木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第4章 記憶と思惑のフィアンツ帝国

第210話 改竄(かいざん)魔法

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改竄かいざん、魔法?」


 (改竄魔法って、闇魔法の中でも特に凶悪な精神系魔法の1つであるあの魔法!?)

 マーザスが口にしたその魔法は、魔法を使うものであれば、誰もが聞き覚えのある魔法だった。
 その魔法がかけられていると聞いて、カトレアは青ざめた顔で体を強張らせていると、支えていたラピスが目の前にいる人物に恐る恐る聞いた。


「マーザス殿、それは本当なのでしょうか?」
「あぁ、本当さ。実は僕の家……子爵家なんだけど、代々鑑定魔法が使える人間を輩出する家で、僕も一応、鑑定魔法が使えるのさ」
「「っ!?」」


 (まさか、マーザス殿が私と同じ子爵家で、鑑定魔法が使える家のご出身だなんて……それに、いつの間に鑑定魔法を……って、それよりも今は改竄魔法よ!)

 横道に逸れた思考を無理やり戻したカトレアは、ゆっくりと体を起こすと姿勢を正した。


「それでは、本当に私とラピスに改竄魔法が?」
「うん、そうだよ」


 静かに頷いたマーザスに、カトレアは僅かに眉を顰めると、ラピスが不思議そうに小首を傾げた。


「でしたら、私たちはいつ、改竄魔法をかけられたのでしょうか? 正直、マーザス殿に言われるまで、魔法によって精神干渉された感覚がなかったのですが……」
「そこが、改竄魔法が闇魔法の中でも特に凶悪な魔法と言われている所以だよ」


 小さく溜息をついたマーザスは、深刻な顔で改竄魔法について話し始めた。


「カトレア君は、ある程度知っているとは思うけど……改竄魔法は、魅了魔法と同じく他人の精神に干渉する魔法で、相手の記憶を思いの意のままに改竄することが出来る」
「そして、改竄魔法は使用する魔力が2つあるのですよね?」
「その通り。さすが、カトレア君だね」


 思わず優しく微笑みかけたマーザスだったが、カトレアの浮かない顔が晴れることは無かった。
 そんな2人のやり取りを見たラピスは、小さく咳払いをすると話を元に戻した。


「コホン。それで、2つというのはどういうことでしょうか?」
「あぁ、そうだった。魅了魔法の場合、属性魔法と同じように術者の魔力を使って相手を魅了する。でも、改竄魔法の場合、術者と対象者のを使い、対象者の記憶を改竄するのさ」
「自分だけじゃなくて、相手の魔力も……」
「うん。それも、対象者が改竄魔法で使われる魔力はごく僅かだから、対象者は自分の魔力が術者に使われているとも知らずに改竄魔法にかかってしまうんだ」
「っ!?」


 (それじゃあ、俺やカトレアも、知らないうちに改竄魔法にかけられていたのか!!)


 マーザスの説明を聞いて、愕然とするラピスと暗い表情をするカトレア。
 そんな2人を見て、マーザスは深く溜息をつくと背もたれに体を預けて両腕を組んだ。


「そして、更に厄介なのは、改竄された記憶が多ければ多いほど、個人の能力や他人との付き合い方……つまり、その人自身の人格に影響を及ぼすのさ」
「人格に、ですか?」


 再び小首を傾げたラピスに、マーザスは深く頷いた。


「そうだよ。人は、自らの五感を使って体験したり学んだりしたことは記憶として残り、それが人格形成の上で土台となる」
「ゆえに、改竄された記憶が多ければ多いほど、その人が持つ能力が制限されたり、他人との付き合いが変わったり……記憶を改竄される前と後の人格が、大きく変わるということでしょうか?」
「そういうこと。例えば……」


 ラピスに向けていた視線を、ゆっくりとカトレアに向けた。


「見下していた人物を親友として仲良くしていたり、使えるはずの魔法が使えないと思っていたりね」
「っ!?」


 その時、カトレアの脳裏に魔物討伐の時に出会ったカミルの言葉が過った。

『それなら、を使えるのではないのですか?』


 (どうして、魔物討伐で出会ったあの平民の言葉が蘇って……もしかして、あの平民が言っていたことは本当だったの?)


 僅かに眉を顰めて黙ったカトレアに対し、マーザスは深く溜息をつくと興味深そうに2人を見やった。
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