木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第5章 止まっていた運命が動き出す

第285話 見知った顔

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「魔力が流れてきた方向からして、魔法が使われたのはこの辺りだと思うんだけど……」


 透明な魔力を爆ぜさせて屋根伝いに走っていたカミルは、下にいる人々の様子を観察しながら魔法が使われた場所を探していた。

 (メスト様と一緒にいた場所に比べると、この辺りの魔力は明らかに多いからこの辺りだと思うのだけど……あらっ?)


「あの人達、どこか一点を見つめているわね」


 (ということは、視線の先が魔法を使われた場所ってことね)

 眼下にいる人達が、足を止めて不安げな顔で一点を見ているのに気づいたカミルは、そちらに目を向けようと顔を上げる。
 その時、カミルがいる場所からそう遠くない場所で、爆発音と共に大きな火柱が上がった。



 ドーーーーン!!!


「っ!?」


 (この感じ、もしかしなくても中級魔法!)


「人通りの多い昼間の王都で中級魔法をぶっ放すなんて一体何考えているの!? それも、火属性なんて!」


 二度目の爆発音に下にいる人達から阿鼻叫喚の声が上がる中、眉を顰めたカミルは火柱が見えた方にひた走る。
 すると、カミルの脳裏に嫌な予感が過る。

 (でも、もしこれがカトレアだったら……)


『どうして平民如きが、ここにいるの?』


 嫌な記憶が蘇ったカミルは、不安を払拭するように大きく首を横に振る。


「いや、ここは平民のみならず貴族もいる商業街。今のカトレアでもそんな愚かな真似はしないはず」


 (例え、今のカトレアが私と出会う前のカトレアだったとしても)

 気持ちを切り替えるよう大きく息を吐いたカミルが視線を前に向けた瞬間、下から聞き覚えのある女性の声が聞こえた。


「アハハハッ! 男爵令嬢如きが、宰相家令嬢である私に歯向かおうなんて、100年は早いのよ!」
「っ!?」


 (この声! そして、自分のことを『宰相家令嬢』なんて言う女は……!!)

 忌まわしそうに奥歯を噛み締めたカミルは、足を止めると眼下に目を向ける。
 そこには、派手に着飾った貴族令嬢が、尻餅をついている下級貴族の令嬢らしき女性とその侍女に向かって扇子の切っ先を向けて嗤っていた。


「やっぱり……!!」


 派手に着飾った令嬢を睨みつけたカミルは、レイピアを鞘ごと持つとそのまま飛び降りる。
 そして、透明な魔力を使い尻餅をついている貴族令嬢の前に着地すると、背後にいる2人の無事を確かめようと後ろを振り返った。


「大丈夫で……え?」


 地味な緑色のドレスに身を包み、薄い紫色の瞳を潤ませた可憐な令嬢を見たカミルは、思わず目を見開いて息を呑んだ。

 (どうして、この子がここに? それに『男爵令嬢』って、この子は確か伯爵令嬢だったはずよ!)

 に唖然とするカミルに対し、恐怖で立てなくなった貴族令嬢もまた、突然のカミルの登場に大きく目を見開くと声を震わせてカミルの方に指をさした。


「あ、あなたって、確か……」


 (あぁ、そう言えばこの子も被害者だったわね。だから、伯爵令嬢ではなく男爵令嬢なのね)


「へぇ、私のこと知っているのですね」
「当たり前でしょ! あなたは、貴族にとって敵なのだから!」
「『敵』ですか」


 (その敵に助けられているのだけど……まぁ、良いわ)

 見知った令嬢の言葉に一気に心が冷えたカミルは、いつもの無表情になると何事も無かったかのように視線を前に戻す。


「立てるならさっさと逃げてください。そうじゃないと、また魔法が飛んできますから」
「だ、だってあなた! 平民しか助けないんじゃないの!?」
「……フフッ」
「?」


 震えた声で噛みつく男爵令嬢の言葉に、カミルは噴き出したように小さく笑い声をあげた。

 (確かにそうかも。正直、今の王国貴族達なんて、みんな平気で平民を甚振るから守るに値しないわ)


「確かに、私は横暴を働く騎士様やお貴族様に甚振られている平民を見たら必ず助けます」
「だったら……」
「ですが」


 柄からレイピアを引き抜いたカミルは、目の前にいるダリアを静かに見据える。


「家格の高い者が、家格の低い者を甚振る光景は、平民にとっては良い迷惑でしかありません。だから、早く逃げてください」
「っ!? あなた、一体……」
「それに」


 一瞬だけ後ろに視線を向けたカミルは、再び小さく笑みを浮かべた。


「あなたの家が代々、平民のために頑張っているのは存じていますので」
「えっ?」


 (そう、あなたの家……ミストラル伯爵家は代々、この国の平民のために帝国から平民でも使える魔道具を輸入している家なのだから)

 レイピアを構えたカミルの背後で、驚いたように目を見開く貴族令嬢。
 その令嬢は、レクシャが当主であるサザランス公爵家と同じ、帝国から分家として王国に来た貴族家……ミストラル伯爵家の令嬢、マヤ・ミストラルだった。
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