木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第4章 記憶と思惑のフィアンツ帝国

第218話 眠りにつく2人

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「あっ、ああっ……」


 マーザスの解呪魔法で改竄魔法を解かれたラピスは、その場で膝をつくと愕然とした顔で額を片手で押さえていた。




「お初にお目にかかります。私は、サザランス公爵家が娘、フリージア・サザランスと申します。あなた様が、カトレアの婚約者様であらせられるフォルダン伯爵家が三男、ラピス・フォルダン様ですね?」


 幼い頃、カトレアに連れられて公爵邸に来た俺は、公爵令嬢らしく綺麗にカーテシーをしたフリージア嬢に対し、俺は貴族令息らしく恭しく頭を下げた。
 すると、小さく笑みを浮かべたフリージア嬢が、徐に侍女から鍛錬用の木剣を受け取ったんだ。

 木剣? いきなり何をするんだ?

 思わず小首を傾げた俺に、フリージア嬢は楽しそうに提案をしてきた。


「でしたら、カトレアがロスペル兄様から魔法の修行をつけてもらっている間、私と木剣を使った模擬戦をしませんか?」
「はい?」


 言っている意味が分からなかった。どうして俺が、初対面の公爵令嬢と木剣で模擬戦をしないといけないんだ?

 思わず素の声を上げた俺に対し、横にいたカトレアがフリージア嬢に向かって心底呆れたような溜息をついた。


「フリージア、あなただって今日、師匠から魔法の授業を受けるんじゃなかったかしら?」


 すると、フリージア嬢の表情が満足げなものからしどろもどろなものになった。
 それも『本当に、宰相家の公爵令嬢なのか?』と疑いたくなるくらいに見事な動揺ぶりだった。


「そっ、そうなんだけど……この前、カトレアがラピス様のことを『騎士を目指しているから剣が物凄く強い』って褒めていらしていたから、どうしても手合わせしたくて!」
「ちょっ、ちょっと! フリージアがラピスと手合わせするのは良いけど、私がラピスを褒めていたことを本人の前で言わないでよ!」


 顔を真っ赤にしながら怒るカトレアを見て、とても楽しそうに笑うフリージア嬢。
 そんな、爵位に囚われない2人の仲睦まじい会話を聞いて思わず噴き出した。


「フッ、カトレア。お前、こんな面白い親友が出来たならさっさと紹介しろよ」
「だっ、だって! フリージアが『それは、婚約者である愛しのメスト様から許可をいただいてからじゃないと……』って言ったから、中々紹介出来なかったのよ」
「もっ、もう!!……カトレア、さっきの仕返しとばかりに言わないでよ!」


 得意げな笑みを浮かべるカトレアと、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら怒るフリージア嬢。
 これが、貴族令嬢としては少々規格外のフリージア嬢と初めて出会った時だった。




「俺は、どうしてこんな当たり前だけど大切のことを忘れて……」


 (カトレアの親友であり、我が国の宰相家令嬢は、淫乱令嬢のダリアではなく、公爵令嬢であるフリージア嬢なのに)

 銀髪で淡い緑色の瞳をしたフリージアを思い出し、ラピスは顔面蒼白になりながら懺悔のように呟いた。
 すると、それを傍で見ていたマーザスが小さく溜息をついて再び杖を掲げた。


「どうやら、君も少し眠った方が良いみたいですね」
「マーザス様?」


 ゆっくりと顔を上げたラピスがマーザスと目を合わせた瞬間、先程の魔法陣とは別の魔法陣に魔力を注ぎ終えたマーザスが、ラピスに再び魔法をかけた。


「《スリープ》」
「うっ!」


 (マーザス様。一体、何を……)

 マーザスから睡眠魔法をかけられたラピスは、真っ赤な絨毯が敷かれた床にゆっくりと体を横たわらせると静かに寝息を立てた。


「全く、ここまで彼の筋書き通りなんて……何だか、2人を騙したみたいで罪悪感が湧いてくるよ」


『追伸。改竄魔法を解いて2人が取り乱した場合、僕の杖を使って睡眠魔法をかけてやってください』


 親友からの手紙を思い出したマーザスは、呆れたように溜息をつくと床で寝ているラピスに杖を向けた。


「まぁ、このままラピス君を寝かすわけにはいかないし、一旦彼をソファーに寝かせてよう……《フロートムーヴ》」


 寝ているラピスを魔法で浮かせて空いているソファーに寝かせたマーザスは、近くにあったクローゼットから仮眠用の毛布を2つ出すと、そのままカトレアとラピスにかけた。
 すると、ドアがノックされた。


「何? どうしたの?」
「マーザス様、宰相閣下から『今すぐ玉座の間にお越しください』と緊急の呼び出しが来ました」
「あぁ、分かったよ」


 (『玉座の間』ねぇ……まぁ、あまり乗り気はしないんだけど)

 ドア越しに返事をしたマーザスは、小さく溜息をつくと寝ている2人を一瞥した。

(2人とも、深い眠りについているからしばらくは起きてこないと思うけど……)


「念の為、部屋に結界魔法をかけて施錠しないと。それと、城に行く前にこの部屋に誰も立ち入らせないように指示しておかないとね」


 (あと、僕が戻ってくる前に起きてきた2人のために紅茶とお菓子と用意しておこう)


 小さく笑みを浮かべたマーザスは、諸々の準備と根回しを終わらせると、皇帝陛下の待つ玉座の間に赴いた。

 そこには、黒い文官服姿の男が玉座の前で跪いていた。
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