木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる

第184話 久しぶりの夜会で②

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 ダリアの『地味過ぎて着てこなかった』という言葉に、メストが『目の前にいる人間は本当に自分の婚約者なのか?』と怒りを通り越して疑問を覚えていると、僅かに目を細めたシトリンがメストに小声で話しかける。
 

「ねぇ、メスト」
「何だ?」
「ショック受けているところ悪いんだけど、ダリア嬢に送ったドレスってそんなに地味だったの?」


(別にショックを受けていない……わけでもないか。けれど……)

 シトリンから指摘され、僅かにチクリと胸を痛めたメストはダリアに贈ったドレスを思い出す。

 
「いや、俺がダリアに贈ったドレスは、カトレア嬢が今着ているような品があるものだった」
「そう、だよね。ごめんね、分かり切ったことを聞いてしまって」
「いや、良いんだ」

 
(だとしたら、この品の悪いドレスを『地味』と言っているダリア嬢が悪いね。近衛騎士の仕事で多忙な中、疎遠な美しい婚約者のために相応しいドレスを選んだというのに)

 メストの返事を聞いて、シトリンは思わずため息をつく。
 すると、メストが酷く疲れたような表情で、ダリアの着ているドレスに改めて目を向ける。

(この前の休み、カミルのところに行かず、わざわざ王都の高級仕立て屋に出向き、ダリアに似合うドレスを選んで公爵家宛に贈った。なのに『地味すぎる』という身勝手な理由で着てこなかった。そのくせ、フリルや宝石がふんだんにあしらわれ、胸元が大きく開かれた真っ赤なドレスを『地味だから』と言う理由で着ている)


「俺は一体、彼女の何を信じればいいんだ?」
「メスト……」


 悔しさを堪えているメストを見て、シトリンが少しだけ顔を歪ませると、カトレアがメストとシトリンの前に立ちはだかる。
 そして、ダリアに向かって淑女の笑みを浮かべる。


「ダリア。今宵は、私たちのためにこのような夜会を開いてくれてありがとう」
「ウフフッ、良いのよ! 親友があの帝国に行くのだから、これくらいしてあげたいの!」
「そ、そう」


(それにしては、やけに豪勢な気がするけど)

 満面の笑みで答えるダリアに、内心呆れつつカトレアは少しだけ申し訳なさそうな笑みを浮かべる。


「でも、任務で帝国に行くだけなのに、わざわざこんな豪華な夜会を開いてくれるなんて……何だか、ダリアやこの場に集まった皆様に対して申し訳なく思ってしまうわ」


(そもそも、帝国に行くだけにわざわざ夜会なんて開かなくて良かったのよ)


「そうかしら? こういう夜会には何度も行っているし、何度も開いている私からすれば、気おくれする必要なんてどこにも無いとおもうのだけど」
「そう、なのね」
「夜会に、何度も……」
 

 小首を傾げながら何度も夜会に行ったり開いたりしていることを告白するダリアに、カトレアの後ろにいたメストが呆然とした表情で呟く。
 
(やっぱり、メスト様は知らなかったみたいね。まぁ、ダリアに避けられていたら、知らなくても当然よね)


「でも、婚約者をほったらかしして夜会に参加したり開いたりしているのはどうかと思うわ」
「カトレア、何か言ったかしら?」
「いえ、何も」



 遠回しに『婚約者をほったらかして夜会に行ったり開いたりしていた』と暴露したダリアに、メストを憐れに思ったカトレアが思わず小声で毒づくと、何もなかったかのように淑女の笑みを向ける。
 すると、何かを見つけたダリアの視線がカトレアの胸元を凝視する。


「それよりも、そのネックレスとても綺麗ね」
「あぁ、これ? これは、私の誕生日の時にお母様からもらったものよ」


(確か、その年は私がデビュタントを迎える年だったわね……懐かしいわぁ)

 今から6年前、10歳の誕生日を迎えたカトレアに、実の母は娘に大粒のラピスラズリのネックレスを贈った。
 そのネックレスは、婚約者のラピスの髪色に合わせた物で、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら嬉しそうに受け取ったカトレアは、デビュタントを迎えた後、社交界に顔を出す度にそのネックレスを身につけていた。
 

「ふ~ん、そう」


 大好きな婚約者の色のネックレスを見て懐かしむカトレアに対し、思い出話よりも大粒のラピスラズリが嵌ったネックレスに興味を持ったダリアは、愛おしそうに笑うカトレアを見て悪い笑みを浮かべる。


「でも、地味なあなたには似合わなさそうだから、私がもらってあげる」
「えっ?」


(今、何て?)

 ダリアから言われた言葉の意味が理解出来ず、思わず聞き返すカトレアとは裏腹に、すぐさま意味を理解したラピスが険しい表情でカトレアを庇う。
 

「おい、ダリア嬢。カトレアに対して何を言って……」
「聞えなかったかしら? 地味なあなたにそのネックレスは似合わないから、私がもらってあげるって言ったの」
「それはダメ!!」


 ようやく言われた意味を理解したカトレアは、淑女の仮面を脱ぎ捨てるとダリアからネックレスを守るように握り締める。

(そんなの、絶対にダメに決まっている! これは、お母様からもらった大切な宝物なの!)

 キッと目の前にいる親友を睨みつけるカトレアに、ダリアは蔑んだ笑みを浮かべる。


「ねぇ、そんなこと言っても良いのかしら?」
「はっ?」


 ネックレスを握り締めたまま眉を顰めるカトレアを見て、笑みを深めるダリアは侍女が持ってきた扇子を開くと顔の下半分を覆う。


「私は、この国の宰相の娘。つまり、この夜会の場では私が一番偉いのよ」
「はあっ!? 何言っているの、あんた! この会場で一番偉いのは、ホールの奥にいらっしゃる王女様よ!」


 そう、この下品な夜会には、事もあろうにペトロート王国第一王女マドロラ・フォン・ペトロートがいた。

(その王女様を差し置いて『自分が一番偉い』なんて、あんた何を言っているの!?)

 会場の奥でダリアの兄であり王女様の婚約者であるリアンと共にいるマドロラに一瞥したカトレアは、諌めるようにダリアに視線を戻すと、ダリアがあろうことかこの場にいる王女に対してバカにしたように笑う。


「カトレアこそ、何を言っているの? あんなやつ、私の足元にも及ばないわよ」
「あんた、本当に何を言って……」
「それよりも」


 パチンと扇を閉じたダリアの視線が、再びネックレスに向けられる。


「公爵令嬢であるこの私が、わざわざ子爵令嬢であるあなたにねだっているのよ。だったら、素直に渡すのが筋ってものよね?」
「っ!? あんた、いい加減に……」


 怒りで目くじらを立てたカトレアが、ラピスを押しのけてダリアに詰め寄ろうとしたその時、ダリアがそっとカトレアに近づいて彼女の耳元に囁く。


「ここまで言っても、まだ分からないの?」
「えっ?」


 再び眉を顰めるカトレアに、ダリアが『宰相家令嬢』としての権力を行使する。
 
 
「私がその気になれば、この場であなたに冤罪をかけ、その大事なネックレスを無理やり奪うことも出来るのよ」
「そ、それは」


(それだけはダメ。いくら『王国の主砲』と謳われている我が家でも、今は貴族社会に対してそこまで影響力が無い。そんな現状で公爵家……それも宰相家から冤罪をかけらでもしたら、子爵家なんてあっという間に吹き飛ぶ!)

 ニヤニヤと笑うダリアの地位を利用した脅しに、カトレアの中にあった怒りの炎が一気に鎮火する。
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