木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる

第145話 僅かな異変

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「あんた、何を言っているの?」

 
 (婚約者が婚約者の都合に合わせるなんて当然のことじゃない。それを『婚約者に縛られるから嫌』って)

 メストの婚約者としての気遣いを疎ましく思っているダリアに、カトレアが言葉を失っていると、カトレア専用の執務室を見回したダリアが何かを思い出して鼻で笑う。
 
 
「それにしても、宮廷魔法師団本部の内装って本当殺風景ね。騎士団本部といい勝負」


 (婚約者の次は宮廷魔法師団本部に対しての愚痴ですか。まぁ、どうでもいいけど)

 婚約者に対して愚痴を聞いて既に疲れているカトレアは、愚痴の矛先を婚約者から宮廷魔法師団本部の殺風景な内装へ移したダリアに、国防の両翼を担う2つの団の内装について説明する。


「宮廷魔法師団本部と騎士団本部は国防を担っている場所だから、王宮のような華やかさよりも、有事が起こった時にすぐに動ける機能性を重要視しているの」


 (実際、本部の廊下には王宮に置いていそうな骨董品は一切置かれていない。なぜなら、有事が起こった際、本部内にいる団員全員が駆け回ることになるから邪魔になるのよ)

 国防を担っているからこそ、2つの団はいち早く事態に駆けつけられるよう内装をシンプルして機能性を上げている。

 カトレアからシンプルな内装にしている理由を聞いたダリアは、納得しつつも華やかではない内装がやはり気に入らないようである。
 

「ふ~ん。それでも、王城の敷地内にあるのだから、少しは華やかにするべきよ。私のような高貴な貴族や王族の皆様が来た場合、その方達にこの殺風景な様子を見せるの?」
「…………」
 

 ダリアの言葉を聞いたカトレアが、僅かに眉を顰める。

 (あんた、人の話聞いていた? 有事の際、邪魔になるから華やかにしていないの。それに、貴族や王族が本部に来るなんてまずもってありえない。みんな、あんたみたいに暇じゃないのよ)

 不満を募らせるカトレアは、ダリアの言い分に反論する。
 

「そもそも、私を含めてここに働いている魔法師の大半が貴族出身よ。確かに、最初に来た時はあまりの殺風景さに驚きはしたわ。けど、内装がシンプルな理由を聞いてからは気には留めていないわ。それは、他の団員も一緒。あと、王族は国内のことで忙しいんだから滅多に来ないわよ」


 (むしろ、魔物討伐の拠点の1つであり、魔法や魔物の研究も担っているこの場所に華美な装飾なんて必要ないわ)


「どうぞ」
「ありがとうございます」

 
 お代わりの紅茶を淹れてくれた侍女に軽く頭を下げたカトレアは、『魔物討伐で出入りが激しいこの場所に、王城のような華やかはい必要無い』と思いつつ貴族令嬢らしく優雅に紅茶に口をつける。
 すると、大口を開けてクッキーを放り込んだダリアが、酷くつまらなそうな顔をしながら膝の上で頬杖をつく。


「そう。でもやっぱり、装飾に力を入れるべきだわ。こんな殺風景な雰囲気だと、高貴な貴族や王族の皆様に失礼よ」
「……分かったわ。時間が空いた時にでも、団長にかけあってみる」
「フフッ、さすが『稀代の天才魔法師』様ね」
「やめてちょうだい。私、その2つ名、あまり好きじゃないのよ」
「そう? 私には、カトレアにピッタリの2つ名だと思うけど」
「…………」


 機嫌を直したダリアから揶揄われ、小さく溜息をついたカトレアはダリアが先程から食べているクッキーを手に取る。

 (なぜか分からないけど、今の私にその2つ名分不相応だと思う。むしろ、私以上の優秀な魔法師にお似合いの2つ名だと……)

 その時、カトレアの脳裏に男の声が蘇る。
 

『カトレア嬢。本当に火属性以外の属性魔法を修得する気なのですか? あなたが今からしようとしていることは、火魔法を絶対としているティブリー家の考えに反しますが……』
『はい! だって私、あなた様の複合魔法を見て、火属性魔法以外の属性魔法を修得しようと思ったのですから!』


 (幼い頃、淡い緑色の髪に銀色の瞳をした青年が、私に魔法の鍛錬を兼ねて見せてくれた。その魔法は、水属性と風属性の初級魔法を組み合わせた複合魔法だった)

 カトレアの脳裏に蘇ったその魔法は、幼いカトレアにはすごく綺麗に見え、火魔法を絶対と思っていたカトレアの常識を一瞬にして変える。
 
 (陽光に照らされたその魔法の鮮やかさに、幼い私は一瞬で心を奪われ、この人のような魔法師になりたいと誓った。でも、その人は確か……)


「うっ!!」
「カトレア~? どうかしたの~?」


 何かを思い出そうとした瞬間、突然、カトレアが激しい頭痛に襲われる。

 (何、これ? 一体、何が起こったの?)


「カトレア~? 本当にどうしたの~?」
 

 不思議そうに見つめているダリアをよそに、カトレアは頭がかち割れるような痛みに耐えつつ、懐から治癒魔法が付与された指輪を取り出すと魔力を込めて詠唱する。


「《ヒール》」


 その瞬間、カトレアの体を淡く白い光が包み込み、カトレアを襲っていた頭痛がみるみるうちに引いていった」
 
 
「ハァ、ハァ……ふぅ、どうにか収まったわ」
「大丈夫、カトレア?」
「えぇ、大丈夫よ」


 不思議そうな顔で可愛らしく小首を傾げるダリアに対し、辛うじて笑みを浮かべたカトレアがゆっくり頷く。
 すると、執務室のドアがノックされた。
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