木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる

第157話 どうして平民が?

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 カミルとメストが宮廷魔法師団の応援に駆けつけてしばらく、魔法を放つ音と魔物達の絶叫が響き渡っていた森が、いつもの静けさを取り戻していた。
 

「《ファイヤージャベリン》」
「《アイスレイン》!」
「「ギャッ!!」」


 火属性の上級魔法と氷属性の中級魔法が放たれ、最後の魔物が消えたことで森にいた魔物達の気配が無くなった。


「ふぅ、討伐完了か?」
「えぇ、宮廷魔法師達がその場にへたり込んでいるってことは討伐完了でしょう」
「そうか」


 安堵の溜息をついたメストは、カトレアと共に構えていた手を降ろすと、もう片方の手で持っていた片手剣を鞘に収める。
 すると、風属性魔法の得意な宮廷魔法師達が、辺り一帯を埋め尽くしている魔石を風魔法で回収し始める。


「あれは、魔石の回収をしているのか?」
「はい。魔石は魔物の心臓ですので、魔物の特性を調べるにはうってつけの材料なのです」
「なるほどな。それで、回収した魔石はどうなるんだ?」
「まずは、今回の魔物討伐に現れた魔物の種類と特徴の調査する資料として使われ、その後は研究材料として使われます」


 (そう言えば、魔法に精通している貴族令嬢令息が集まる宮廷魔法師団では、魔物討伐だけではなく魔物が落とした魔石から魔物の特性や魔力量を調べて今後の対策に活かしたり、魔石に内包されている魔法を研究したりする役割があったんだったな)


「だが、それにしては回収する魔石量が多くないか?」
「そうですね。ですが、魔石から魔物が生まれるという研究論文がありますので、魔物討伐時に落ちた魔石は基本的に全て回収します」
「そうなのか!?」


 (そんな話があったなんて知らなかった!)
 
 初めて聞く話に驚くメストを見てカトレアは小さく頷く。


「そうです。とはいえ、実際に魔石から魔物が生まれたという実例はありませんが」
「そ、そうか」

 
 ちなみに、回収した魔石で研究用として使わなくなった物は全て、王都の魔石屋や魔道具屋に卸しており、それで得た利益は全て新しい研究道具や宮廷魔法師達が日常的に使う備品に充てている。

 そんな末路を辿ることになる大量の魔石達は、風魔法で巻き上げられると、宮廷魔法師達が事前に用意した巨大な袋型のマジックバックに入れられる。

 (さすが、魔法のエキスパート。何から何まで魔法でこなすとは)
 
 魔法を使って魔石を回収している宮廷魔法師達に感心しながら、メストは彼らの仕事の邪魔にならない場所で眺めていると、突然カトレアから鋭い目線を向けられた。


「ところで、メスト様」
「な、何だ?」
「どうして、あなた様がこちらにいらっしゃるのですか? それに、その恰好。どう見ても平民の恰好ではありませんか」
「そ、それは……」


 (とてもじゃないけど、休日の貴族令息がする恰好ではないわ)

 冷や汗を掻いているメストが着ている服を上から下まで見たカトレアは、咎めるような視線をメストに向けたその時、2人の後ろからアルト声が聞こえた。


「あの、魔物討伐は終わったってことでいいのですよね?」
「あぁ、カミルか」
「カミル?」


 首を傾げたカトレアがメストと共に後ろを振り返ると、そこにはレイピアを鞘に収めたカミルが立っていた。


 ◇◇◇◇◇


 突然現れた木こりに、カトレアは思わず眉を顰める。

 (どうして平民がここに?)

 すると、にこやかな笑みを浮かべたメストがカトレアにカミルを紹介する。
 
 
「カトレア嬢。紹介する。こいつはカミルって名前で……」
「ねぇ」


 だが、メストの紹介を遮ったカトレアは、無表情で2人を見ているカミルに詰め寄る。


「どうして、平民風情がここにいるの? ここがどこだか分かっているの? 剣や魔法も使えないただの下民がどうしてここにいるの?」
「おい! カトレア嬢! この人は……」


 無表情のカミルに、険しい顔をしたカトレアが蔑みを含んだ言葉で矢継ぎ早に問い質し、それを聞いていたメストが慌てて彼女の肩を掴む。
 しかし、平民を問い質しているカトレアの胸中は戸惑いに溢れていた。
 
 (ち、違う! 私はただ、こんな危険な場所に平民がいるのを心配して聞いているだけ! こんな、こんなダリアのような蔑みを含んだ言葉を吐き出したいんじゃないの!)

 
 心配しているとは到底思えない言葉を初対面のカミルにぶちまけ困惑しているカトレア。
 けれど、そんな彼女の思いとは裏腹に、メストに肩を掴まれたカトレアはすぐさま置かれた手を振り払うと、メストを厳しく問い詰める。


「メスト様、どうして平民がいるのですか? それも、レイピアなんて分不相応な物を持って」
「だから、それは……!」
「あなた様は騎士なのですから、こんな身の程知らずの平民を魔物の群れから遠ざけるが、あなた様の仕事なのではないのですか?」


 (違う、違うの! 私は、こんな誰かを傷つけるような言い方で聞きたいわけじゃないの!)


「だから、この人は……!」
「あの」


 2人の間に剣吞とした雰囲気が出た時、2人の会話を遮ったカミルは、小さく溜息をつくとメストに視線を向ける。


「魔物の群れは、全て討伐されたのですよね?」
「あ、あぁ……どうやらそうみたいだ」
「そうですか。では、私は戻りますね」


 困惑しているメストから聞きたいことが聞けたカミルは、用は済んだとばかりに2人に背を向け、そのまま鬱蒼と生い茂る森へ入ろうとする。
 それを見たカトレアは、慌ててカミルに声をかける。


「ま、待ちなさいよ!」


 (本来、魔物達がいる平民がいるなんて絶対に許されない! だから、どうして私たち宮廷魔法師や騎士に守られるべきである平民がここにいるのか聞かないと!)

 カトレアから引き止められ、再び小さく溜息をついたカミルはゆっくりと後ろを振り返ると、カトレアに冷たい目を向ける。


「何ですか? 用が無いのでしたら、平民らしくさっさと戻らせていただきます」
「っ!」


 (なんて冷めきった目をしているの?)

 アイマスクから覗く底冷えするような冷たい瞳に、カトレアは思わず言葉を失う。
 それを見て、カミルは堪らず下唇を噛む。

 (そんな顔しないでよ。のだから)

 カミルにとって、カトレアとの出会いは思わぬ再会だった。

 (でも、目の前にいる彼女は、のよね)

 改めて突きつけられた現実に複雑な気持ちを抱きつつ、カミルは唖然としているカトレアから逃げるように背を向けると夜の森の中へ入ろうとした。
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