木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

文字の大きさ
377 / 606
第6章 待ち望んだ再会と星降る夜の語らい

第351話 彼を突き放せなかった理由

しおりを挟む
「ねぇ、フリージア」
「何?」


 一通り話を終え、口の中を潤すために紅茶を飲んだフリージアに、真剣な表情のカトレアが静かに問い質す。


「1つだけ聞いていい?」
「良いわよ」
「今までの話で、あなたが私たちを大切に思って冷たく突き放したことも、エドガス様の意志を引き継いで1人孤独に立ち向かっていたことも理解出来たわ。それならどうして、メスト様を突き放さなかったの?」
「カトレア!」


 声を荒げて立ち上がったラピスに、鋭い目を向けたカトレアは、視線をフリージアに戻すと木こりの仕事ですっかりかさついてしまった彼女の手を取った。


「心優しいあんたなら分かっていたはずよ。このままだと、彼をご家族の事情に巻き込ませるかもしれないって」
「…………」


 それは、レクシャから現状を聞き、ラピスからメストとフリージアの関係を聞いたカトレアは、フリージアを再会するまでずっと考えていたことだった。

 お転婆でお人好しでありつつも、宰相家令嬢として矜持を忘れていないフリージアが、なぜメストを突き放すようなことをしなかったのか。

 そして、フリージアから話を聞いたカトレアは、より一層メストを突き放さなかったフリージアに益々疑問を覚えた。

 (我ながら酷いことを聞いていると思う。けれど、そうでもしないとこの子から本心を聞くことは出来ないから)


「おい、カトレア。それはさすがに……」
「再会した時」
「えっ?」


 カトレアを諌めようとしたラピスの言葉を遮り、静かに口を開いたフリージアは、握られたカトレアの手を優しく離すと酷く苦しそうな顔で視線を落とした。


「3年前。メスト様と再会した時、私のせいで危険な目に遭わせたくないと彼を冷たく突き放したわ」


『関係ないなら取り調べに行かなくて良いですよね』
『ハッキリって迷惑なのでこれ以上関わらないでください』
『それを知って、何だというのですか?』


「そして、再会した後も彼に会う度に対して酷い言葉を浴びせて容赦なく突き放したわ」


 脳裏に蘇る罵声の数々に、小さく拳を握ったフリージアは、今まで抑えて誰にも言えなかった胸の内を2人に明かす。


「分かっていたわ。『このままではメスト様を巻き込むかもしれない』と。だから、彼を突き放さないといけないことも。そして……あなた達にも関わってはいけないと」
「「…………」」


『フリージア、これから会う人達は全員お前のことを知らない人たちだ』


 父親であるレクシャから言われた言葉を思い出し、顔を上げたフリージアは、目の前で眉を顰める2人に悲しそうな笑みを零す。


「けれど、いくら突き放してもメスト様は私に関わろうとした」


『待ってくれ!』
『だったら、俺と一騎打ちしてくれないか?』
『頑張っている君を知りたいんだ』


「どんなに私が酷い言葉を浴びせても、冷たい態度をとっても、メスト様はこんな私の手を握って、1人になってしまった私に寄り添おうと、めげずに声をかけてくれた」


 握っていた拳が段々と震え、再び俯いたフリージアの声が涙交じりの震え声に変わる。


「彼の優しい声を聞くたびに、彼の真剣な顔を見る度に、彼の変わらない真摯な態度を目の当たりにする度に、凍り付いてしまった心が少しずつ温かさ取り戻し、いつしか彼を突き放すことが出来なくなった」


 両手を組んだフリージアは、そのまま額に添えた。


「自分でも愚かなことしていると分かっているわ。それでも……それでも、私は彼がくれる優しさを無下にすることは無理だった」
「フリージア、あなたもしかして……」
「そうよ」


 俯いた顔を上げたフリージアの顔は悔しさと悲しさが入り混じり、淡い緑色の瞳から涙が出そうになっていた。


「私はメスト様のことが好きよ。ノルベルトに何もかも奪われた平民として生き、彼には私に代わる婚約者がいると分かっていても、どうしようもなく彼のことが好きなの。だから、今の私に……メスト様と再会して、彼の優しさに触れてしまった私に、彼を突き放すなんて出来ないの!」


 (思えば、王都の広場で再会した時から私はメスト様のことに想いを寄せていたのかもしれないわね)

 大切してきたものを全て奪われ、自分を匿ってくれた人を失い、それでも家族の約束を果し、目の前にいる大切な人達を守るために、他人と一線を引きつつも、不条理に晒される平民をレイピアとたった1つの魔法で守ってきた。

 そんなフリージアだからこそ、昼間の王都で再会した騎士とて凛々しくいるメストの姿に、恋に落ちてしまった。

 だからこそ、好きな人から与えられる優しさを突き放すことが出来なかった。

 そしてそれは、ラピスやカトレアにも言えた。


「フリージア……」
「だからでしょうね」


 零れそうになった涙を拭いたフリージアは、明らかに無理をしたぎこちない笑みを浮かべた。


「あなた達とこうして面と向かって会おうと思ったのも」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...