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第4章 記憶と思惑のフィアンツ帝国
第219話 登城した下級文官
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カトレアとラピスがマーザスのいる執務室に向かっていた頃、ペトロート王国下級文官マクシェルは、帝国騎士に連れられて王城の中を歩いていた。
「こちらに来るのも、随分と久しぶりですね。相変わらず、城内はとても綺麗で美しいです」
「ありがとうございます。城に仕えている使用人達に、今の言葉を伝えておきます。きっと喜びます」
「ハハッ、他国の下級文官に褒められても嬉しくも無いでしょうに」
楽しそうに笑うマクシェルに対し、前を歩いていた騎士は複雑な表情になると静かに口を閉じた。
(どうやら、気を使わせたみたいだ)
急に黙ってしまった騎士に、マクシェルは小さく苦笑いを浮かべると城内に目を向けた。
「それにしても、王国で見たことが無い骨董品や壁紙ばかりで、思わず足を止めて見入ってしまいそうになりますな」
数多の小国と争った末、大陸で一番の領土を誇るようになったフィアンツ帝国の城内には、併合した小国で民芸品として作られていた物が、城の装飾品や壁紙として至るところに飾られていた。
(今は亡き小国の民芸品が品よく飾られているのは、帝国の血塗られた歴史を忘れないようにするためと、この城に来た人達をもてなすためだろう)
「そうですね。ですが、我が主は華美な物がとてもお嫌いな方ですので」
「そうでしたね。そもそも、無駄な物を置くことを自体嫌いでしょう」
「ハハッ、よくご存じで」
(フフッ、ようやく笑ってくれたな)
前から聞こえてきた笑い声に、マクシェルが内心安堵していると、すれ違う使用人達や文官達が全員マクシェルに向かって深々と頭を下げていることに気づいた。
「全く、今の私はただの下級文官なのに」
「あの、何か言いました?」
再び苦笑いを浮かべたマクシェルが、少しだけ後ろを振り向いた騎士に向かって首を横に振った。
「いえ、何でもありません。それよりも、こちらではありませんか?」
「はい、そうです」
そう言って立ち止まった2人の前には、赤と金色で彩られた荘厳で大きな扉があった。
(本当、ここに来るのは随分と久しぶりだ)
「お疲れ様です。ペトロート王国下級文官マクシェル殿を連れてきました」
「ご苦労。今から確認してくるから、お前は持ち場に戻れ」
「ハッ! それでは、マクシェル様。自分はここで失礼致します」
「はい。お疲れ様でした」
マクシェルを連れて来てくれた騎士は、扉の前に立っていた騎士に引継ぎを終えると、マクシェルに敬礼をして足早に立ち去った。
(この格好をしていても畏まった態度をされるなんて……)
持ち場へ戻った騎士の背中を見送ったマクシェルが、徐にそんなこと考えていると、扉の前に立っていた騎士がマクシェルのところに来た。
「お待たせいたしました。それでは、私とそこにいるもう1人の騎士で扉を開けますので、マクシェル様はそのままお進みください」
「はい、分かりました」
小さく頷いたマクシェルを見て、先程マクシェルと会話した騎士が、帝国の主に向かってマクシェルの来訪を伝えた。
「皇帝陛下、ペトロート王国下級文官マクシェル様が来られました」
「うむ、入らせろ」
「「ハッ!!」」
主の言葉に合わせて開かれたドアに、マクシェルは深々とお辞儀をすると謁見の間へと入った。
(ここも、相変わらず品よく装飾されているな。我が王国も、3年前まではこんな風に品よく整えていたが……)
帝国の謁見の間には、白と金色を基調とし、帝国の主としての威厳を損なわない程度の格式高い装飾があちこちに施されていた。
「それにしても、今の私は下級文官なんだが」
(一介の下級文官が隣国の城に来たこと自体、異例なことなのだが、あまつさえ謁見の間に呼ばれるなんて……)
他国の下級文官への待遇にマクシェルは違和感を覚えつつ、目の前にある玉座の間に目を向けた。
謁見の間でも一際豪華な装飾が施された玉座には、少しだけくすんだ金髪に濃い緑色の瞳をした大柄の男が、帝国の主として威厳のある態度で座っていた。
そして、その男の傍には、淡い紺色に薄い赤い瞳の細身の男が、眼鏡をかけて静かにマクシェルのことを見ていた。
そんな2人を見て、失礼にならない程度の苦笑いを浮かべたマクシェルは、玉座から少し離れた場所で立ち止まると、片膝をついて真剣な表情で深々と頭を下げた。
「ペトロート王国下級文官マクシェル。ただいま、皇帝陛下の求めに応じ、謁見の間に馳せ参じました」
恭しく頭を下げたマクシェルに、玉座に座る人物は小さく笑みを浮かべると横に控えている宰相に目配せした。
「マクシェル殿、表を上げてください」
「ハッ!」
(それにしても、下級文官に対して『殿』はおかしいのではないだろうか? 敬語を使うのもどうかと思うが)
帝国の宰相の言葉遣いに疑問を覚えつつ、マクシェルは言われた通り、ゆっくりと頭を上げた。
そこには、楽しそうな笑みを浮かべるフィアンツ帝国の皇帝陛下と、少しだけ顔を強張らせた宰相がいた。
(おやおや、他国の下級文官に対してそんな顔をするなんて……自国の宰相ならば、他国に対して、もう少し涼しい顔をしておかなければ、付け込まれる隙を与えてしまうことになる)
宰相の顔を一瞥したマクシェルがそんなことを思っていると、ひじ掛けで頬杖をついていた皇帝が笑みを浮かべながら口を開いた。
「随分と久方ぶりだな。ペトロート王国宰相、レクシャ・サザランス」
「こちらに来るのも、随分と久しぶりですね。相変わらず、城内はとても綺麗で美しいです」
「ありがとうございます。城に仕えている使用人達に、今の言葉を伝えておきます。きっと喜びます」
「ハハッ、他国の下級文官に褒められても嬉しくも無いでしょうに」
楽しそうに笑うマクシェルに対し、前を歩いていた騎士は複雑な表情になると静かに口を閉じた。
(どうやら、気を使わせたみたいだ)
急に黙ってしまった騎士に、マクシェルは小さく苦笑いを浮かべると城内に目を向けた。
「それにしても、王国で見たことが無い骨董品や壁紙ばかりで、思わず足を止めて見入ってしまいそうになりますな」
数多の小国と争った末、大陸で一番の領土を誇るようになったフィアンツ帝国の城内には、併合した小国で民芸品として作られていた物が、城の装飾品や壁紙として至るところに飾られていた。
(今は亡き小国の民芸品が品よく飾られているのは、帝国の血塗られた歴史を忘れないようにするためと、この城に来た人達をもてなすためだろう)
「そうですね。ですが、我が主は華美な物がとてもお嫌いな方ですので」
「そうでしたね。そもそも、無駄な物を置くことを自体嫌いでしょう」
「ハハッ、よくご存じで」
(フフッ、ようやく笑ってくれたな)
前から聞こえてきた笑い声に、マクシェルが内心安堵していると、すれ違う使用人達や文官達が全員マクシェルに向かって深々と頭を下げていることに気づいた。
「全く、今の私はただの下級文官なのに」
「あの、何か言いました?」
再び苦笑いを浮かべたマクシェルが、少しだけ後ろを振り向いた騎士に向かって首を横に振った。
「いえ、何でもありません。それよりも、こちらではありませんか?」
「はい、そうです」
そう言って立ち止まった2人の前には、赤と金色で彩られた荘厳で大きな扉があった。
(本当、ここに来るのは随分と久しぶりだ)
「お疲れ様です。ペトロート王国下級文官マクシェル殿を連れてきました」
「ご苦労。今から確認してくるから、お前は持ち場に戻れ」
「ハッ! それでは、マクシェル様。自分はここで失礼致します」
「はい。お疲れ様でした」
マクシェルを連れて来てくれた騎士は、扉の前に立っていた騎士に引継ぎを終えると、マクシェルに敬礼をして足早に立ち去った。
(この格好をしていても畏まった態度をされるなんて……)
持ち場へ戻った騎士の背中を見送ったマクシェルが、徐にそんなこと考えていると、扉の前に立っていた騎士がマクシェルのところに来た。
「お待たせいたしました。それでは、私とそこにいるもう1人の騎士で扉を開けますので、マクシェル様はそのままお進みください」
「はい、分かりました」
小さく頷いたマクシェルを見て、先程マクシェルと会話した騎士が、帝国の主に向かってマクシェルの来訪を伝えた。
「皇帝陛下、ペトロート王国下級文官マクシェル様が来られました」
「うむ、入らせろ」
「「ハッ!!」」
主の言葉に合わせて開かれたドアに、マクシェルは深々とお辞儀をすると謁見の間へと入った。
(ここも、相変わらず品よく装飾されているな。我が王国も、3年前まではこんな風に品よく整えていたが……)
帝国の謁見の間には、白と金色を基調とし、帝国の主としての威厳を損なわない程度の格式高い装飾があちこちに施されていた。
「それにしても、今の私は下級文官なんだが」
(一介の下級文官が隣国の城に来たこと自体、異例なことなのだが、あまつさえ謁見の間に呼ばれるなんて……)
他国の下級文官への待遇にマクシェルは違和感を覚えつつ、目の前にある玉座の間に目を向けた。
謁見の間でも一際豪華な装飾が施された玉座には、少しだけくすんだ金髪に濃い緑色の瞳をした大柄の男が、帝国の主として威厳のある態度で座っていた。
そして、その男の傍には、淡い紺色に薄い赤い瞳の細身の男が、眼鏡をかけて静かにマクシェルのことを見ていた。
そんな2人を見て、失礼にならない程度の苦笑いを浮かべたマクシェルは、玉座から少し離れた場所で立ち止まると、片膝をついて真剣な表情で深々と頭を下げた。
「ペトロート王国下級文官マクシェル。ただいま、皇帝陛下の求めに応じ、謁見の間に馳せ参じました」
恭しく頭を下げたマクシェルに、玉座に座る人物は小さく笑みを浮かべると横に控えている宰相に目配せした。
「マクシェル殿、表を上げてください」
「ハッ!」
(それにしても、下級文官に対して『殿』はおかしいのではないだろうか? 敬語を使うのもどうかと思うが)
帝国の宰相の言葉遣いに疑問を覚えつつ、マクシェルは言われた通り、ゆっくりと頭を上げた。
そこには、楽しそうな笑みを浮かべるフィアンツ帝国の皇帝陛下と、少しだけ顔を強張らせた宰相がいた。
(おやおや、他国の下級文官に対してそんな顔をするなんて……自国の宰相ならば、他国に対して、もう少し涼しい顔をしておかなければ、付け込まれる隙を与えてしまうことになる)
宰相の顔を一瞥したマクシェルがそんなことを思っていると、ひじ掛けで頬杖をついていた皇帝が笑みを浮かべながら口を開いた。
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