木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

文字の大きさ
179 / 606
第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる

第171話 処罰と噂

しおりを挟む
 リアスタ村近くでの魔物討伐から1週間後、宮廷魔法師団での魔物討伐の事後処理が全て完了する。
 そのタイミングで、カトレアは『平民に魔法を撃ったことに関して聞きたい』とルベルから団長室に呼び出される。
 
 緊張の面持ちで団長室に入ったカトレアは、神妙な面持ちの聞いてきたルベルに、魔物討伐後に平民に対して魔法を撃った時のことを包み隠さず話す。
 
 『故意に撃っていないと信じて欲しい!』と必死に熱弁するカトレアの話を聞いたルベルは、そこからに更に1週間後、カトレアを再び執務室に呼び出す。


「カトレア、お前には『平民に対して魔法を撃ったこと』に対して処罰を与えることにした」
「…………」


 いつになく真剣な表情のルベルから『処罰を与える』と言われ、俯いていたカトレアは小さく肩を震わせると静かに顔を上げて上司を睨む。
 そんな彼女に、ルベルは宮廷魔法師団団長として部下に与える処罰を告げる。


「処罰は、約1ヶ月後に帝国へ派遣される研究員の護衛。そして、帝国の宮廷魔法師マーザス・アラウェイ氏が預かっている魔道具を持ち帰ることだ」
「……お言葉ですが、団長」
「何だ、稀代の天才魔法師様? あなた様の言い分なら先週たくさん聞いたが、まだ言い足りないことがあるなら聞くぞ?」


 椅子に深く腰掛けて両腕を組んで嫌味を言うルベルの鋭い眼光に、一瞬怯んだカトレアだが険しい表情で睨むと先週と同じ話をもう一度する。


「先週も申し上げましたが、私が平民に対して過剰に蔑むようなことを知ってしまいました。しかしそれは、魔物達が跋扈する場所に、何の力も持たない平民がいては危ないと思い……」
「あぁ、分かっている。お前が、平民のことを考えて言ったことは十二分に理解している。だが……」


 カトレアの言い分を遮って話始めたルベルは目を細めて事実を告げる。


「何の力も持たない平民に対して中級魔法を撃つのは、いくらなんでもやりすぎだと思うぞ」
「っ!?」

 
 (あの時、私は彼から話を聞くために引き止めようとした。その時、私の耳元で彼女……ダリアの声が聞えて、その直後、私の意識が遠くなり、気が付いたら彼に対して魔法……火属性の中級魔法を撃っていた)
 
 ルベルから紛れもない事実を言われ、悔しさのあまり下唇を噛んだカトレアは、目の前にある机を思いっ切り叩いて訴える。


「だから違うんです、団長!! あの時、本当に魔法を……それも中級魔法を撃つつもりは無かったんです!!」


 魔物討伐では決して見せない、涙に堪えながら顔を歪ませる彼女を見て、ルベルは一瞬目を大きく見開くと小さく溜息をついて、腕を組んだまま目を閉じて背凭れに背中を預ける。


「まぁ、ろくに真偽を確かめないまま、処罰を与えること自体、そもそも無茶苦茶なことだったよな」
「えっ?」


 驚きのあまり涙が引っ込んだカトレアに、そっと目を見開いたルベルは再び真剣な表情でカトレアを見やる。


「お前が本当にただ彼と話をしたかっただけだったことも、お前が自分の意思であの魔法を撃っていないことも十二分に理解している」
「ではなぜ私に処罰を?」


 (私が魔法を撃っていないことは分かっている。けれど、処罰を与えることになった。どうして?)
 
 上司が処罰を下した真意が分からず、カトレアが思わず首を傾げると、椅子から立ち上がったルベルが、カトレアの隣に立って彼女の華奢な肩にそっと手を置く。


「実は、今回の件がどうやら貴族のお偉いさんの方の間で噂としてかなり広まってしまった」
「噂、ですか?」
「あぁ、『稀代の天才魔法師が、騎士殺しの平民に対して魔法で罰を与えた』という噂が」
「ええっ!?」


 (どうして、真実をかけ離れた噂が!? そもそも私、あの平民に対して罰なんて与えていないわよ!?)

 貴族の間で広まった噂を聞いて、啞然とするカトレア。
 そんな彼女とは対照的に、噂を口にしたルベルが心底うんざりしたような顔をして溜息をつく。


「大方、どっかの口の軽いバカが、団長である俺への腹いせに話したんだと思うが」
「は、はぁ……」


 (それがなぜ、私の処罰に繋がるの?)

 困惑しつつも益々首を傾げるカトレアに、ルベルは思いも寄らないことを口にする。

 
「それで、その噂を聞いたどこかの宰相閣下が、『噂の真偽を確かめたいから、宮廷魔法師団団長である俺に事情聴取をしなければ!』とほざいたらしい」
「そんな! どうしてですか!?」


 (噂と団長とは全く関係ないのに!?)

 肩にかかった上司の手をたまらず振りほどいたカトレアが、訴えかけるように上司の両肩を掴むと、ルベルはそっと自分の両肩に乗った華奢な手を降ろす。


「一応、カトレアは俺の部下だからな。噂の真相が本当なのか、上司である俺から話を聞きたいんだと。全く、こっちも暇じゃないんだけどな」
「……それなら、当事者である私を直接呼び出せば良いじゃないですか」


 (それなのに、どうして団長が呼び出されないといけないの?)

 自分のせいで呼び出しを食らったルベルに対し、申し訳なさを感じたカトレアが再び俯く。
 すると、呆れたように溜息をついたルベルが両手を腰に添えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...