木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

文字の大きさ
234 / 606
第4章 記憶と思惑のフィアンツ帝国

第220話 レクシャ・サザランス

しおりを挟む
「陛下、わざわざ下級文官の方の名前で呼んだのから、陛下もそれに合わせて下さい」
「フン! そんな奴は呼んでいない! 俺が呼んだのは、下級文官じゃなくて腹黒だ!」
「ハァァァ……」


 (全く。あなたって方は、こういうところは幼い頃に出会った時から全く変わっていませんね)

 不機嫌そうにそっぽを向く皇帝を見て、幼馴染である宰相は呆れたように深い溜息をつくと、目の前で片膝をついている彼に目を向けた。


「申し訳ございません。陛下には、何度も説明したのですが……」
「良いのですよ。陛下の性格を考えれば、偽の名前を呼ばないことくらいは分かっていましたから」
「ありがとうございます。では、私もその名で呼んでもよろしいでしょうか?」
「フン! 貴様だって、その名で呼びたかったのではないか」
「陛下、これはあなた様の失態を尻拭いするという意味もあるのですよ」


 ご機嫌斜めに鼻を鳴らす皇帝を見て、少しだけ苦笑いを浮かべた下級文官は、そのまま宰相に視線を戻した。


「構いませんよ。陛下から本当の名前を呼ばれた時、あなた様も呼びたそうにこちらを見ていましたから」
「アハハッ、これはお恥ずかしいことを」
「ほら、貴様だって呼びたかったのではないか」


 勝ち誇った笑みを浮かべた皇帝は、すぐさま笑みを潜めると先程まで頭を垂れていた人物に目を向けた。


「さて、レクシャ。貴様がどうして下級文官としてこの国に来ることになったのか聞かせてもらおうか?」




「その前に、1つだけお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、許そう」
「ありがとうございます」


 深々と頭を下げたマクシェル……レクシャは、恭しく頭を上げると2人のことを交互に見やった。


「お2人は……フィアンツ帝国は、ペトロート王国のことについて、どこまで把握しておられるのでしょうか?」


 その瞬間、皇帝と宰相の顔が揃って曇った。


「それは……」


 気まずそうに視線をレクシャから逸らした宰相を一瞥し、小さく溜息をついた皇帝は、不機嫌そうな顔で頬杖をつきながら答えた。


のある日、突然我が国からペトロート王国に行くことが出来なくなった。そしてそれは、我が国だけではなく貴国と関係を持つ周辺諸国にも起きた」
「……それからしてすぐ、貴国から王国民ではない者達が次々と追い出され、その日を境に、王国のあらゆる情報が出なくなりました。これが、現時点で我が国が把握している、貴国に関する情報です」
「なるほど」


 (3年前のある日……恐らく、俺がに立場を追われた翌日だろう)

 3年前のことを思い出し、小さく拳を握ったレクシャ。
 そんな彼に、皇帝は今回のレクシャの来訪の意味について話した。


「だから、今回の貴様の来訪は、我が国にとっても周辺諸国にとっても願ったり叶ったりだった」


 (本当は『今更、どの面下げて来た? 突然、一方的に我が国との国交を絶ったくせに』と、この腹黒宰相をネチネチと問い詰めてやっても良いのだが……)


「それでは、聞かせてくれ。ペトロート王国の現状を」
「……かしこまりました」


 (それは、こいつの口から出る王国の現状を聞いてからでも良いだろう。どうせ、周辺諸国も帝国と同じように、王国の現状を知りたいだろうから)


「では、単刀直入に申し上げましょう」


 静かに目を細めた皇帝と宰相に、意を決して表を上げたレクシャは、帝国と王国双方の存続を揺るがしかねない王国の現状を口にした。


「皇帝陛下、並びに宰相閣下に申し上げます。我が国は、再び300年前の過ちを繰り返そうとしています」




「『300年前の過ち』……って、もしかして!?」


 レクシャから伝えられた王国の現状を聞いて、宰相の顔がみるみるうちに青ざめ、皇帝の表情が一気に険しいものに変わった。


「レクシャ。貴様、その言葉の意味を分かって言っているんだろうな?」


 地を這うような低い声で聞かれたレクシャは、真剣な表情のまま深く頷いた。
 その瞬間、勢いよく玉座から立ち上がった皇帝は、そのまま玉座から降りてレクシャの前で立ち止まると、レクシャの胸倉を掴んで無理矢理立ち上がらせた。


「貴様!! サザランス公爵家がどうして出来たのか理解しているのだろうな!?」
「もちろん、理解しております」
「っ!!」


 (だったら、どうして……!!)

 淡々と答えるレクシャに、鬼の形相をした皇帝が掴んでいた手に力を入れると、烈火の如くレクシャを問い詰めた。


「だったら、どうして300年前の過ちが起きようとしているんだ!! 300年前、ペトロート王国が我がフィアンツ帝国に対し、どんな愚かなことをしたかを……」
「分かっております!!!!」
「っ!?」


 突如として感情を爆発させたレクシャに、虚を突かれた皇帝は胸倉を掴んでいた手を少しだけ緩めた。
 それに気づかないレクシャは、こみ上げた想いをぶちまけた。


「我がペトロート王国が、フィアンツ帝国に対してどのような愚かなことをしたかを! その償いとして、我がサザランス公爵家が出来たことも!」
「レクシャ……」


 レクシャの怒りを見て冷静になった皇帝は、そっと彼から離れた。
 そんなレクシャの手には、血管が浮き出る程の拳が作られていた。

 (分かっていた! 知っていた! それでも……それでも俺は、止めることが出来なかった!!)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...