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第5章 止まっていた運命が動き出す
第310話 ラピスの慟哭
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「おらっ!」
「うぐっ!」
鍔迫り合いの状態から双剣をスライドさせて攻撃を受け流したラピスは、前のめりになったメストの腹に思い切り蹴りを入れ、苦悶の表情を浮かべるメストから距離を取った。
「すまない、フリージア嬢。隊長相手では今の俺でも手加減出来ない」
「……分かっているわ」
(今のメスト様はあの女に魅了されている上に、ラピスさんにとっては上司。だから、彼が手加減することは出来ない)
レイピアに魔力を流したまま無表情でゆっくりと俯いたカミルを見て、悔しそうに顔を歪めたラピスは深呼吸をすると、双剣を構え、今度はラピスからメストに接敵した。
「っ!!」
「隊長、今のあんたに言っても無駄だと分かっています」
それは、いつの間にかかなり離れた場所で様子を伺っているダリアには聞こえず、すぐ近くにいるカミルからは十分に聞こえる声だった。
「でも、やっぱりムカつくんですよ!」
そう言って、ラピスはここ3年使うことが無かった双剣での連撃を繰り出す。
しかし、カミルのもとで鍛錬をしていたメストは、魅了されたままでも、ラピスの攻撃を躱したり受け流したりして対応していた。
(チッ! やっぱり隊長は容赦ないですね。けど!!)
悔しそうに顔を歪めたラピスもまた、メストからの攻撃を受け流したり躱したりしながら攻撃の手を止めなかった。
そして、無表情のメストに訴えかける。
「どうしてあんなアバズレ女の婚約者をしているのですか! そもそも、どうして一目惚れした女のことを忘れているんですか!」
「っ!?」
怒気の籠ったラピスの言葉に、僅かに肩を震わせたカミルはレイピアの柄に力を込める。
「例え、改竄魔法のせいで記憶が弄られたとしても、俺だったら絶対に忘れない! 自分が惚れた女なら尚更!」
目くじらを立てながらメストを肉薄していくラピスの言葉は、ダリアに魅了されて自我を失っている今のメストには届かない。
それでも、彼は話すことを止めない。
「俺は記憶を取り戻した時、心底自分に腹が立ちましたよ! どうして、悪友のことを今の今まで忘れていたんだって!」
それは、帝国から王国に帰っている道中のこと。
カトレアと共にレクシャに協力することになったラピスは、野営の見張り中、取り戻した記憶を整理していくうちに悪友のことを忘れていた自分に腹が立った。
彼にとって、悪友はフリージアただ1人だから。
「カトレアに至っては悔しさで泣き崩れていましたよ! アバズレ女のことを親友と呼んでいたことを! 本当の親友に魔法を撃ったことを! 何より、親友のことをずっと忘れてたことを!」
『行かないで! 行かないでよ、フリージア!!』
魔物討伐の時のことを思い出して唖然とするカミルを他所に、改竄魔法が解かれた時のカトレアを思い出したラピスは、メストからの攻撃を受け流しつつ更に連撃の速度を上げる。
「あんたはなにも思わないのですか! 婚約者のことを忘れていることを! その婚約者がすぐ近くにいることを!」
ラピスは分かっていた。
例え自我があってもなくても、なぜ怒っているのか今のメストには理解出来ないことくらい。
それでも、彼は言葉にしたかった。
1人孤独に戦ってきた悪友のことを少しでも知って欲しい……いや、思い出して欲しかった。
「どうして、どうして……」
悔しさで顔を歪めたラピスは、メストからの強烈な攻撃を躱すと鍔迫り合いに持ち込む。
「どうして、すぐ近くにあんたが本当に惚れた女がいることに気づかないのですか!」
「っ!」
慟哭にも似た叫び声に、肩を震わせたカミルは何かに堪えるように小さく下唇を噛むとレイピアの柄を更に強く握る。
「姿形が変わっても、惚れた女のことくらいすぐに見つけられるでしょうが!」
「……うっ」
思わず嗚咽が出たカミルの中には、今の今までがずっと胸の内に秘めていた想いがあった。
『私に気づいて。私のことを思い出して』と。
けれど、そう思う度にカミルは『現実を見ろ』と言わんばかりに自分に言い聞かせる。
『言葉にしても無駄。だって、ここにいる人達はみんな私のことを忘れているのだから』と。
見知った顔を見る度に期待して。でも、現実を見て諦めて。
そうして期待と絶望を繰り返すうちに、期待もしなくなり、胸の奥に閉じ込めていた想いに目を背けた。
そんなカミルが抱いた積年の思いを、ずっと目を背けていた本音を、ラピスが怒りを露にしながら言葉にしてくれた。
「例え、隊長だろうと!」
「っ!」
「ううっ……」
(本当はラピスさんを止めた方が良いのは分かっている。でも、でもっ……!)
柄を握ったままゆっくりと膝から崩れ落ちたカミルのアイマスクは、目から零れ落ちた涙で濡れ、今まで抑えていた感情は嗚咽となって外に出た。
そんなことになっているとは知らないラピスは、再び強烈な一撃を叩き込むとメストの片手剣を弾いた。
「っ!?」
「心底惚れた女を忘れた野郎は、さっさとアバズレ女と結婚してしまえ!!」
怒りに身を任せたラピスは、がら空きになったメストの腹部に向かって思いっ切り蹴りを入れる。
「グハッ!!」
「キャーー!!」
ラピスの強い蹴りに咄嗟に受け身が取れなかったメストは、ダリアがいるところまで体をふっ飛ばされ、そのまま意識を失った。
「うぐっ!」
鍔迫り合いの状態から双剣をスライドさせて攻撃を受け流したラピスは、前のめりになったメストの腹に思い切り蹴りを入れ、苦悶の表情を浮かべるメストから距離を取った。
「すまない、フリージア嬢。隊長相手では今の俺でも手加減出来ない」
「……分かっているわ」
(今のメスト様はあの女に魅了されている上に、ラピスさんにとっては上司。だから、彼が手加減することは出来ない)
レイピアに魔力を流したまま無表情でゆっくりと俯いたカミルを見て、悔しそうに顔を歪めたラピスは深呼吸をすると、双剣を構え、今度はラピスからメストに接敵した。
「っ!!」
「隊長、今のあんたに言っても無駄だと分かっています」
それは、いつの間にかかなり離れた場所で様子を伺っているダリアには聞こえず、すぐ近くにいるカミルからは十分に聞こえる声だった。
「でも、やっぱりムカつくんですよ!」
そう言って、ラピスはここ3年使うことが無かった双剣での連撃を繰り出す。
しかし、カミルのもとで鍛錬をしていたメストは、魅了されたままでも、ラピスの攻撃を躱したり受け流したりして対応していた。
(チッ! やっぱり隊長は容赦ないですね。けど!!)
悔しそうに顔を歪めたラピスもまた、メストからの攻撃を受け流したり躱したりしながら攻撃の手を止めなかった。
そして、無表情のメストに訴えかける。
「どうしてあんなアバズレ女の婚約者をしているのですか! そもそも、どうして一目惚れした女のことを忘れているんですか!」
「っ!?」
怒気の籠ったラピスの言葉に、僅かに肩を震わせたカミルはレイピアの柄に力を込める。
「例え、改竄魔法のせいで記憶が弄られたとしても、俺だったら絶対に忘れない! 自分が惚れた女なら尚更!」
目くじらを立てながらメストを肉薄していくラピスの言葉は、ダリアに魅了されて自我を失っている今のメストには届かない。
それでも、彼は話すことを止めない。
「俺は記憶を取り戻した時、心底自分に腹が立ちましたよ! どうして、悪友のことを今の今まで忘れていたんだって!」
それは、帝国から王国に帰っている道中のこと。
カトレアと共にレクシャに協力することになったラピスは、野営の見張り中、取り戻した記憶を整理していくうちに悪友のことを忘れていた自分に腹が立った。
彼にとって、悪友はフリージアただ1人だから。
「カトレアに至っては悔しさで泣き崩れていましたよ! アバズレ女のことを親友と呼んでいたことを! 本当の親友に魔法を撃ったことを! 何より、親友のことをずっと忘れてたことを!」
『行かないで! 行かないでよ、フリージア!!』
魔物討伐の時のことを思い出して唖然とするカミルを他所に、改竄魔法が解かれた時のカトレアを思い出したラピスは、メストからの攻撃を受け流しつつ更に連撃の速度を上げる。
「あんたはなにも思わないのですか! 婚約者のことを忘れていることを! その婚約者がすぐ近くにいることを!」
ラピスは分かっていた。
例え自我があってもなくても、なぜ怒っているのか今のメストには理解出来ないことくらい。
それでも、彼は言葉にしたかった。
1人孤独に戦ってきた悪友のことを少しでも知って欲しい……いや、思い出して欲しかった。
「どうして、どうして……」
悔しさで顔を歪めたラピスは、メストからの強烈な攻撃を躱すと鍔迫り合いに持ち込む。
「どうして、すぐ近くにあんたが本当に惚れた女がいることに気づかないのですか!」
「っ!」
慟哭にも似た叫び声に、肩を震わせたカミルは何かに堪えるように小さく下唇を噛むとレイピアの柄を更に強く握る。
「姿形が変わっても、惚れた女のことくらいすぐに見つけられるでしょうが!」
「……うっ」
思わず嗚咽が出たカミルの中には、今の今までがずっと胸の内に秘めていた想いがあった。
『私に気づいて。私のことを思い出して』と。
けれど、そう思う度にカミルは『現実を見ろ』と言わんばかりに自分に言い聞かせる。
『言葉にしても無駄。だって、ここにいる人達はみんな私のことを忘れているのだから』と。
見知った顔を見る度に期待して。でも、現実を見て諦めて。
そうして期待と絶望を繰り返すうちに、期待もしなくなり、胸の奥に閉じ込めていた想いに目を背けた。
そんなカミルが抱いた積年の思いを、ずっと目を背けていた本音を、ラピスが怒りを露にしながら言葉にしてくれた。
「例え、隊長だろうと!」
「っ!」
「ううっ……」
(本当はラピスさんを止めた方が良いのは分かっている。でも、でもっ……!)
柄を握ったままゆっくりと膝から崩れ落ちたカミルのアイマスクは、目から零れ落ちた涙で濡れ、今まで抑えていた感情は嗚咽となって外に出た。
そんなことになっているとは知らないラピスは、再び強烈な一撃を叩き込むとメストの片手剣を弾いた。
「っ!?」
「心底惚れた女を忘れた野郎は、さっさとアバズレ女と結婚してしまえ!!」
怒りに身を任せたラピスは、がら空きになったメストの腹部に向かって思いっ切り蹴りを入れる。
「グハッ!!」
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