻る。
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