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第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる
第182話 夜会の前に
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「夜会、ですか?」
それは、カトレアとラピスが護衛任務として帝国に行く3日前のこと。
いつものように朝の鍛錬を終えたカミルは、メストから唐突に言われた。
「あぁ、ダリアに呼ばれて行くことになったから、今度の休みの日は泊まれない」
「そう、ですか……」
タオルで汗を拭きながら夜会に行くことを告げるメストに、木剣を腰に携えたカミルはそっと視線を落とす。
(まぁ一応、侯爵家嫡男で婚約者がいるのだから、夜会の1つや2つ行って当たり前なのよね)
そう頭で分かっていても、カミルの心にズキっと鈍い痛みが走る。
「カミル、どうした? 何だか、落ち込んでいるように見えるが……」
「っ!?……いえ、何でもありません」
「そうか? それならいいが」
(いけない、一緒にいる時間が多くなったお陰で、メスト様が無表情の私の僅かな変化に対して、目敏く気づくようになったのよね! 気を抜かないようにしないと!)
心配そうに顔を覗き込むメストに、慌てて距離を取ったカミルは心配させまいと小さく首を振ると、いつもの無表情でメストに視線を戻す。
「それにしても、夜会だなんて……さすが、貴族様ですね」
「まぁな。これでも、一応貴族なものですから」
(それも、婚約者が主催する夜会だからな。尚更行かないといけないだろ)
「でもまぁ……」
「?」
不思議そうに小首を傾げるカミルに、思わず苦笑したメストは視線を森に向ける。
「夜会に呼ばれるなんて、1年ぶりなんだけどな」
「っ!?」
それは、カミルにとって耳を疑うものだった。
◇◇◇◇◇
「それはつまり……1年も夜会に呼ばれていないのですか?」
(夜会大好きなあの女の婚約者であるメスト様が、1年も夜会に呼ばれていないですって?)
第二騎士団に所属してから、メストは両親……というより、父親の言葉に従い、ヴィルマン侯爵家としての社交をメストの両親に任せ、自分は騎士の仕事に集中していた。
しかし、夜会が大好きなダリアは、メストとの仲を見せつけたいがあまりに、辺境にいたメストをわざわざ呼び寄せ、エスコート役として色んな夜会に彼と2人で参加していた。
けれど、メストが近衛騎士として王都に来ると、ダリアはメストを夜会に誘わなくなった。
むしろ、『夜会に来ないで!』と言って婚約者であるはずの彼を拒絶するようになった。
メストの言葉に思わず耳を疑ったカミルは、僅かに目を細めると動揺を悟られないようにゆっくりとした口調で問い質す。
すると、カミルに視線を戻したメストが小さく頷く。
「そうだ、ここ1年は夜会に呼ばれていない。まぁ、俺が近衛騎士をやっているから、気を使って呼んでいないのかもしれないが」
「……ちなみに、他の騎士様達は夜会に行かれているのですか?」
「そういう話は聞いたことが無いが……あっ、でもこの前シトリンとラピスも俺と同じことを言っていた」
「『1年も夜会に呼ばれていない』と?」
「あぁ、そうだ」
メストの話を聞いて、カミルは益々目を細める。
(おかしい、おかしすぎるわ。フォルダン伯爵家三男のラピスが呼ばれないのは分かるけど、ヴィルマン侯爵家嫡男のメスト様やジャグロット伯爵家嫡男のシトリン様が呼ばれていないなんて普通に考えてありえないわ)
カミルは、いくら近衛騎士団所属の騎士だとしても、貴族の家に生まれて次期当主となる方々が王都にいるにも関わらず、1年も夜会に呼ばれていないことに違和感を通り越して、恐怖を覚え始める。
それも、婚約者がいるこの状況で。
(でもシトリン様の場合、婚約者がまだデビュタント前だからあまり夜会に出られないだけかもしれない。それなら納得だわ。けれど、とっくにデビュタントを済ませているあの女の婚約者であるメスト様が、1年も夜会に呼ばれていないのは明らかにおかしすぎる!)
「確か、あなた様には婚約者がいらっしゃいましたよね?」
「あぁ、そうだな」
「では、その方のエスコート役で夜会に呼ばれても、何ら不思議ではないでしょうか?」
(そもそも、婚約者を放り出して夜会に行くことなんてまずもってありえない。だから、夜会大好きのあの女が行くとなれば、必ずメスト様がエスコート役で呼ばれるはず)
少しだけ険しい顔をするカミルに、メストは再び苦笑する。
「本当に、カミルは平民とは思えない程、貴族のことならある程度知っているのだな」
「……貴族の屋敷に仕えていた時期がありましたら、それなりに知っていますよ」
(それに、私は……)
メストに悟られないようカミルは僅かに彼から視線を逸らすと、メストは手に持っていた木剣をそっと腰に携え、カミルの疑問に答える。
「カミルの言った通り、婚約者がいる俺はエスコート役で夜会に呼ばれても何ら不思議じゃない。だが、それすらもここ1年無かった」
「えっ?」
(嘘でしょ?)
婚約者のいる貴族とは思えない現状に、一瞬唖然とした表情をしたカミルだったが、ふと自分の立場を思い出し、いつもの無表情に戻すとメストに歩み寄る。
「あの、私が平民だから気を遣って『夜会に出ていない』ってわざわざ嘘をつかなくても大丈夫ですよ。私に黙って夜会に行ったからって何とも思いませんから」
(そう、何とも思わない。だって、今の私には、あなたに何かを言う権利すら無いのだから)
感情を押し殺すように拳を握ったカミルに対し、メストは慌てたように大きくて両手と首を振る。
「いやいや、気を遣って嘘なんてついていない! 俺は本当に、ここ1年ダリアのエスコート役として夜会やお茶会に呼ばれて行っていない!」
「そ、そんな……」
(そんなこと、本当にあるの?)
メストが珍しく取り乱しているところ見て、彼が嘘を言っていないと知ったカミルは、驚きのあまり後ろに一歩下がる。
「カミル?」
「あなた様は」
「?」
「あなた様は、本当に婚約者持ちの貴族令息様なのですよね?」
(多忙を極める騎士だからって、貴族令息があることには変わりはないはず)
信じられないような目で見つめるカミルに、メストは小首を傾げて至極当然とばかりに頷く。
「あぁ、そうだが……どうした、カミル?」
「『どうした』ですか?」
メストの話を聞いて完全にキャパオーバーになったカミルは、片手で額を押さえたふらふらと後ろに下がる。
(婚約者のいる彼が、1年もまともにお茶会や夜会に呼ばれていないなんて、そんな馬鹿な話がある? それも、相手は夜会が大好きなあの女なのに)
「『どうした?』は、こちらのセリフなんですけどね」
「えっ?」
覚束ない足取りで後ろへ一歩ずつ下がっていくカミルを心配して、カミルの後を追うように歩いていたメストの足が止まる。
すると、一瞬笑みを浮かべたカミルが、すぐさまいつもの無表情に戻すと足を止めて顔を上げる。
「いえ、使用人時代に聞いていた話とかなり違っていたので驚きのあまり困惑しただけです」
「そ、そうか。そういうことなら、まぁ……それじゃあ、また明日。お疲れ様」
「はい、お疲れ様でした」
転移魔法が付与された魔道具で帰ったメストを見送ったカミルは、静かに俯くと僅かに顔を歪ませる。
(デートもせず、エスコート役として夜会やお茶会にも呼ばないなんて……)
「あの女、本当に何を考えているの?」
静かな森の中、普段なら滅多に見せない不快感と怒りを露にしたその人は、いつもの冷たい木こりでは無かった。
それは、カトレアとラピスが護衛任務として帝国に行く3日前のこと。
いつものように朝の鍛錬を終えたカミルは、メストから唐突に言われた。
「あぁ、ダリアに呼ばれて行くことになったから、今度の休みの日は泊まれない」
「そう、ですか……」
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「っ!?……いえ、何でもありません」
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(いけない、一緒にいる時間が多くなったお陰で、メスト様が無表情の私の僅かな変化に対して、目敏く気づくようになったのよね! 気を抜かないようにしないと!)
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「それにしても、夜会だなんて……さすが、貴族様ですね」
「まぁな。これでも、一応貴族なものですから」
(それも、婚約者が主催する夜会だからな。尚更行かないといけないだろ)
「でもまぁ……」
「?」
不思議そうに小首を傾げるカミルに、思わず苦笑したメストは視線を森に向ける。
「夜会に呼ばれるなんて、1年ぶりなんだけどな」
「っ!?」
それは、カミルにとって耳を疑うものだった。
◇◇◇◇◇
「それはつまり……1年も夜会に呼ばれていないのですか?」
(夜会大好きなあの女の婚約者であるメスト様が、1年も夜会に呼ばれていないですって?)
第二騎士団に所属してから、メストは両親……というより、父親の言葉に従い、ヴィルマン侯爵家としての社交をメストの両親に任せ、自分は騎士の仕事に集中していた。
しかし、夜会が大好きなダリアは、メストとの仲を見せつけたいがあまりに、辺境にいたメストをわざわざ呼び寄せ、エスコート役として色んな夜会に彼と2人で参加していた。
けれど、メストが近衛騎士として王都に来ると、ダリアはメストを夜会に誘わなくなった。
むしろ、『夜会に来ないで!』と言って婚約者であるはずの彼を拒絶するようになった。
メストの言葉に思わず耳を疑ったカミルは、僅かに目を細めると動揺を悟られないようにゆっくりとした口調で問い質す。
すると、カミルに視線を戻したメストが小さく頷く。
「そうだ、ここ1年は夜会に呼ばれていない。まぁ、俺が近衛騎士をやっているから、気を使って呼んでいないのかもしれないが」
「……ちなみに、他の騎士様達は夜会に行かれているのですか?」
「そういう話は聞いたことが無いが……あっ、でもこの前シトリンとラピスも俺と同じことを言っていた」
「『1年も夜会に呼ばれていない』と?」
「あぁ、そうだ」
メストの話を聞いて、カミルは益々目を細める。
(おかしい、おかしすぎるわ。フォルダン伯爵家三男のラピスが呼ばれないのは分かるけど、ヴィルマン侯爵家嫡男のメスト様やジャグロット伯爵家嫡男のシトリン様が呼ばれていないなんて普通に考えてありえないわ)
カミルは、いくら近衛騎士団所属の騎士だとしても、貴族の家に生まれて次期当主となる方々が王都にいるにも関わらず、1年も夜会に呼ばれていないことに違和感を通り越して、恐怖を覚え始める。
それも、婚約者がいるこの状況で。
(でもシトリン様の場合、婚約者がまだデビュタント前だからあまり夜会に出られないだけかもしれない。それなら納得だわ。けれど、とっくにデビュタントを済ませているあの女の婚約者であるメスト様が、1年も夜会に呼ばれていないのは明らかにおかしすぎる!)
「確か、あなた様には婚約者がいらっしゃいましたよね?」
「あぁ、そうだな」
「では、その方のエスコート役で夜会に呼ばれても、何ら不思議ではないでしょうか?」
(そもそも、婚約者を放り出して夜会に行くことなんてまずもってありえない。だから、夜会大好きのあの女が行くとなれば、必ずメスト様がエスコート役で呼ばれるはず)
少しだけ険しい顔をするカミルに、メストは再び苦笑する。
「本当に、カミルは平民とは思えない程、貴族のことならある程度知っているのだな」
「……貴族の屋敷に仕えていた時期がありましたら、それなりに知っていますよ」
(それに、私は……)
メストに悟られないようカミルは僅かに彼から視線を逸らすと、メストは手に持っていた木剣をそっと腰に携え、カミルの疑問に答える。
「カミルの言った通り、婚約者がいる俺はエスコート役で夜会に呼ばれても何ら不思議じゃない。だが、それすらもここ1年無かった」
「えっ?」
(嘘でしょ?)
婚約者のいる貴族とは思えない現状に、一瞬唖然とした表情をしたカミルだったが、ふと自分の立場を思い出し、いつもの無表情に戻すとメストに歩み寄る。
「あの、私が平民だから気を遣って『夜会に出ていない』ってわざわざ嘘をつかなくても大丈夫ですよ。私に黙って夜会に行ったからって何とも思いませんから」
(そう、何とも思わない。だって、今の私には、あなたに何かを言う権利すら無いのだから)
感情を押し殺すように拳を握ったカミルに対し、メストは慌てたように大きくて両手と首を振る。
「いやいや、気を遣って嘘なんてついていない! 俺は本当に、ここ1年ダリアのエスコート役として夜会やお茶会に呼ばれて行っていない!」
「そ、そんな……」
(そんなこと、本当にあるの?)
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「カミル?」
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「?」
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「えっ?」
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すると、一瞬笑みを浮かべたカミルが、すぐさまいつもの無表情に戻すと足を止めて顔を上げる。
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