木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる

第191話 監視する宰相家令嬢

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「はぁ~~、つまんないの」


 王都の門の陰から、帝国に向かう一団が王都から離れるところを無事に見届けたダリアは、深く被っていたフードを外すと大きく溜息をついた。

 (お父様に夜会の相談をした時、お父様から『ホールを使わせる代わりに、正門で集まっている一団を見届けて欲しい』って言われたから、仕方なくここに隠れて見ていたけど……)


「本当だったら今頃、グランツやエルマー達と日が高くなるまで楽しんでいたのになぁ~。私、朝って本当苦手なのよねぇ」


 (いつもだったら、彼らと最後まで一緒に過ごしているのに……)


「それに、カトレアったら! 激励を兼ねた夜会まで用意してあげたのに、本当に早く帰っちゃうなんて!」


 (帰ってきたら、真っ先に文句を言わないと親友として……いや、宰相家令嬢としてのプライドが許さないわ!)

 清々しい陽の光に照らされた街の路地裏で、昨日からのことを思い出したカトレアが頬を膨らませいると、正門前にいた集団の姿がすっかり見えなくなった。


「まぁ、とりあえずあの一団が帝国に行ったことをお父様に報告しないと」


 (そして、思う存分楽しめなかった分のお詫びをしてもらわないと!)


「それにしても、あの帝国に行くなんて……本当に可哀想よねぇ」



 そう言って、ダリアは王都から一直線に伸びた大きな道を冷たい目で見つめた。


 (魔法では圧倒的に我が国の方が圧倒的に上。だから帝国は、少しでも王国との優劣を埋めようと、平民でも魔法が使える魔道具の開発と生産に力を入れているらしい)


「全く、あんな愚かで野蛮な国に行くなん……本当に彼らは王国民なのかしら?」


 (帝国に行った彼らも王国の民の1人なんて考えると、物凄く虫唾が走るわ)


「そうだわ! 報告ついでにお父様に帝国に行った彼らを全員王都から……いや、この国から追放してもらうようにお願いしよう!」


 妙案を思いついたとばかりに手を叩いたダリアは、宰相家令嬢とは思えない下卑た笑みを浮かべていた。


「それに! 稀代の天才魔法師様をわざわざ帝国に行かせたのだから、そのくらいの報いは受けて当然よね!」


 だって彼女は、魔物討伐の時に入ってきた平民に向かって、容赦なく魔法を撃った英雄なのだから!


「まぁ、その英雄を生み出したのは私なんだけどね~!」


 魔物討伐の時のことを思い出したダリアは、笑いを堪えるように持っていた扇子で口元を覆った。
 すると、遠くでダリアの護衛をしていたフード姿の騎士が彼女に近づいてきた。


「ダリア様、そろそろ平民共が動き出す時間です」
「そうね。それじゃあ、行こうかしら」


 (卑しい平民出身の文官が、研究者達や騎士団長と仲良く話していたところを報告しないと)

 心底面倒くさそうに顔で深く溜息をついたダリアは、そのまま騎士の方を見やった。
 その瞬間、騎士の顔を見たダリアの表情が心底面倒くさそうなものから、獲物を狙うものに変わった。


「ねぇ? それよりもあなた、お名前はなんていうの?」
「えっ!? えっ、えっと、自分は……アントニー・ベリーと申します」
「へぇ~、アントニーって言う名前なのね。逞しい体を持つあなたに相応しい名前だわ」
「あっ、あの……」


 騎士アントニーの困惑する表情に、綺麗な笑みを浮かべて猫なで声で囁いたダリアは、小さく舌なめずりをした。

 (ウフフッ、困った顔が随分と可愛いわ。もしかすると昨日に引き続き、初物がいただけそうだわ)


「ねぇ、アントニー」
「なっ、何でしょう? というか、何だか近いような……」
「今日って確か、第一部隊の皆様が護衛についているのよね?」
「えっ、えぇ……普段は、国王陛下の護衛を任されている部隊なのですが、宰相閣下がどうしてもということで、今回は第一部隊の中から宰相閣下自ら選ばれた3名が、今回ダリア様の護衛についております」
「へぇ~、お父様が」


 (つまりこれは、お父様からのお詫びってことで良いのかしら? 見る限り、どの殿方も私の好みの見目麗し殿方だし)

 父であるノルベルトの気遣いに、ダリアは満更でもない気持ちになった。
 そして、目の前にいるアントニーの綺麗な顔にそっと両手を添わせて顔を近づける。


「アントニー。今日の仕事が終わったから、これから私と楽しいことをしない?」
「えっ!? じっ、自分はまだ仕事が……っ!?」


 アントニーがダリアから離れよとした瞬間、ダリアはアントニーに深い口づけをした。
 すると、一瞬抵抗したアントニーの手がいきなりダリアの華奢な体を抱き寄せた。

 (あら、もう魔法の効果が出たみたいね)

 ダリアの口づけに激しく応えたアントニーは、抱き寄せた手で彼女の体を布越しに触ってきた。
 そうして少しの間、2人は熱い吐息を交わしていると、遠くから平民の活気ある声が聞えてきた。

 (フフッ、どうやらタイムアップね)

 指輪に施した強化魔法を発動させたダリアが、アントニーからそっと離れると彼の耳元に甘く囁いた。


「アントニー。この続きは、お仲間さん達と合流してから……ね?」
「あぁ、分かったよ。


 彼女の魅了魔法にすっかりかかったアントニーの目に、今の彼はダリアに快楽を与える玩具に成り下がっていた。


 (アハハハッ! 魅了魔法の使い手である私に、落とせない男なんていないのよ!)


 アントニーに抱き寄せられたダリアは、満足げに笑いながら残りの2人に合流するため、人もまばらな路地裏を歩いた。
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