木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第6章 待ち望んだ再会と星降る夜の語らい

第367話 踊りませんか?

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 急にメストから褒められ、頬を染めたカミルは咄嗟に顔を逸らした。


「カミル、どうした?」
「い、いえ……突然褒められて、どうしていいか分からないだけです」


 (もう、メスト様ったら! 本当に心臓に悪いことをおっしゃるのだから!)

 高鳴った気持ちを抑えようとギュッと目を閉じて胸に手を当てたカミルを見て、不思議そうな小首を傾げたメストは、ふと頭上に広がる星空に笑みを零した。


「それにしても、ここから見る星空は本当に綺麗だな」
「え、えぇ……そうですね」


 気持ちを落ち着けたカミルは、ゆっくりと満点の星空に視線を移した。

 (ここって、周囲が森に囲まれているから星の瞬きが綺麗に見えるのよね)


「まるで、宝石みたいだな」
「えぇ、本当ですね」


 (本当に、綺麗ね)

 夜に外に出て、満天の星空を2人して肩を並べて見上げる。
 そんな穏やかな時間がメストと過ごせることに、カミルは幸福を覚えていた。
 すると、何かを思いついたメストが立ち上がった。


「そうだ! カミル」
「何ですか?」


 首を傾げるカミルに、嬉々とした表情で靴を履くとカミルに手を差し出す。


「少しだけ、俺と踊ってくれないか?」
「……はい?」


 (今、メスト様、『俺と一緒に踊らないか』っておっしゃった?)


「あの、いきなりどうしたんですか?」


 メストからの唐突な誘いに戸惑うカミルに、満面の笑みを浮かべたメストが夜空を見上げた。


「せっかくこんなに綺麗な星空の下にいるんだ。踊りたいとは思わないか?」
「いえ、全く」


 (本当に、全く思わないのだけど)

 無表情で淡々と返事したカミルを見て、メストは子どもっぽい笑みを浮かべた。


「そうか……第二騎士団にいた頃、星空の綺麗な時はよく野外の大規模訓練場でキャンプファイヤーをして、そこで仲間達と酒を酌み交わしたり踊ったりしていたんだけどな」
「は、はぁ……」


 (というより、男同士で踊っているところをもし他の人に見られたらどうするのかしら?)

 そんなカミルの心の声が届いたのだろうか、笑みを深めたメストが騎士らしくカミルの前で片膝をつく。


「大丈夫だ。こんな真っ暗な森の中を歩くのは、騎士や宮廷魔法師以外にいないから、誰かに見られることはない」
「ですが……」
「何より」


 女性なら誰もが見惚れるような甘い笑みを浮かべたメストは、カミルに手を差し出す。


「俺がお前と踊りたい。ダメか?」
「っ!?」


 (そんな婚約者に向けるような笑顔で『ダメか?』なんて言われたら、断れるわけがないじゃないのよ!)

 再び頬が染まったカミルは、さっと俯くとメストの手におずおずと自分の手を乗せた。


「……わ、私でよければ」
「ありがとう、カミル」


 嬉しそうに笑ったメストは、カミルが立ち上がって靴を履くのを待つと、敷物から離れた場所に連れ出した。
 そして、メストが鳴れたようにカミルの細い腰に手を回すと、頬を赤らめたカミルが恐る恐るメストの腰に手を回した。


「ほう、さすが貴族の屋敷で働いた経験があるのか、妙に様になっているな」
「ま、まぁ、屋敷にいた頃はご子息やご令嬢のダンスの練習相手をさせていただいた時もありましたから」
「ということは、男性パートも女性パートも踊れるのか?」
「えぇ、まぁ……」
「それはすごいな!」
「…………」


 (本当は、『貴族の鏡たる宰相家令嬢たる者、どちらも踊れないといけない!』という母の教えに従って覚えただけなのだけど)

 純粋に褒めてくれるメストに、いたたまれない気持ちになったカミルは、俯いていた顔をそっと上げた。


「っ!?」
「どうした、カミル?」
「い、いえ……久しぶりのダンスなので少し緊張してしまって」


 (ち、近い! 久しぶりとはいえ、こんなに近かったかしら!?)

 顔を上げると、そこにはメストの精悍な顔があり、頬に熱を覚えたカミルは恥ずかしそうに顔を伏せた。
 その様子を緊張していると勘違いしたメストが、安心させようとカミルの耳元で優しく囁いた。


「大丈夫だ。俺も久しぶりに踊るから緊張している」
「えっ?」


 (メスト様も緊張しているの?)

 大きく目を見開いたカミルは、おずおずと顔を上げると、少しだけ頬を赤らめながら困ったように笑っているメストと目が合った。
 すると、カミルの顔を見たメストのアイスブルーの瞳が大きく見開いた。


「っ!」


 (こいつ、至近距離で見ると本当に可愛いな)

 普段の冷たく淡々とした無表情とは明らかに違う、淡い緑色の瞳を潤ませながら不安げな顔で見つめるカミル。
 そんなカミルに、一瞬だけ見惚れていたメストは、誤魔化すように軽く咳払いをすると楽しそうな笑みを向けた。


「それじゃあ、踊るか」
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