木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

文字の大きさ
289 / 606
第5章 止まっていた運命が動き出す

第266話 戦いのあと(中編)

しおりを挟む
「そうだな。厳格な父上のことだ。この事実を知った時、父上は俺とダリアの婚約を解消させるかもしれない」
「そうですね」


 (宰相家令嬢が天才魔法師を闇魔法で操って平民を襲った。この事実だけで、父上は家を守るために動くはずだ)

 ジルの言葉に静かに俯いたメストは、僅かに顔を歪ませると小さく拳を握った。


「幼い頃は、あんな子じゃなかった」
「メスト……」
「ダリアは……幼い頃の彼女は、お人好しのお転婆でありながらも、貴族令嬢として既に大人顔負けの洗練された立ち回りを身につけていた。そのくせ、毎日木剣を振っていて、婚約者である俺に模擬戦で挑んできた」


 (そして、俺に勝ったら心底喜んで、負けたら心底悔しがるような素直な子……あれっ?)

 婚約者が幼い時の頃を思い出したメストは、不意に記憶の中の婚約者と今の婚約者に違和感を覚える。

 (でも確か、ダリアは本よりも宝石が大好きで、随分前に『木剣なんて物騒なもの持ったことが無いです!』と言っていた。だとしたら……)


「俺は一体、誰が好きになったんだ?」


 ゆっくり顔を上げた瞬間、メストの頭の中に可愛らしい少女の声が聞こえた。


『メスト様!!』


「っ!?」


 脳裏に浮かんだ木剣を構えた少女に、胸を熱くしたメストは何かを思い出す。

 (そうだ。俺はこの銀髪で淡い緑色の瞳の可愛い顔立ちをした少女の勝気で凛とした姿に一目惚れをして……)


「うっ!」
「メスト!!」


 突然、激しい頭痛に襲われたメストに、傍にいたシトリンが懐に入れていた回復ポーションを取り出して渡す。


「メスト、これ飲んで」
「あっ、あぁ……」


 シトリンからポーションを受け取ったメストは、蓋を開けるとすぐさま中身を飲み干す。
 すると、あっという間に頭痛が引いた。


「ハァ、ハァ、ハァ……ありがとう、シトリン。助かった」
「良いよ。それよりも大丈夫? 前もあったよね?」
「あぁ、そうだな。誰かを思い出すと急に頭痛が襲うんだ」
「「「っ!?」」」


 フラフラになりながらも出たメストの言葉に、フェビルとザールの目が大きく見開くとすぐさまアイコンタクトを交わす。
 そして、フェビルは頭痛でフラフラになっているメストに近づいた。


「なぁ、メスト」
「何で、しょう?」
「その……前に頭痛が襲ったのはいつだ?」


 (少なくとも第二騎士団にいた頃ではない気がするが……)

 神妙な面持ちで聞いてきたフェビルに、メストは思い出すように首を傾げると口を開いた。


「確か、カミルと初めて手合わせした時だったと思います」




「カミル? 誰だ、それ?」


 首を傾げるルベルに、メストはカミルについて簡単に話す。


「孤児院育ちで木こりをしている平民なのですが、平民には珍しく魔力やレイピアを操ることが出来るんです」
「それって、この前お前と一緒に魔物討伐に来ていた平民のことか?」
「そうです」

 メストの話を聞いて、フェビルとザールを一瞥したジルは、小さく溜息をつくとメストに視線を戻す。


「しかし、そんな平民が王都にいるなんて知りませんでした」


 (何せ、こちらは王都から少し離れた領地にいるのだから)

 すると、ジルの言葉に反応したメストが小さく首を横に振った。


「いや、彼は王都ではなくリアスタ村に住んでいるんだ」
「リアスタ村だと!?」


 (その村って、確か引退した執事がいる……)

 突然大声を出したザールに、フェビル達が目を見開く中、呆れたよう溜息をついたジルが、後ろにいるザールに向き合う。


「ザール、どうした? 急に大声を出して」
「あっ……いえ、何でもありません。お騒がせしてしまい、申し訳ございませんでした」


 不用意に注目を集めてしまったザールは恭しく頭を下げる。
 そんな彼に小さく溜息をついたジルは、視線をルベルとフェビルに向けた。


「ちなみに、フェビル団長はその方をご存じで?」
「はい、メストとシトリンからそのような平民がいると聞いていましたから」
「そうですか」


 (まさか、ここで家族の情報が掴めるとは、さすがのリュシアンも思わなかったはず)

 ジルが後ろで愕然としている護衛騎士を一瞥すると、ポーションのお陰で体調が戻ったメストがザールに近づいた。


「ザールと言ったな」
「はい、メスト様」
「……1つ聞いても良いか?」
「何でしょう?」


 淡々と答えるザールに、既視感を覚えたメストは小さく息を吐くと口を開いた。


「どうして、カミルと同じ魔力、そして同じ回避技が使えるんだ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

処理中です...