木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第4章 記憶と思惑のフィアンツ帝国

第201話 帝都カノン

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「……はい、大丈夫です。ようこそ帝都カノンへ」


 入国時と同じく帝国の騎士からの検問が終わり、事務手続きを済ませたマクシェルが戻ってくると、一行は堅牢な壁に守られた街へ入って行った。


「マクシェル殿、本当にありがとうございます」
「いえいえ。入国手続きの時も申し上げましたが、下級とはいえ私も王国の文官。これくらい、たいしたことではございませんよ」


 マクシェルの馬車を護衛していたラピスが申し訳なさそうな顔で謝ると、馬車の中にはいたマクシェルは優しい笑みを浮かべた。

 (とは言っても、雑用が主な仕事の下級文官が、上級文官が行う入国手続きを難なく行えるとは思えないのだが……これは、単にマクシェル殿がワケアリ下級文官だからだろうか?)


「マクシェル殿」
「何でしょう?」
「あなた様は、本当に下級文官なのですか?」
「ハハッ、何をおっしゃっているのですか? 私は正真正銘、下級文官ですよ」
「そっ、そうですよね……」


 笑みを崩さないマクシェルの揺るぎない答えに、ラピスが思わず苦笑いを浮かべた。
 すると、ラピスの後ろで、街の雰囲気に目を奪われていたカトレアが小さく呟いた。


「それにしても、帝都って王都と同じ……いや、それ以上に賑やかで華やかなのね」
「そうだな」


 (『帝都は、王都と違って寂れているからな』と、任務2日前に宰相閣下専属の近衛騎士からありがたい言葉をいただいたが……活気に溢れた帝都の雰囲気を目の当たりにすると、王都の方が寂れているように思えてきた)

 レンガ造りの建物が立ち並ぶ帝都の街並みは、戦乱から大国に至るまでの長い歴史を感じさせ、一行が進んでいる大通りには行きかう人々の活気に満ちた声で溢れていた。
 そんな街の明るい雰囲気に、ラピスとカトレアは心を奪われていると、マクシェルが馬車から顔を覗かせた。


「フィアンツ帝国は、大陸イチの大国ですからね。特に、皇帝陛下のお膝元である帝都カノンは、帝国イチ華やかで賑やかな場所ですよ。それに、帝都と王都の違いはこれだけはありませんよ」
「それは、行きかう人々でしょうか? ペトロート王国では、見慣れない人々や種族の方々が、さも当然のように街を歩いていますから」


 そう言って目を向けたラピスの視線の先には、獣人達や独特な民族衣装に身を包んだ人達が店を営んでいたり、世間話をしながら買い物をしたりしていた。

 (宰相閣下の采配で、極端に排他的になった我が国では見られない光景だが……これが、帝国と王国の差だというのだろうか?)


「それもありますね。そもそも、このフィアンツ帝国には『血の歴史』と言われている歴史がありますから」
「血の歴史ですか?」


 不思議そうに首を傾げるラピスに、マクシェルは笑みを潜めると頷いた。


「はい。ここフィアンツ帝国は、300年前まではとても好戦的な国で、常に他国の侵略をしていました。大陸イチの国土も、帝都を囲む堅牢な壁もその名残だと言われています」
「好戦的な国……」


 (帝都の雰囲気からして、とても好戦的だった国とは思えないが)

 人々の声で賑わっている大通りに目を向け、ラピスは思わず首を傾げた。


「ですが、戦いが長引くにつれて民は疲弊し、国力はどんどん低下していきました」


 (この賑やかな雰囲気ではとても想像出来ないとは思うが)


「当時の帝国軍は、魔法を中心とした圧倒的な戦力で連戦連勝でした。そんな状況で、戦いこそが全てだった当時の皇帝は、勝ちに酔いしれるあまり、疲弊していく自国を一切省みませんでした」
「一切ですか?」
「はい。とは言っても、当時の皇帝を含め、歴代の皇帝は全員好戦的で、国のことには一切関わっていませんでした。ハッキリ言って、愚帝ですね」
「それはまた……」


 (よく、国が持ちましたね)
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