木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第5章 止まっていた運命が動き出す

第278話 昔の方が……

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「……なるほど、いつも明るい店主様が珍しく寂しい顔をしていたから何の話をしていたと思ったら、そんなお話をされていたのですね」


 (声をかけた時はいつもの明るい店主様に戻っていたから聞けなかったけど、変わった王都の雰囲気について話していたのね)

 手綱を握って幌馬車を走らせていたカミルは、メストから店主と話していた内容を聞いて納得した。


「あぁ、俺も王都に戻ってきて3年経つが、今の王都は昔に比べてそんなに活気がないのだろうか?」


 そう言って王都の街並みに目を向けたメスト。
 そこには、貴族と思われる人々が派手に着飾りながら昼下がりの王都を我が物顔で歩いていたり、それを遠巻きに見ながら汗水垂らして商売をする人達がいたりした。

 (俺の目には、今の王都は美しく活気に満ち溢れているように見えるのだが)


「そう、かもしれませんね」
「カミル?」


 小首を傾げるメストを一瞥したカミルは、気持ちを抑えるように握っていた手綱に力を入れる。

 (このもどかしい気持ちを今のメスト様に話したとしても、彼が理解出来ないのは分かっている。でも……)

 メストに話すべきかカミルが葛藤していると、突然メストが手綱を握っているカミルの手にそっと自分の手を置いた。


「っ!? メストさん、一体何を……」
「カミル。迷うくらいなら話してくれ」
「ですが、今のあなた様には理解してもらえな……」
「そうだとしても、俺はカミルの話なら何でも聞く。だから話して欲しい」
「っ!!」


 (メスト、様……)

 その時、木こりの脳裏に今でも忘れられない言葉が蘇る。


『フリージア、俺はお前の話なら何でも聞く。例え、俺に対しての不平不満でも』


 (そうだ。この方は、どんな話でも、こうして私の話を真摯に聞いてくれた)

 真剣な表情で耳を傾けようとするメストに、僅かに下唇を噛んだカミルは、ゆっくりと息を吐くと強く握っていた手を僅かに緩めて口を開いた。


「今のあなた様にとって、この街はとても賑やかなのかもしれません。ですが……」


 手綱を握って前を見ていたカミルの目に、今の王都の風景と3年前に見た王都の風景が重なる。


「店主様がおっしゃったように、私の知っている王都は、貴族も平民も関係なく、皆が皆、互いに手を取り合い、この王都を盛り上げていました」


 そう言うカミルの表情は、いつもの無表情でありながらも、どこか店主と同じ寂しさが出ていた。

 (貴族は、平民が少しでも暮らしやすいように王族と共に国の土台を作ったり、他国と交渉したりしていた。平民は、この国を少しでも発展させようと、貴族や王族を信じて農作物や特産品など、この国でしか作れない物を作ったり、騎士や宮廷魔法師と共に国を守ったりしていた)

 カミルの目に今の王都と重なった3年前の王都の光景。
 それは、平民と貴族が当たり前のように同じ道を歩き、何かあれば身分関係なくその場にいた者が助ける、そんな穏やかで温かな光景だった。


『おい、これって確かあの貴族のところに持っていくもの……』
『ねぇ、これってどんなお菓子なの? 素朴だけどとても美味しそうに見えるわ!』


 (平民が当たり前のように貴族の屋敷に作ったものを献上する。そして、貴族が当たり前のように平民が作った物に興味を示す。それが、私の知っている王都の風景だった)

 見渡す限り貴族と商人しかいない今の王都に、カミルは悔しさを堪えるように再び手綱を強く握る。


「貴族は平民のために。平民は貴族のために。互いに互いの役割を尊重し、支え合って生きていく。それが国全体を大きく長く豊かに発展させていく。それが、この街の……いえ、この国の在り方でした」


 (それが、宰相であったお父様と国王陛下が心血注いで成し遂げようとしていたこと。今のような、一方的に貴族が平民を搾取するようなものじゃない)


『いいかい、フリージア。国は貴族だけいては成り立たない。平民と貴族。どちらもいて、互いに支え合ってこそ、初めて国が成り立つんだよ』


 父の言葉を思い出した木こりは、こみ上げてくる涙を静かに飲んだ。
 隣にいる彼に、涙を流している姿を見せたくなかったから。



「そう、だったのか……」


 (俺の知らない王都を、カミルは知っているんだな)

 僅かに眉を顰めているカミルの横顔を見て、悲しそうに顔を歪めたメストは、再び王都の街に目を向ける。


「なぁ、カミル?」
「何ですか?」
「今の王都と昔の王都、どっちが好きだ」


 世間話の中で出たごくありきたりな問いに、カミルは迷わず答える。


「昔ですね」
「そうか……」


 (3年前、あなたと一緒に手を繋いで歩いていた頃の王都が今でも好きだわ)

 あの頃の時を思い出し、少しだけ笑みを零したカミル。
 それを見たメストは、静かに口を噤むと視線を落とす。
 すると、カミルが常に携えている銀色のレイピアが目に入った。
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