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第6章 待ち望んだ再会と星降る夜の語らい
第344話 平民として生きていくために
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「それは記憶が無いと分かっていても?」
「そうよ。むしろ、記憶が無いから巻き込みたく無かった」
(ノルベルトにバレることを危惧していたのも間違いない。けれど、それと同じくらい大切な人達を私たち家族の事情に巻き込みたくなかった)
「とは言っても、半分巻き込んでしまった人がいるのだけど」
「フリージア?」
『カミル』と名付けてくれた大切な人のことを思い出し、悲しそうな顔をしたフリージアは、小首を傾げているカトレアに笑みを浮かべて首を横に振る。
「ごめんなさい、何でもないわ。それより、話が逸れちゃったわね。戻しましょうか?」
「え、えぇ」
(フリージア、私たちの前ではそんな貼り付けたような笑顔をしないでよ)
無理をして気丈に振舞っている親友をいたたまれない気持ちで見ているカトレアをよそに、フリージアはこの家に来た時のことを話す。
「エドガスから用意された木こりの服を着た後、私は、エドガスの案内でこの家とこの辺一帯のことを教えてもらったわ」
少しだけ立ち直ったとはいえ、家族を離れ離れになり、目の前で生家が焼かれた時に負った心の傷が癒えることはない。
それでも、フリージアはエドガスの案内に耳を傾ける。
これから、貴族としてではなく、平民として暮らさないといけないから。
(その時にステインに会ったのよね。あの時、恨みごとを言った末に泣いちゃって困らせちゃったわね)
『分かっているとは思いますが、これからあなた様には、平民の生活に慣れていただきます。心の傷が癒えていないことは重々承知の上ですが、これも生きるためには必要なことです』
『分かっているわよ』
(お父様達との約束があったから、国を出たくても出られない。だから、無理をしてでも平民をしてでも覚えるしかなかった)
初めて馬小屋に行った時のことを思い出し、少しだけ笑みを浮かべたフリージアは話を続ける。
「それからエドガスは、私が平民として生きられるように色々なことを叩きこんでくれた」
掃除・洗濯・料理の仕方に、馬の世話に行商のやり方、お金の使い方など、今まで使用人達に任せていたあらゆることをエドガスから全て教わった。
「もちろん最初は、『貴族が平民の真似事をするなんて』って多少抵抗を覚えたわ。だって、生まれた時から貴族としての生き方をしてきたから。それに……」
「それに?」
声を揃えるカトレアとラピスに、フリージアはティーカップの取っ手を強く握る。
「やっぱり、自分が貴族から平民になったという現実を受け入れたくなかったのよ」
エドガスの家に逃れて来て間もない頃、フリージアは『いつか絶対お父様が迎えに来る』と信じていた。
だから、貴族としての誇りを忘れないよう、平民として生活しなければならない現実を受け入れられなかった。
それがいつ叶うか分からないなんて最初から分かっていたはずなのに。
その時のことを思い出し、小さく下唇を噛んだフリージアは、平民としてこの家での生活を始めた頃のことを振り返る。
『えっ、これも私がしないといけないの?』
『当然です。掃除や料理と同じように、洗濯もまた自分たちでしないといけないのですよ。もちろん洗った物も全て自分で畳んで、元の場所に戻さないといけません』
あからさまに不満げな顔で洗濯物と向き合うフリージアに、心を鬼にしたエドガスは険しい顔で彼女に洗濯物の畳み方を教えた。
「でも、フリージアが来るって分かっていたなら、もう1人くらい使用人を呼んでも……」
「カトレア。それだと、周りから不審がられてしまう。平民の家には使用人はいないから」
「確かにそうね……」
ラピスの言葉を聞いて、納得したカトレアが静かに口を噤むと、2人のやり取りを聞いたフリージアが思わず苦笑する。
「まぁ、私もエドガスに『もう1人呼べばいいじゃない』って言ったことがあるわ。エドガスから『それだと正体がバレてしまいます』って断られちゃったけど」
(『平民の家には使用人がいない』なんて当たり前のことなのに……それだけ、あの頃の私は貴族令嬢としての矜持を捨てられなかったのね)
「でも、今思えばエドガスは知っていたのかもしれないわね。そう遠くない未来、私が平民としてたった一人で生きていくことを」
「フリージア」
「フリージア嬢」
元主であるレクシャからフリージアを託された時、エドガスは老い先短いことを知っていた。
だから、フリージアに平民として生きていく知識を全て授けた。
いずれ来る別れに彼女1人でも生きていけるように。
悲しそうな顔で見つめるカトレアとラピスに、フリージアは笑みを潜めて呟いた。
「この家に来てから1年後、エドガスは眠るように息を引き取ったわ」
「そうよ。むしろ、記憶が無いから巻き込みたく無かった」
(ノルベルトにバレることを危惧していたのも間違いない。けれど、それと同じくらい大切な人達を私たち家族の事情に巻き込みたくなかった)
「とは言っても、半分巻き込んでしまった人がいるのだけど」
「フリージア?」
『カミル』と名付けてくれた大切な人のことを思い出し、悲しそうな顔をしたフリージアは、小首を傾げているカトレアに笑みを浮かべて首を横に振る。
「ごめんなさい、何でもないわ。それより、話が逸れちゃったわね。戻しましょうか?」
「え、えぇ」
(フリージア、私たちの前ではそんな貼り付けたような笑顔をしないでよ)
無理をして気丈に振舞っている親友をいたたまれない気持ちで見ているカトレアをよそに、フリージアはこの家に来た時のことを話す。
「エドガスから用意された木こりの服を着た後、私は、エドガスの案内でこの家とこの辺一帯のことを教えてもらったわ」
少しだけ立ち直ったとはいえ、家族を離れ離れになり、目の前で生家が焼かれた時に負った心の傷が癒えることはない。
それでも、フリージアはエドガスの案内に耳を傾ける。
これから、貴族としてではなく、平民として暮らさないといけないから。
(その時にステインに会ったのよね。あの時、恨みごとを言った末に泣いちゃって困らせちゃったわね)
『分かっているとは思いますが、これからあなた様には、平民の生活に慣れていただきます。心の傷が癒えていないことは重々承知の上ですが、これも生きるためには必要なことです』
『分かっているわよ』
(お父様達との約束があったから、国を出たくても出られない。だから、無理をしてでも平民をしてでも覚えるしかなかった)
初めて馬小屋に行った時のことを思い出し、少しだけ笑みを浮かべたフリージアは話を続ける。
「それからエドガスは、私が平民として生きられるように色々なことを叩きこんでくれた」
掃除・洗濯・料理の仕方に、馬の世話に行商のやり方、お金の使い方など、今まで使用人達に任せていたあらゆることをエドガスから全て教わった。
「もちろん最初は、『貴族が平民の真似事をするなんて』って多少抵抗を覚えたわ。だって、生まれた時から貴族としての生き方をしてきたから。それに……」
「それに?」
声を揃えるカトレアとラピスに、フリージアはティーカップの取っ手を強く握る。
「やっぱり、自分が貴族から平民になったという現実を受け入れたくなかったのよ」
エドガスの家に逃れて来て間もない頃、フリージアは『いつか絶対お父様が迎えに来る』と信じていた。
だから、貴族としての誇りを忘れないよう、平民として生活しなければならない現実を受け入れられなかった。
それがいつ叶うか分からないなんて最初から分かっていたはずなのに。
その時のことを思い出し、小さく下唇を噛んだフリージアは、平民としてこの家での生活を始めた頃のことを振り返る。
『えっ、これも私がしないといけないの?』
『当然です。掃除や料理と同じように、洗濯もまた自分たちでしないといけないのですよ。もちろん洗った物も全て自分で畳んで、元の場所に戻さないといけません』
あからさまに不満げな顔で洗濯物と向き合うフリージアに、心を鬼にしたエドガスは険しい顔で彼女に洗濯物の畳み方を教えた。
「でも、フリージアが来るって分かっていたなら、もう1人くらい使用人を呼んでも……」
「カトレア。それだと、周りから不審がられてしまう。平民の家には使用人はいないから」
「確かにそうね……」
ラピスの言葉を聞いて、納得したカトレアが静かに口を噤むと、2人のやり取りを聞いたフリージアが思わず苦笑する。
「まぁ、私もエドガスに『もう1人呼べばいいじゃない』って言ったことがあるわ。エドガスから『それだと正体がバレてしまいます』って断られちゃったけど」
(『平民の家には使用人がいない』なんて当たり前のことなのに……それだけ、あの頃の私は貴族令嬢としての矜持を捨てられなかったのね)
「でも、今思えばエドガスは知っていたのかもしれないわね。そう遠くない未来、私が平民としてたった一人で生きていくことを」
「フリージア」
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元主であるレクシャからフリージアを託された時、エドガスは老い先短いことを知っていた。
だから、フリージアに平民として生きていく知識を全て授けた。
いずれ来る別れに彼女1人でも生きていけるように。
悲しそうな顔で見つめるカトレアとラピスに、フリージアは笑みを潜めて呟いた。
「この家に来てから1年後、エドガスは眠るように息を引き取ったわ」
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