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第5章 止まっていた運命が動き出す
第316話 ワケアリ平民と騎士団長②
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「まさか、あなた様が噂に名高い『騎士殺し』だとは思いませんでした」
フェビルが口にした聞き覚えのある不名誉な二つ名に、カミルは無表情を崩して僅かに眉を顰めた。
「言っておきますが、私は騎士様を殺していません」
「えぇ、お父上の教えを守っているあなた様が、そのようなことをするはずないことは分かっています。ですが、公爵令嬢であるあなた様が、まさか民のために自ら剣を振るとは思いませんでした」
(普段のあなたは、公爵令嬢として常に気品溢れる振る舞いをしていましたから)
意外そうだと口にしたフェビルに、眉を顰めていたカミルがフッと笑みが零れた。
「そうでしょうか? 私、こう見えて剣術だけは一通り教わっていますので、腑抜けた騎士程度ならあっという間に無力化出来ますよ」
「アハハッ、そう言えば、あなた様はいつもリュシアン様と剣の鍛錬をされていましたね」
それはまだフェビルが第二騎士団の隊長をしていた頃、レクシャの誘いでサザランス公爵邸を訪れたことがあった。
その時、あどけなさが残る少女が、真剣な表情でリュシアンと手合せをしていたところを見たことがあったのだ。
その時のことを思い出し、懐かしそうに笑うフェビルに、一瞬笑みを深めたカミルは、無表情に戻す。
そして、メストにも話していないレイピアを振って平民を守っている理由をフェビルに話す。
「それに、エドガスがお父様の教えに従い、この国を支えている平民を守っていたから、私も彼やお父様のように民を守ろうと思ったのです」
「エドガス様?」
「えぇ、我が家の元執事です」
そう言うと、カミルは初めてエドガスが悪徳騎士と対峙しているところを見た時のことを思い返した。
「エドガス、あなた一体何をやっているの!? そんなことをすればあなただって……」
「お嬢様。私はかつて先代に拾われ、長らく宰相家に仕えさせていただいた身。なれば、目の前で困っている者を助けるのは、宰相家にいた者として当然の務めです」
下卑た笑みを浮かべながら得物を握る悪徳騎士達を前に、毅然とした態度で立ち向おうとするエドガスの姿に、無表情のカミルの頬に涙が流れた。
(エドガスは、遥か東の国から来た流浪の民で、この国の人間にしては珍しく魔力を持っていない。けれど、彼には敵を欺くような回避技がある上に、『血術』と呼ばれる魔石に血を垂らして魔法に似たものを行使する術を使う)
類稀なる身体能力と特殊な技を使っていたエドガスは、長らくサザランス公爵の執務兼護衛を務めていた。
そして、執事を引退した今も高い身体能力は健在で、悪徳騎士達のお粗末な攻撃をあっさり躱した。
「くっ、このジジイやるなぁ!」
「クソッ、あと少しだったのに」
日頃の鍛錬を怠っているせいで、エドガスに一撃も入れられない悪徳騎士達が悔しそうに顔を歪める。
そんな彼らを見て小さく溜息をついたエドガスは、懐から透明の魔石を取り出し、持っていたバタフライナイフで指を切り、そのまま魔石に血を垂らした。
「我が血をもって、目の前にいる敵を無力化せよ」
ペトロート王国では全く聞き覚えの無い詠唱をエドガスが唱えた瞬間、血で赤く染まった魔石から無数の透明な矢じりが、悪徳騎士に向かって一斉に放たれた。
「うわっ!」
「なっ、なんだこれはーー!!」
今まで見たことの無い攻撃に慌てふためいていた悪徳騎士達は、なすすべもないまま矢じりの餌食になりに、そのまま地面に倒れた。
(すごい、執事を引退してしばらく経つのにお父様の教えを守り、民のために自分の出来ることを精一杯果たしている。それなのに、私はときたら……)
その様子を少し離れた場所で見ていたカミルは、大して乱れていない衣服を整えているエドガスに近寄った。
「エドガス、私……」
不安と申し訳なさが入り混じる顔で俯くカミルに、小さく笑みを零したエドガスはカミルの前に静かにかがむとそっと頭に手を乗せる。
「お嬢様、これはサザランス公爵家に恩義を感じた私が、勝手にしたくてやっていることです。ですから、お嬢様が気に病むことはございません」
安心させるように微笑んで優しく頭を撫でるエドガスに、ギュッと唇を噛んだカミルは『いつか、エドガスのように平民を守りたい』と強く決意する。
それが、木こりがレイピアを持つきっかけとなった。
フェビルが口にした聞き覚えのある不名誉な二つ名に、カミルは無表情を崩して僅かに眉を顰めた。
「言っておきますが、私は騎士様を殺していません」
「えぇ、お父上の教えを守っているあなた様が、そのようなことをするはずないことは分かっています。ですが、公爵令嬢であるあなた様が、まさか民のために自ら剣を振るとは思いませんでした」
(普段のあなたは、公爵令嬢として常に気品溢れる振る舞いをしていましたから)
意外そうだと口にしたフェビルに、眉を顰めていたカミルがフッと笑みが零れた。
「そうでしょうか? 私、こう見えて剣術だけは一通り教わっていますので、腑抜けた騎士程度ならあっという間に無力化出来ますよ」
「アハハッ、そう言えば、あなた様はいつもリュシアン様と剣の鍛錬をされていましたね」
それはまだフェビルが第二騎士団の隊長をしていた頃、レクシャの誘いでサザランス公爵邸を訪れたことがあった。
その時、あどけなさが残る少女が、真剣な表情でリュシアンと手合せをしていたところを見たことがあったのだ。
その時のことを思い出し、懐かしそうに笑うフェビルに、一瞬笑みを深めたカミルは、無表情に戻す。
そして、メストにも話していないレイピアを振って平民を守っている理由をフェビルに話す。
「それに、エドガスがお父様の教えに従い、この国を支えている平民を守っていたから、私も彼やお父様のように民を守ろうと思ったのです」
「エドガス様?」
「えぇ、我が家の元執事です」
そう言うと、カミルは初めてエドガスが悪徳騎士と対峙しているところを見た時のことを思い返した。
「エドガス、あなた一体何をやっているの!? そんなことをすればあなただって……」
「お嬢様。私はかつて先代に拾われ、長らく宰相家に仕えさせていただいた身。なれば、目の前で困っている者を助けるのは、宰相家にいた者として当然の務めです」
下卑た笑みを浮かべながら得物を握る悪徳騎士達を前に、毅然とした態度で立ち向おうとするエドガスの姿に、無表情のカミルの頬に涙が流れた。
(エドガスは、遥か東の国から来た流浪の民で、この国の人間にしては珍しく魔力を持っていない。けれど、彼には敵を欺くような回避技がある上に、『血術』と呼ばれる魔石に血を垂らして魔法に似たものを行使する術を使う)
類稀なる身体能力と特殊な技を使っていたエドガスは、長らくサザランス公爵の執務兼護衛を務めていた。
そして、執事を引退した今も高い身体能力は健在で、悪徳騎士達のお粗末な攻撃をあっさり躱した。
「くっ、このジジイやるなぁ!」
「クソッ、あと少しだったのに」
日頃の鍛錬を怠っているせいで、エドガスに一撃も入れられない悪徳騎士達が悔しそうに顔を歪める。
そんな彼らを見て小さく溜息をついたエドガスは、懐から透明の魔石を取り出し、持っていたバタフライナイフで指を切り、そのまま魔石に血を垂らした。
「我が血をもって、目の前にいる敵を無力化せよ」
ペトロート王国では全く聞き覚えの無い詠唱をエドガスが唱えた瞬間、血で赤く染まった魔石から無数の透明な矢じりが、悪徳騎士に向かって一斉に放たれた。
「うわっ!」
「なっ、なんだこれはーー!!」
今まで見たことの無い攻撃に慌てふためいていた悪徳騎士達は、なすすべもないまま矢じりの餌食になりに、そのまま地面に倒れた。
(すごい、執事を引退してしばらく経つのにお父様の教えを守り、民のために自分の出来ることを精一杯果たしている。それなのに、私はときたら……)
その様子を少し離れた場所で見ていたカミルは、大して乱れていない衣服を整えているエドガスに近寄った。
「エドガス、私……」
不安と申し訳なさが入り混じる顔で俯くカミルに、小さく笑みを零したエドガスはカミルの前に静かにかがむとそっと頭に手を乗せる。
「お嬢様、これはサザランス公爵家に恩義を感じた私が、勝手にしたくてやっていることです。ですから、お嬢様が気に病むことはございません」
安心させるように微笑んで優しく頭を撫でるエドガスに、ギュッと唇を噛んだカミルは『いつか、エドガスのように平民を守りたい』と強く決意する。
それが、木こりがレイピアを持つきっかけとなった。
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