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第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる
第168話 違和感と家路
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「カミル。今何か、言ったか?」
「いえ、何も」
(落ち着いて。今の私は平民よ。あの女のせいでこの国の貴族の品格が下がったところで、今の私の私に出来ることなんて何1つ無い。それでも……)
首を傾げるメストに小さく首を振ったカミルは、込み上がる怒りを抑えつつダリアのことを聞く。
「それはそうと、お貴族様達の間では、あなた様の婚約者は随分と有能な方なのですね」
「まぁ、そう、だな。なにせ、彼女の父親はこの国の宰相だし、母親は『社交界の華』と謳われている方だ。加えて、彼女の兄は第一王女の婚約者様で宮廷魔法師団副団長を任されている」
「そう、ですか」
(本当にあの男は、私から……いや、私たち家族から何もかもを奪って、自分や自分の家族のものにしたのね)
メストの話を聞いて、再びこみ上げてきた怒りを抑えようと手綱を強く握ったカミル。
すると、メストがポツリと本音を漏らす。
「でも、ダリアに関しては貴族として本当に有能なのか甚だ疑問だが」
「えっ?」
(それは、一体どういう……?)
メストの漏らした本音に、カミルが一瞬だけ目を丸くすると、それを見たメストは自嘲気味な笑みを浮かべて空を見上げる。
「俺は侯爵家嫡男だが、騎士の仕事を優先させるあまり社交に疎い。だから、ダリアが本当に貴族として有能なのか分からない。それでも俺は、彼女の……いや、この国の貴族社会の異常さに違和感を覚えた」
「そうなのですね」
「とは言っても、違和感を覚えたのは王都に来てから……いや、正確にはカミルと出会ってからだな」
「っ!?」
思わず息を呑んだカミルをよそに、ゆっくりと足を止めたメストは木々の隙間から見える暗闇を睨みつける。
「王都に来るまで、俺はダリアが貴族の中で有能な方だと信じて疑わなかった。まぁ、その頃から俺は『ヴィルマン侯爵次期当主として、騎士の仕事をしっかりしてきなさい!』という両親の言葉に甘えて、侯爵家嫡男としての社交よりも騎士の仕事を優先させていた」
(『王国の剣』として代々、騎士を輩出してきているヴィルマン侯爵家の当主なら、次期当主としての仕事を兼ねてメスト様に『騎士の仕事をきちんとこなしてきなさい!』って言ってそう)
メストの実家であるヴィルマン侯爵家は、代替わりをする前に次期当主に対して騎士の仕事をさせるという決まりがある。
それは、『王国の剣』がどういう意味か身をもって理解してもらい、当主になった際はより一層、王国のために忠義を尽くすことを示すためである。
「そのせいで社交界と疎遠になってしまい、辺境までわざわざ会いに来てくれたダリアの『私は貴族の中で有能な方よ』という言葉を信じた。とは言え、その頃の俺が今の俺以上にダリアを愛していたから単に盲目になっていたのかもしれないが」
自嘲気味に笑うメストを見て、隣でステインと一緒に聞いていたカミルが僅かに目を細める。
(婚約者の言葉を鵜呑みに信じるメスト様も貴族としてどうかと思う。けどその反面、辺境の魔物討伐で多忙を極めていたメスト様が社交界と疎遠になっても、今の彼があの女に対して盲目になってあの女の言葉を信じるのも仕方ない)
すると、メストは笑みを潜めて拳を握る。
「だが、王都に来てカミルと出会ってからだろう。俺はダリアの貴族としての振る舞いや言動を見る度に、だんだん彼女がこの国の貴族令嬢として有能だと思わなくなった……いや、思えなくなった」
「そう、なんですね」
(私と出会ってから、盲目だったメスト様が冷静に婚約者を見られるようになったのね)
王都でメストと再会した時のことを思い出し、少しだけ感慨深く思っていると、メストが再び自嘲気味に笑う。
「今思えば、その頃からだろうな。自分がダリアのことを好きなのか分からなくなったのは」
「そう、だったのですね」
「とはいえ、彼女は俺の婚約者。そして、彼女が社交界で有能だと思われているのは紛れも無い事実だ」
「…………」
(それはきっと、彼女の父親の魔法のせいなのでしょうけど)
幾度もこみ上げてくる怒りの感情を押し殺そうと、指が白くなるほどに手綱を強く握ったカミル。
(落ち着け。私は平民。天涯孤独の平民よ)
「カミル、どうかしたか?」
「いえ、何でもありません」
首を横に振って歩き始めたカミルは、話題を今夜の魔物討伐に変える。
「それにしても、今回の魔物は数が多かったですね」
「そう、だな。でも、カミルがいなかったら、いくら魔法が使える俺でも、どうにも出来なかった。さすが、俺の師匠だ」
突然話題が変わって困惑していたメストは、カミルの感想を聞いて誇らしげに笑いながらカミルを褒める。
そんな彼の笑顔に、思わず胸が高鳴ったカミルは慌てて視線を前に戻す。
「そんなことありません。私は、あなた様のように魔法は使えませんから、事前の作戦通り前衛としての勤めを果たしただけです。それに私も、あなた様の魔法のお陰で何度か救われましたからお互いさま……いや」
見慣れた我が家の形が遠くに見えたカミルは、その場で足を止めるとメストの方を見る。
「頭上から魔法が降ってくる直前、危機を察したあなた様は咄嗟に私のことを庇って下さってくれました。だから……」
手綱から手を離したカミルは、静かに彼と向き直ると深々と頭を下げる。
「助けていただき、本当にありがとうございました」
「っ!?」
月明かりが差す森の中、優雅に頭を下げるカミルにメストは思わず息を呑む。
「あの、どうされましたか?」
「あ、いや、その……」
(『貴族のように優雅にカミルの頭を下げる姿があまりにも美しくて、思わず見とれてしまった』とは絶対に言えない)
頭を上げたカミルは、急に落ち着きがなくなったメストに首を傾げつつ、手綱を持つと歩き始める。
「まぁ、良いです。それよりも、我が家が見えてきましたからさっさと帰りましょう。明日も鍛錬するのですよね?」
「あ、あぁ! そうだな!」
(本当、どうしたのかしら? メスト様)
その後、家路についた2人は、さっさとお風呂を済ませるとそのまま就寝した。
一方その頃、部下と共に王都に戻ったルベルは、思わぬところでカミルの話を聞いてしまう。
「いえ、何も」
(落ち着いて。今の私は平民よ。あの女のせいでこの国の貴族の品格が下がったところで、今の私の私に出来ることなんて何1つ無い。それでも……)
首を傾げるメストに小さく首を振ったカミルは、込み上がる怒りを抑えつつダリアのことを聞く。
「それはそうと、お貴族様達の間では、あなた様の婚約者は随分と有能な方なのですね」
「まぁ、そう、だな。なにせ、彼女の父親はこの国の宰相だし、母親は『社交界の華』と謳われている方だ。加えて、彼女の兄は第一王女の婚約者様で宮廷魔法師団副団長を任されている」
「そう、ですか」
(本当にあの男は、私から……いや、私たち家族から何もかもを奪って、自分や自分の家族のものにしたのね)
メストの話を聞いて、再びこみ上げてきた怒りを抑えようと手綱を強く握ったカミル。
すると、メストがポツリと本音を漏らす。
「でも、ダリアに関しては貴族として本当に有能なのか甚だ疑問だが」
「えっ?」
(それは、一体どういう……?)
メストの漏らした本音に、カミルが一瞬だけ目を丸くすると、それを見たメストは自嘲気味な笑みを浮かべて空を見上げる。
「俺は侯爵家嫡男だが、騎士の仕事を優先させるあまり社交に疎い。だから、ダリアが本当に貴族として有能なのか分からない。それでも俺は、彼女の……いや、この国の貴族社会の異常さに違和感を覚えた」
「そうなのですね」
「とは言っても、違和感を覚えたのは王都に来てから……いや、正確にはカミルと出会ってからだな」
「っ!?」
思わず息を呑んだカミルをよそに、ゆっくりと足を止めたメストは木々の隙間から見える暗闇を睨みつける。
「王都に来るまで、俺はダリアが貴族の中で有能な方だと信じて疑わなかった。まぁ、その頃から俺は『ヴィルマン侯爵次期当主として、騎士の仕事をしっかりしてきなさい!』という両親の言葉に甘えて、侯爵家嫡男としての社交よりも騎士の仕事を優先させていた」
(『王国の剣』として代々、騎士を輩出してきているヴィルマン侯爵家の当主なら、次期当主としての仕事を兼ねてメスト様に『騎士の仕事をきちんとこなしてきなさい!』って言ってそう)
メストの実家であるヴィルマン侯爵家は、代替わりをする前に次期当主に対して騎士の仕事をさせるという決まりがある。
それは、『王国の剣』がどういう意味か身をもって理解してもらい、当主になった際はより一層、王国のために忠義を尽くすことを示すためである。
「そのせいで社交界と疎遠になってしまい、辺境までわざわざ会いに来てくれたダリアの『私は貴族の中で有能な方よ』という言葉を信じた。とは言え、その頃の俺が今の俺以上にダリアを愛していたから単に盲目になっていたのかもしれないが」
自嘲気味に笑うメストを見て、隣でステインと一緒に聞いていたカミルが僅かに目を細める。
(婚約者の言葉を鵜呑みに信じるメスト様も貴族としてどうかと思う。けどその反面、辺境の魔物討伐で多忙を極めていたメスト様が社交界と疎遠になっても、今の彼があの女に対して盲目になってあの女の言葉を信じるのも仕方ない)
すると、メストは笑みを潜めて拳を握る。
「だが、王都に来てカミルと出会ってからだろう。俺はダリアの貴族としての振る舞いや言動を見る度に、だんだん彼女がこの国の貴族令嬢として有能だと思わなくなった……いや、思えなくなった」
「そう、なんですね」
(私と出会ってから、盲目だったメスト様が冷静に婚約者を見られるようになったのね)
王都でメストと再会した時のことを思い出し、少しだけ感慨深く思っていると、メストが再び自嘲気味に笑う。
「今思えば、その頃からだろうな。自分がダリアのことを好きなのか分からなくなったのは」
「そう、だったのですね」
「とはいえ、彼女は俺の婚約者。そして、彼女が社交界で有能だと思われているのは紛れも無い事実だ」
「…………」
(それはきっと、彼女の父親の魔法のせいなのでしょうけど)
幾度もこみ上げてくる怒りの感情を押し殺そうと、指が白くなるほどに手綱を強く握ったカミル。
(落ち着け。私は平民。天涯孤独の平民よ)
「カミル、どうかしたか?」
「いえ、何でもありません」
首を横に振って歩き始めたカミルは、話題を今夜の魔物討伐に変える。
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「そう、だな。でも、カミルがいなかったら、いくら魔法が使える俺でも、どうにも出来なかった。さすが、俺の師匠だ」
突然話題が変わって困惑していたメストは、カミルの感想を聞いて誇らしげに笑いながらカミルを褒める。
そんな彼の笑顔に、思わず胸が高鳴ったカミルは慌てて視線を前に戻す。
「そんなことありません。私は、あなた様のように魔法は使えませんから、事前の作戦通り前衛としての勤めを果たしただけです。それに私も、あなた様の魔法のお陰で何度か救われましたからお互いさま……いや」
見慣れた我が家の形が遠くに見えたカミルは、その場で足を止めるとメストの方を見る。
「頭上から魔法が降ってくる直前、危機を察したあなた様は咄嗟に私のことを庇って下さってくれました。だから……」
手綱から手を離したカミルは、静かに彼と向き直ると深々と頭を下げる。
「助けていただき、本当にありがとうございました」
「っ!?」
月明かりが差す森の中、優雅に頭を下げるカミルにメストは思わず息を呑む。
「あの、どうされましたか?」
「あ、いや、その……」
(『貴族のように優雅にカミルの頭を下げる姿があまりにも美しくて、思わず見とれてしまった』とは絶対に言えない)
頭を上げたカミルは、急に落ち着きがなくなったメストに首を傾げつつ、手綱を持つと歩き始める。
「まぁ、良いです。それよりも、我が家が見えてきましたからさっさと帰りましょう。明日も鍛錬するのですよね?」
「あ、あぁ! そうだな!」
(本当、どうしたのかしら? メスト様)
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一方その頃、部下と共に王都に戻ったルベルは、思わぬところでカミルの話を聞いてしまう。
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