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第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる
第144話 婚約者に縛られるなんて絶対嫌!
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「あら、戻ってくるのが遅かったじゃない」
「そうね、色々あって」
(主に、あんたのせいで)
団長室からようやく自室に戻ってきたカトレアは、我が物顔で応接セットのソファーに座り、侍女が淹れてくれた紅茶を飲んで寛ぐ親友を見て、思わず溜息をつきそうになる。
学生時代に魔法師達の中でも習得が難しい上級魔法を取得したカトレアは、魔法師としての優秀さから『稀代の天才魔法師』と言われている。
そんな彼女を考慮し、普通ならば団長・副団長クラスにしか許されていない個別の執務室を特別に与えられている。
(というのは表向きの理由で、本当は親友であるダリアを考慮して用意された部屋。早く言えば、私は彼女の相手……もとい、厄介払いの仕事を押し付けられたのよね)
「あら、いつまでも突っ立ってないでさっさと座りなさいよ」
「……そうね、そうするわ」
(まぁ、他の魔法師と同じように団員用の執務室でも充分に事足りるんだけど、彼女が執務室に来るとなぜか他の魔法師にも危害を加えているから、見かねた団長が私専用の部屋を用意してくれたのよね)
そんなことを思い出し、つきそうになる溜息を無理矢理飲み込んだカトレアは対面のソファーに座り、ダリアの侍女から差し出された紅茶で喉を潤す。
「……それで、一体何の用なのかしら?」
最高級茶葉を使った紅茶で一息つき、ティーカップを置いたカトレアが問い質すと、ダリアが得意げな笑みを浮かべて口を開く。
「『何の用?』って決まっているじゃない。わざわざ遊びに来てあげたのよ」
「そんなことだろうと思ったわ」
(全く、魔物討伐の事後処理がひと段落した時に、どうしてわざわざ来たのかしら?)
小さく溜息をついたカトレアを見て、ダリアが不満げに頬を膨らます。
「もう! カトレアまで私に冷たいなんて信じられない!」
「私があなたに冷たいのはいつものことじゃない。今更、何を言っているの?」
(こうして、わざわざ仕事の手を止めてあなたの話に付き合ってあげているのに)
『何を今更』と言わんばかりにカトレアが眉を顰めると、更に頬を膨らませたダリアが目の前に置かれたクッキーへ手を伸ばす。
「それに、シトリン様やラピスだって私に冷たいのよ! メスト様も最近、私に冷たくなったし!」
「シトリン様やラピスが冷たいのは元からだと思うけど……メスト様が冷たくなったの?」
(婚約者のことをとことん甘やかしているあのメスト様が?)
ラピスからメストのダリアに対する溺愛ぶりを聞いていたカトレアは、『メストがダリアに対して冷たくなった』という話がイマイチ信じられなかった。
そんな彼女に、大口を開けてクッキーを放り込んだダリアは、咀嚼して紅茶を一気飲みすると、ここ最近のメストの態度に怒りを露わにする。
「そうよ! 辺境にいた頃は私のことをとことん甘やかして、私の言うことには全て肯定してくれたのに、王都に来た途端、急に冷たくなって、最近では私のことを叱るようになったのよ! 私、宰相家令嬢だから怒られることなんて全くしていないのに!」
(『怒られるようなことを全くしていない』って言うけど、仕事中の私のところに押しかけてきて、我が物顔でソファーに寛いでいる姿を見て、とてもそうは思えない)
今のダリアを見て、『全く説得力が無い』と思ったカトレアは、膨れっ面で侍女が淹れてくれた紅茶を再び一気飲みするダリアを見て、少しだけ口を噤むと淑女の笑みを浮かべてダリアを諫める。
「でも、近衛騎士団の第四部隊の隊長に選ばれて、仕事が更に忙しくなったから、ストレスが溜まってつい怒っちゃったのかもしれないわよ」
(それか、メスト様が王都に来てから、ダリアの横暴ぶりに拍車がかかったか)
近衛騎士になってから忙しくしているのは、カトレアもラピスから聞いていた。
だから、カトレアはメストを擁護するようにダリアを慰めたのだが、それを聞いたダリアは何かを思い出して反論する。
「それにここ最近、メスト様ったら私とデートしてくれなくなったの! 本当、信じられない! 婚約者なら、休みの日が来ればそれを婚約者とのデートに使うのが当然でしょ!?」
「ま、まぁ、そうかもしれないけど……」
すると、ふと随分前にラピスから聞いた話を思い出す。
(確か、メスト様がダリアとデートしてくれない理由って……)
「ねぇ」
「何よ」
「ラピスから聞いたんだけど、メスト様がデートのお誘いをする度に、あなた、わざわざ騎士団本部に行って断っているんでしょ」
(そう、この子は婚約者からデートを誘われる度に自ら断っていた。それで、『何度か断られるうちに、メスト様からデートに誘うことが無くなった』ってラピスから言っていたわね)
「あぁ、あれね」
カトレアの話を聞いて思い出したダリアは、口いっぱいに頬張ったクッキーを咀嚼し終えると、少々不機嫌そうな顔でメストからの誘いを断る理由を口にする。
「そんなの、私の都合を聞かないままデートに誘うメスト様が悪いからに決まっているじゃない」
「そう、なのかもしれないけど……でも、あなたはメスト様の休みを知らないんでしょ?」
「当然よ。いくら宰相家令嬢でも、野蛮な騎士団の事情なんて知るわけがないわ」
「だとしたら、メスト様がダリアをデートに誘う時、休みの日をダリアに伝えるのはごく自然のことじゃないの?」
第二騎士団にいた頃は、ダリアが辺境に来る日を休みにしてくれていたので、メストがダリアに休みを伝えることはしなかった。
だが、王都に来て仕事が忙しくなったメストは、ダリアをデートに誘う時は必ず休みの日を伝えるようにしていた。
『休みの日をダリアのために使いたい』という彼のダリアに対する思いがあったから。
(私だって、休みの日が分かったら一応ラピスに手紙を送っているし、彼だって休みの日が分かれば手紙を送ってくれる。だから、メスト様のしていることはごく当然のことなのでは?)
小首を傾げたカトレアが空っぽのティーカップを静かに置いた時、不機嫌さが増したダリアは自慢の黒髪を後ろに流す。
「そんなのどうでもいい。婚約者であるメスト様が私の都合を聞かずデートに誘うのが悪いのよ」
「だったら、あなたがメスト様に自分の都合の良い日を教えてあげれば……」
「嫌よ。どうしてわざわざ婚約者に自分のプライベートを教えてあげないといけないの? そんなの、プライバシーの侵害じゃない。それに、自分の都合を一々教えるなんて面倒だし、そういうのは男性の方から先に明かすのがマナーじゃないの?」
「それならメスト様が……」
「そもそも!」
侍女が淹れてくれた紅茶を一気飲みしたダリアは、音を立てながらティーカップを置くと、再び眉を吊り上げてソファーから立ち上がってカトレアに顔を寄せる。
「私、婚約者に縛られる生活が嫌なの! だから、私の都合を婚約者に合わせるなんて絶対無理!」
「そうね、色々あって」
(主に、あんたのせいで)
団長室からようやく自室に戻ってきたカトレアは、我が物顔で応接セットのソファーに座り、侍女が淹れてくれた紅茶を飲んで寛ぐ親友を見て、思わず溜息をつきそうになる。
学生時代に魔法師達の中でも習得が難しい上級魔法を取得したカトレアは、魔法師としての優秀さから『稀代の天才魔法師』と言われている。
そんな彼女を考慮し、普通ならば団長・副団長クラスにしか許されていない個別の執務室を特別に与えられている。
(というのは表向きの理由で、本当は親友であるダリアを考慮して用意された部屋。早く言えば、私は彼女の相手……もとい、厄介払いの仕事を押し付けられたのよね)
「あら、いつまでも突っ立ってないでさっさと座りなさいよ」
「……そうね、そうするわ」
(まぁ、他の魔法師と同じように団員用の執務室でも充分に事足りるんだけど、彼女が執務室に来るとなぜか他の魔法師にも危害を加えているから、見かねた団長が私専用の部屋を用意してくれたのよね)
そんなことを思い出し、つきそうになる溜息を無理矢理飲み込んだカトレアは対面のソファーに座り、ダリアの侍女から差し出された紅茶で喉を潤す。
「……それで、一体何の用なのかしら?」
最高級茶葉を使った紅茶で一息つき、ティーカップを置いたカトレアが問い質すと、ダリアが得意げな笑みを浮かべて口を開く。
「『何の用?』って決まっているじゃない。わざわざ遊びに来てあげたのよ」
「そんなことだろうと思ったわ」
(全く、魔物討伐の事後処理がひと段落した時に、どうしてわざわざ来たのかしら?)
小さく溜息をついたカトレアを見て、ダリアが不満げに頬を膨らます。
「もう! カトレアまで私に冷たいなんて信じられない!」
「私があなたに冷たいのはいつものことじゃない。今更、何を言っているの?」
(こうして、わざわざ仕事の手を止めてあなたの話に付き合ってあげているのに)
『何を今更』と言わんばかりにカトレアが眉を顰めると、更に頬を膨らませたダリアが目の前に置かれたクッキーへ手を伸ばす。
「それに、シトリン様やラピスだって私に冷たいのよ! メスト様も最近、私に冷たくなったし!」
「シトリン様やラピスが冷たいのは元からだと思うけど……メスト様が冷たくなったの?」
(婚約者のことをとことん甘やかしているあのメスト様が?)
ラピスからメストのダリアに対する溺愛ぶりを聞いていたカトレアは、『メストがダリアに対して冷たくなった』という話がイマイチ信じられなかった。
そんな彼女に、大口を開けてクッキーを放り込んだダリアは、咀嚼して紅茶を一気飲みすると、ここ最近のメストの態度に怒りを露わにする。
「そうよ! 辺境にいた頃は私のことをとことん甘やかして、私の言うことには全て肯定してくれたのに、王都に来た途端、急に冷たくなって、最近では私のことを叱るようになったのよ! 私、宰相家令嬢だから怒られることなんて全くしていないのに!」
(『怒られるようなことを全くしていない』って言うけど、仕事中の私のところに押しかけてきて、我が物顔でソファーに寛いでいる姿を見て、とてもそうは思えない)
今のダリアを見て、『全く説得力が無い』と思ったカトレアは、膨れっ面で侍女が淹れてくれた紅茶を再び一気飲みするダリアを見て、少しだけ口を噤むと淑女の笑みを浮かべてダリアを諫める。
「でも、近衛騎士団の第四部隊の隊長に選ばれて、仕事が更に忙しくなったから、ストレスが溜まってつい怒っちゃったのかもしれないわよ」
(それか、メスト様が王都に来てから、ダリアの横暴ぶりに拍車がかかったか)
近衛騎士になってから忙しくしているのは、カトレアもラピスから聞いていた。
だから、カトレアはメストを擁護するようにダリアを慰めたのだが、それを聞いたダリアは何かを思い出して反論する。
「それにここ最近、メスト様ったら私とデートしてくれなくなったの! 本当、信じられない! 婚約者なら、休みの日が来ればそれを婚約者とのデートに使うのが当然でしょ!?」
「ま、まぁ、そうかもしれないけど……」
すると、ふと随分前にラピスから聞いた話を思い出す。
(確か、メスト様がダリアとデートしてくれない理由って……)
「ねぇ」
「何よ」
「ラピスから聞いたんだけど、メスト様がデートのお誘いをする度に、あなた、わざわざ騎士団本部に行って断っているんでしょ」
(そう、この子は婚約者からデートを誘われる度に自ら断っていた。それで、『何度か断られるうちに、メスト様からデートに誘うことが無くなった』ってラピスから言っていたわね)
「あぁ、あれね」
カトレアの話を聞いて思い出したダリアは、口いっぱいに頬張ったクッキーを咀嚼し終えると、少々不機嫌そうな顔でメストからの誘いを断る理由を口にする。
「そんなの、私の都合を聞かないままデートに誘うメスト様が悪いからに決まっているじゃない」
「そう、なのかもしれないけど……でも、あなたはメスト様の休みを知らないんでしょ?」
「当然よ。いくら宰相家令嬢でも、野蛮な騎士団の事情なんて知るわけがないわ」
「だとしたら、メスト様がダリアをデートに誘う時、休みの日をダリアに伝えるのはごく自然のことじゃないの?」
第二騎士団にいた頃は、ダリアが辺境に来る日を休みにしてくれていたので、メストがダリアに休みを伝えることはしなかった。
だが、王都に来て仕事が忙しくなったメストは、ダリアをデートに誘う時は必ず休みの日を伝えるようにしていた。
『休みの日をダリアのために使いたい』という彼のダリアに対する思いがあったから。
(私だって、休みの日が分かったら一応ラピスに手紙を送っているし、彼だって休みの日が分かれば手紙を送ってくれる。だから、メスト様のしていることはごく当然のことなのでは?)
小首を傾げたカトレアが空っぽのティーカップを静かに置いた時、不機嫌さが増したダリアは自慢の黒髪を後ろに流す。
「そんなのどうでもいい。婚約者であるメスト様が私の都合を聞かずデートに誘うのが悪いのよ」
「だったら、あなたがメスト様に自分の都合の良い日を教えてあげれば……」
「嫌よ。どうしてわざわざ婚約者に自分のプライベートを教えてあげないといけないの? そんなの、プライバシーの侵害じゃない。それに、自分の都合を一々教えるなんて面倒だし、そういうのは男性の方から先に明かすのがマナーじゃないの?」
「それならメスト様が……」
「そもそも!」
侍女が淹れてくれた紅茶を一気飲みしたダリアは、音を立てながらティーカップを置くと、再び眉を吊り上げてソファーから立ち上がってカトレアに顔を寄せる。
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