木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる

第169話 似た者同士

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 ――時は、メストがカミルに合流しようと森の中へ駆け出した頃に戻る。
 

「ふぅ、行ったか」


 吸い込まれるように夜の森へと入っていくメストを見届けたルベルは、安堵の溜め息をつくと小さく笑みを零す。

 (メスト君にとって、その平民は本当に大切な人なのだろう)


「俺も、機会があれば彼が弟子入りした平民に会って話してみたいものだ」


 (とはいえ、メスト君曰く、その平民は大の貴族嫌いらしいから、会ってもらえるか分からないが)

 叶いそうもない願望を口にしたルベルが堪らず苦笑すると、隣で聞いていたカトレアが不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「フン。団長、たかが平民ですよ? 魔法をまともに行使出来ない人間に、貴族出身の我らがわざわざ会いに行くなんて、正気の沙汰とは思えません」


 小バカにしたように笑いながらルベルの願望を否定するカトレアに、僅かに眉を顰めたルベルが小さな溜息をつくと前々から思っていたことを聞く。


「カトレア」
「何でしょう?」
「前々から思っていたが、どうしてそこまで平民を卑下する? 平民がお前に何かをしたか?」
「別に、何もしていませんよ。そもそも、平民如きが貴族であり『稀代の天才魔法師』の2つ名を賜ったこの私に対して、何か出来るわけ無いじゃないですか」
「……まぁ、そうだな」


 宮廷魔法師団本部内ではあまり表に出さないが、カトレアは他の宮廷魔法師と同じように、この国の貴族らしい考え方を誇りに思って今でも持ち続けている。

 (まぁ、カトレアの場合は、平民嫌いのあの親友がいるから尚更平民に対して厳しいのかもしれないが)

 心底呆れたような顔をするルベルを見て、不快に思ったカトレアは上司に対して鋭い視線を向ける。


「それよりも団長! どうしてわざわざ平民に会おうなんて思えるのですか? うちの雑用をしてくれる平民ならまだしも、初級魔法1回分の魔力しか持っていない平民ですよ? 団長には、貴族としてのプライドや誇りは無いのですか?」
「プライドや誇り……ねぇ」


 『貴族としておかしい!』と怒っているカトレアから問い詰められ、再び小さく溜息をついたルベルは部下を鋭く睨む。


「カトレア、俺たち宮廷魔法師が守っているのは何だ?」
「えっ? それはもちろん、ペトロート王国ですよ」
「だよな。それで、どうしてお前は宮廷魔法師になった?」
「そ、それはもちろん、国を守りたいからに決まっているじゃないですか!」


 しどろもどろになりつつも、『国を守りたい!』と口に出すカトレアを見て、僅かに目を伏せたルベルはそのまま静かにカトレアから背を向ける。


「お前は、魔法師としてはとても優秀だ。『稀代の天才魔法師』と言われるだけの実力はあるし、そう言われるに相応しい実績も上げている。それは、お前の上司として認めてやる」
「そ、それはどうも……」


 (今の私には分不相応の2つ名だけど……でも、団長に認めてもらえるなら悪くないかしら)
 
 急に褒められて戸惑いつつも満更でもない気持ちのカトレア。
 そんな彼女にルベルは冷たい言葉をかける。
 

「だが、この国の守る人間としてはまだまだ未熟だ」
「っ!?」


 温度を全く感じないルベルの言葉に、嬉しさで満ち溢れていたカトレアの気持ちが一気に怒りへと変わった。


「お言葉ですが、団長! 今日の平和があるのは、間違いなく『稀代の天才魔法師』と言われている私がいるからなのです! つまり、私無しでは今日の平和が無いということです!」
「…………」


 (全く、いつからこいつはそんなに偉くなったんだ? 今日の平和があるのは、俺やお前を含んだこの国全員の頑張りのお陰だろうが)


「まぁ、あの女の友人だから仕方ないか」
 
 
 (どうせ、自分以外の人間ことを自分の引き立て役としか思っていないんだろう。あの女もそんな風に周りを見ているようだし)
 
 小声で呟いて深く溜息をついたルベルは、『稀代の天才魔法師』ともてはやされるあまり自意識過剰になっているカトレアに刺さる言葉を口にする。


「やはり、お前とダリア嬢は似た者同士だな」
「えっ?」

 
 ルベルから『ダリアと似た者同士』と言われ、思わず表情が固まったカトレアの脳裏に、今日ダリアから言われた言葉が蘇る。


『カトレア! いくら親友だからって、宰相家令嬢である私に指図しないで!』
『何って、遊びにきただけよ』


 (私とあの傲慢娘が『似た者同士』ですって?)


「だ、団長。い、いきなり何を言って……!」
「まぁ、いきなりこんなことを言われて驚いているよな? でも、今のお前を見てふと思ったんだよ」
「わっ、私とダリアは、べ、別に、に、似た者同士では……」


 (ち、違う! 私は……私は、あんな、あんな人の迷惑を考えない愚行をする人物とは全く違う!


「似た者同士だろ? 平民を蔑むところとか、上の者に対して尊大な態度をとるところとか」
「あっ」


 (言われてみれば私、あの女と同じよう平民を蔑んでいた。けれど、それは貴族として当然のことで……!)

 小馬鹿にしたように小さく鼻を鳴らしたルベルから冷たく指摘され、顔を青ざめさせながら狼狽えたカトレアが、顔を片手で顔を覆いながら絶望したように俯く。
 それを見たルベルは、眉を顰めると落ち込んでいるカトレアの肩を掴む。


「すまん、言いすぎた」


 (まさか、そこまで落ち込むとは思わなかった)
 
 部下の落ち込みようを目の当たりにしたルベルは、『似た者同士』と言ってしまったことを後悔した。
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