木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

文字の大きさ
152 / 606
第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる

第146話 小間使いテオ

しおりを挟む
 コンコンコン


「どうぞ」
「失礼致します」


 カトレアが返事をすると、重厚な木製の扉が開かれ、目元部分をくり抜いただけの真っ白な仮面を付け、フードを深く被った黒ローブを纏った長身で細身の男が入ってきた。


「カトレア様、そろそろ会議の時間でございます」
「そう、分かったわ。すぐに向かう」
「かしこまりました」


 深々と頭を下げた男が部屋を後にしようとした時、『玩具を見つけた』とニヤリと嗤ったダリアが、男の背中に向かって手を翳すと赤い魔法陣を展開する。


「っ!?」


 (しまった、このままじゃダリアの魔法が彼に当たってしまう!)

 意地悪そうに笑って魔法を放とうとするダリアに気づいたカトレアが、顔を真っ青にすると慌てて手を伸ばして赤い魔法陣を展開する。
 

「ダリア!! 待って……!」
「《ファイヤーアロー》♪」


 親友の制止を無視し、ダリアが魔法を放ったその時、サッと後ろを振り返った黒ローブの男が、銀色の瞳でダリアの放った魔法を捉える。
 そして、人差し指でと、誰にも聞こえない声でし、目の前まで迫ったダリアの魔法に自身の放ったをぶつける。


「《ウォーターアロー》」
「「っ!?」」


 その瞬間、ダリアの放った火矢と黒ローブ男の放った水矢がぶつかり、水蒸気となって相殺された。

 (この子、どうして魔法を? それも……)


「はぁ、魔力の練りが雑すぎます。これだと、の方がよっぽどマシです」
「テオ、今何か言った?」
「いえ、何も。それよりも……」


 困惑しているカトレアに、ゆっくりと手を下ろした黒ローブの男テオは、『何でもありません』と小さく首を横に振ると、上質な赤いカーペットについた水滴の跡を一瞥して主人に向かって頭を下げる。


「執務室を汚してしまい、大変申し訳ございません。掃除の方は私が責任をもって誠心誠意いたしますので、どうかご容赦を」
「え、あ……そ、そうね。掃除の方はあなたに任せるわ。テオ」
「かしこまり……」
「ちょっと待ちなさい!」


 頭の整理がつかないまま、テオに掃除を命じたカトレアの隣で、激高したダリアがソファーから立ち上がると、テオに向かって指をさす。


「あんた、黒ローブってことは平民なのでしょ!?」
「ちょっと、ダリア。それは後で私が……」
「いいから黙って! いくら親友だからって、宰相家令嬢である私に意見しないで!」
「口答えって……」


 (私はただ、あなたを諫めようとしただけで、別に意見なんて……)

 ダリアの棘のある言葉に傷ついたカトレアを一瞥し、仮面の中で僅かに眉を顰めたテオは、拳を握るとダリアに視線を戻す。


「そうですが、それが何か?」
「それなら、どうして私の魔法を……それも火属性の中級魔法を防いだの!? 平民の分際で!!」


 黒ローブの魔法師は、貴族と同等の魔力を持っている平民の中でも稀な平民。
 だから、魔法の勉強をすれば平民の彼らでも貴族と同じ魔法を使え、宮廷魔法師として魔物討伐に参加することが出来る。
 
 しかし、この国では宰相閣下の意向で平民に魔法を教えることを
 それは、黒ローブの魔法師も例外ではない。
 
 そのため、黒ローブの魔法師達は『魔法師見習い』として、主に灰色ローブを着た研究者達やカトレアのような白ローブを着た宮廷魔法師達から雑務を押し付けられている。

 (魔法はおろか、魔力の使い方もろくに教えられていない黒ローブの魔法師が、中級魔法を相殺することは本来。だけど、テオはダリアの中級魔法を見事相殺させた)


「私以外の他の宮廷魔法師がテオに魔法を教えたことも……いや、宰相閣下の反感を買ってまで平民に魔法を教えようなんてお人好しの宮廷魔法師は、この宮廷魔法師団にはいないわね」


 (なにせ、ここで働く宮廷魔法師達は全員貴族で、魔法に関しては人一倍誇りとプライドが高いのだから)

 顔を真っ赤にしながら鼻息を荒くするダリアの傍で、ようやく頭の整理がついたカトレアがぶつぶつと呟きながらテオに対して疑いの目を向ける。
 すると、テオが不思議そうに小首を傾げる。


「さて、何のことでしょう? 黒ローブの魔法師の私には、あなた様が何をおっしゃっているのかさっぱり分かりません」
「「はぁ!?」」


 (あんた、この期に及んでとぼけるつもり!?)

 テオの無理な言い分に、再び唖然とするカトレアとは反対に、更に顔を真っ赤にしたダリアが怒鳴りつける。


「とぼけないで! 確かに私は、あんたに対して中級魔法を……」
「それよりもカトレア様」
「ちょっと、最後まで話を聞きなさいよ!」


 癇癪を起したお嬢様を無視したテオは、自分の主であるカトレアに向き直る。


「もうじき会議のお時間ですので、お早めにご準備の方を」
「え、えぇ……分かっているわ」
「あんた! 平民の分際で宰相家令嬢である私の話を遮るなんて……」
「それでは、失礼致します」


 侍女に抑えられながら駄々を捏ねているダリアを一瞥したテオは、ゆっくりとお辞儀をすると静かに部屋を後にする。
 その直後、誰も通っていない廊下でテオは小さく呟く。


「前々から知っていたとはいえ、あんな下品な女が『宰相家令嬢』を名乗っているとは……改めて、虫唾が走りますね」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

処理中です...